「山岡ゆう子」に引き続きスポットをあてるのはサラリーマンの星「富井富雄」。主人公「山岡士郎」らの上司であり、膨大な人数が登場する漫画「美味しんぼ」において一二を争う愛されキャラである。そんな彼に敬意を表して、ここでは“副部長”と呼ばせていただく。

 副部長の初登場は、連載第1話。その記念すべき台詞は『みんな、昨日の部長命令を忘れてないだろうね』である。居丈高にふるまいつつも部長の威光を笠に着る形となっており、副部長の人となりが凝縮された素晴らしい登場シーンだ。

 上司にはへいこらし、部下には厳しいキングオブ中間管理職。ふつうのサラリーマン漫画ならばまず注目されない端役のようなキャラクター設定である。しかしわれらが副部長は格が違う。

 コミックス全103巻を通し、私の心にもっとも響いた副部長の台詞は『部下をイビる楽しみがあればこそ、サラリーマンは一生懸命ゴマすって、出世しようと努力するんじゃないか!』。いっそすがすがしいまでのリーマン根性であり、この台詞を上司も部下もいる場所で言えば、双方から反感を買うに決まっている。だが副部長は嫌われない。副部長は雑魚とは違うのだ。

 美味しんぼを読んだことのある人ならば、副部長の酒癖の悪さはご存知だろう。中間管理職ゆえふだんからストレスが溜まっているのだろうか、酒を飲んでは失態を演じ、進退問題まで発展することもしばしばである。そのつど憐れな副部長を救うのは山岡たち。副部長の人望の厚さがうかがわれる。

 部下に愛されている副部長だが、家庭生活も幸せいっぱい。家では愛する妻のためにせっせと働いている。

 朝はまだ寝ている妻のために食事を用意してから出かけ、時には昼食用の弁当も作っている。妻が起きていれば味噌汁の味を見てもらい、気に入ってもらうまで何度でも作り直す。週末は一週間分の洗濯物をまとめて洗っている。さらには社内でうたた寝し、寝ぼけて『寝顔を見せたりしてごめんね!』と飛び起きたことがあった。これは副部長がふだんから妻より先に起き、後に寝ている証である。

 ここまで妻のために尽くす副部長を不憫だと思ったならば、それは彼の懐の深さを知らないのだ。副部長は恐妻家ではなく、愛妻家である。なぜなら彼は妻を愛しているし、妻も彼を愛している(と少なくとも彼は信じている)。副部長をこうまでさせるのは、恐怖ではなく愛なのである。

 副部長の愛は妻のみに注がれるものではない。なんのかの言っても彼は山岡たち部下を、上司を、そして社を愛しているし、倒れた友人の代わりに会社帰りに居酒屋で働いたり、自分もそうなる可能性があったというだけで見知らぬ中国残留孤児の肉親探しを手伝ったりもしている。目にとまるものすべてに及ぶのではと思ってしまうほど、彼の愛は広く深い。

 愛する者は愛される、この真理に加えて、ほどよいゆるさと地に足のついていないふわふわ感。副部長はけっして出世するタイプではない(現に作中では出世できないことについて嘆く描写が多い)が、周囲を幸せにしてくれる。だからこそ作中の登場人物はおろか、多くの読者からも愛され続けているのだ。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)

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