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信用調査員らが群がった“倒産情報の錬金術”

2009年11月08日13時58分 / 提供:産経新聞

産経新聞
信用調査員らが群がった“倒産情報の錬金術”
証券取引等監視委員会が入居する合同庁舎7号館=東京・霞が関

 未公表の倒産情報でインサイダー取引を行っていた信用調査会社の社員が、証券取引等監視委員会に業界では初めて摘発された。稼いだ額はわずか数日間で約300万円。債権の焦げ付きを防ぎたい取引先企業などに、倒産情報をいち早くキャッチして伝えるのが主な役割だが、その立場を悪用した不正取引の発覚で、業界への不信感が高まっている。一方、業界では今回の不正が「氷山の一角」との見方も根強い。長引く不況下で、信用調査員が手を染めた“倒産情報の錬金術”とは…。(花房壮)

 ■メールの誤送信… 調査員も“反応”

 「まさか、信用調査業界の人間も監視委の調査の網にかかるとは…」

 昨年11月に負債約600億円を抱えて破綻(はたん)した元東証1部上場の建設会社「オリエンタル白石」(東京都千代田区)の倒産情報を公表前に入手し、株のインサイダー取引を行っていたとして、今年10月末、同社の社員3人ら計7人が証券監視委に金融商品取引法違反で摘発された。

 ただ、その中に、企業の支払い能力や経営状況を専門に調査する民間信用調査会社「東京経済」(北九州市)の調査員1人が含まれていたことが明らかになり、市場関係者の間で波紋を広げたのである。

 「企業の内部情報を日常的に扱う信用調査会社では、情報の目的外使用は厳しく禁じられている。ましてや、インサイダー取引に悪用するなんて論外だ」

 都内の企業幹部はそう吐き捨てた。

 信用調査員の関与が明らかになったオ社株をめぐるインサイダー取引の引き金となったのは、1通のメールの誤送信だった。

 昨年11月26日午後5時、東京地裁に会社更生手続きの申し立てを行ったオ社は午後5時半に公表。だが、その当日、市場が閉まる午後3時までにオ社株の売買出来高が通常に比べて急増していたのである。

 不可解な急増にインサイダー取引のにおいをかぎとった証券監視委は調査に乗り出す。そして、関係者の証言などから決定的な事実を突き止めたのだ。

 オ社の幹部社員は破綻処理に伴う混乱防止に向けた対処方法などをまとめたメールを作成し、会社更生手続きの公表直前に社員に送信する予定だったが、破綻処理の事務作業などに忙殺される中で、誤って前日の25日に社員数百人に一斉送信していたのである。

 このメールで会社が倒産することを知った社員3人と親族2人は保有株各1200株から1万2000株を売却して損失拡大を防いだ。

 一方、信用調査員は、オ社と重機のリース契約を結ぶ業者などを通じてこうした未公表情報を入手。すぐさま、カラ売りで、証券会社から借りたオ社株計3万株を約326万円で売り付け、株価が急落した数日後に買い戻し、差額分として約300万円を稼ぎ出したのである。売り付けた株数は7人の中で最も多く、課徴金額も2番目に多い149万円と悪質さが際だっていた。

 ■不正は氷山の一角か 誘惑は常に

 「倒産情報を使えば、インサイダー取引で確実に儲けることができる。いわば、究極のインサイダーともいえ、その誘惑は常に業界関係者にある」

 大手信用調査会社の調査員はこんな本音を漏らした。

 “究極のインサイダー取引”と言われる理由は、簡単だ。

 オ社のケースで、会社更生手続きが公表されたのは昨年11月26日午後5時半。同日の市場が閉まる午後3時までの終値は109円だったが、公表翌日の27日は59円(終値)と約半分に急落し、上場廃止直前の12月3日には1円(同)になっている。

 「倒産情報を公表前に入手してカラ売りをかければ、公表後には黙っていても株価が下がり、ゆっくりと安値で買い戻せばいい。上昇時に売り抜けのタイミングが難しいインサイダー取引より、よっぽど楽だ」

 “倒産情報の錬金術”のカラクリについて、業界関係者はそう解説してみせた。

 「悪いことだと分かってはいるが、その誘惑に勝てる自信はない」(現役の調査員)

 長引く不況で給与が伸び悩む中、一獲千金をかなえる禁断の手法に手を染める信用調査員は少なくないのかもしれない。

 オ社株をめぐる今回のインサイダー取引をめぐり、証券監視委は摘発した東京経済社員以外にも、業界大手の帝国データバンク(東京都港区)の社員について、同じ倒産情報を公表前に入手し、株を売り付けたとして調査に乗り出していたのである。

 ただ、最終的に株取引の情報源がオ社関係者と認定できず、課徴金の勧告は見送った。

 金融商品取引法では、「会社関係者」から倒産などの重要情報を公表前に得て株取引を行った場合に違法行為となるインサイダー取引が成立するとされる。 「噂レベルの倒産情報が外部から毎日のように寄せられる信用調査会社では、逆に玉石混淆の情報が氾濫している。不正取引があったとしても情報源の特定は文書などの明確な証拠でもないかぎり難しい」

 市場関係者はこう話し、信用調査員によるインサイダー取引の認定の難しさを指摘した。

 東京商工リサーチが10月上旬に発表した平成21年度上半期(4〜9月)の倒産件数(負債額1千万円以上)は前年同期比1・6%減の7736件と上期としては4年ぶりに前年を下回ったが、それでも倒産件数は高水準にある。

 そうした状況を踏まえ、信用調査会社の幹部はこう口にした。

 「この業界にとって、情報イコール金なんだ。ほとんどの信用調査会社で株取引を禁じていない中、インサイダー取引に限りなく近い取引はまだあるに違いない」

 ■企業と信用調査会社の“危うい関係” 問われるモラル

 インサイダー取引の情報源としては、「倒産」以外にも「決算」、「合併」、「増資」など数限りない。そんな重要情報と接する機会の多い信用調査会社の調査員による不正取引の背景に、業界が抱える特殊事情が横たわっていると指摘する声もある。

 企業情報を幅広く収集する信用調査会社では、取引先企業への調査依頼も事業の大きな柱となっている。

 「企業にとって最大の関心事は、取引先の支払い能力の有無にある。黒字経営でも当面の支払いにあてる現金が調達できないために黒字倒産する会社も多く、信用調査会社への依存はますます強まっている」(ベテラン調査員)

 一方、調査対象となる企業側も必死だ。信用調査会社が作成するレポートで評点が低くなれば、不安を抱く取引先が離れていき、経営悪化にもつながりかねないからだ。

 そうした環境の中、「調査対象企業から接待を受け、評点をかさ上げした調査員が社内で処分されたケースは珍しくない」と業界関係者は明かす。

 別の関係者は「大手企業の調査ではまず重要情報が漏れることはない」と前置きした上で、「経営難がささやかれている中小企業では、支払い能力や将来性などについて少しでも高く評価してもらおうと外部に健全さをアピールする未公表の重要情報を漏らす可能性は否定できない」と漏らす。

 つまり、調査対象企業と信用調査会社との間で、企業の内情を歪める“危うい関係”が形成されやすい点を強調したいようだ。

 あらゆる企業情報を商売のネタにする“情報の商人”。一獲千金をもたらすインサイダー取引の誘惑と隣り合わせの日常業務の中、職業人としてのモラルが問われている。

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