欧州パッケージツアーの仕掛け人――クオニイ・ジャパン 松日樂優紀さん(後編)
2009年11月07日11時02分 / 提供:Business Media 誠
"高校時代からお世話になっているホストファミリー"
こうした比較的知られることのない分野で、弱冠26歳ながらプロとしての誇りと自負を持って働いている日本人女性がいる。松日樂(まつひら)優紀(ゆうき)さんだ。彼女は、高い商品力で定評のあるスイスの老舗旅行会社クオニイの日本法人クオニイ・ジャパンのスタッフとして、スイスをはじめとした欧州各国への日本からの新しいパッケージツアーを企画・手配するとともに、実際のツアーオペレーションも担当している。前編(※)ではすでに稼働しているツアー案件を成功させるために日々奮闘する姿や、新しいツアープランを商品化するため各種手配に奔走(ほんそう)する様子を中心にお伝えした。後編では、そんな松日樂さんがどのようないきさつで今の仕事を志し、高いプロ意識を持つに至ったのか。また今後の展望についても聞きたいと思う。
※http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0910/30/news004.html
●ダンスと英語に傾倒した学生時代
松日樂さんは1983年、東京都町田市に生まれた。てんびん座のB型。両親はともに地方公務員で弟が1人。
「うちは家族全員がB型という珍しい家庭で、みんなマイペースでゴーイングマイウェイな性格なんですよ。私がいつも好きなことを精一杯することができるのは、好奇心とチャレンジ精神旺盛な家族のおかげです」
小学校4年生からは中学受験のため、学習塾に通った。
「でも、都立八王子東高校の文化祭に行った時、4歳年上のいとこがダンス部でパフォーマンスする姿に憧れて、『この学校に入りたい』って思ったんです。『地域で一番の進学校であるこの高校を目指すのであればいいだろう』と両親も賛成し、中学受験は結局やめちゃいました(笑)」
早くもマイペースぶりを発揮した松日樂さんであったが、すでにこの頃から今日の彼女へと結びつくファクターが現れはじめる。
「小学校時代から父の勧めで英会話スクールに通っていましたが、中学2年生の夏休みにカナダへ家族旅行に行ったんです。その時の現地ガイドさんが英語でテキパキと仕事をする姿をカッコイイと思って、それ以来、英会話にさらに熱心に取り組むようになりました」
志望通り八王子東高校に進学した彼女は念願のダンス部に入部、ジャズダンスに傾倒する。
「ダンス部の活動に力を入れつつ、同時に高校3年間ずっと(英会話スクールの)イーオンに通いました」
その通い方は、実に松日樂さんらしいものだった。普通の受講生であれば、英会話スクールのカリキュラムを真面目に消化することだけを考えるだろうが、彼女は違ったのである。
「毎回、授業開始の2時間くらい前にスクールに行き、ロビーのソファに座って高校の英作文や長文読解などの宿題をやっていました。分からないことがあれば、タイミングを見計らって先生をつかまえて、英語で質問していました。そうすれば、授業前にも講師といっぱい英語で話せるし、学校の英語の勉強にも役に立つ。おかげで授業だけでは得られない会話力が身についたと思います。とっても良い先生方に恵まれてラッキーでした」
海外への留学やホームステイも、高校時代に体験したのだろうか?
「はい。高校2年生の夏休みに、ロンドンにホームステイに行きましたが、とても素晴らしい体験でした。そのホストファミリーとは、今でもお付き合いしています」
こうした努力が功を奏して、英語の実力はめきめき上がっていき、高校3年生に上がる頃には「(もう1カ国語マスターして)トリリンガルになる!」と宣言するほどだったという。
●上智大学外国語学部からロンドンのツーリズム専門学校へ
では、志望大学も語学を生かす方向で?
「はい。『国際的といえば上智』『外国語といえば上智』という圧倒的な憧れが自分の中にあって、それで自然と上智大学が第1志望の大学になりました。中学時代の旅行以来好きだったカナダの公用語が英語のほかにフランス語だということ、また国際機関に関心があったことから外国語学部フランス語学科を目指しました。念願かなって合格することができ、はりきって入学しましたが、初めて挑戦する新しい言語の習得にはやはり大変な努力を要しました。1年生のころは毎週月曜にテストがあるおかげで週末に遊ぶ余裕なんてほとんどないくらいでした。でも、先生方の厳しくも温かい指導のおかげで、日に日に確実に力をつけていけたと感謝しています。フランス語上達と旅行の目的を兼ねて、休暇も有効に利用しました。1年生の夏休みにカナダのモントリオールでホームステイ、翌年の春休みにはパリに1カ月滞在しました」
大好きなジャズダンスはどうしたのだろうか?
「実は1年生のころは余裕がなく、一度は断念したんです。でも、やはり物足りなさを感じ、2年生になってからサークルに入り、ダンスを再開しました」
フランス語学習がメイン、ダンスがサブという大学生活を送っていた松日樂さんだが、3年生になって予想外とも言える行動に出る。
「私は確かにフランス語学科に入学しましたが、それでも不思議と『留学先は必ずしもフランスでなくてもよいのでは』と心のどこかで思っていました。そして、自分は将来的にはどこか1つの国に定住するというよりは、できる限りいろんな国や地域に行き、多くの異なるものを見たいのだと気がつきました。昔から世界地図を眺めるのが大好きでしたし……。それで、そういう自分の嗜好(しこう)に合う勉強がしたいと思って、いろいろ考えたんです。正直なところ、初めは国際関係論を学びたかったのですが、いざ始めてみようと思ったら、その時はあまりピンと来なくて、同じように世界のことを広く学ぶことができ、また、より興味と実感を持つことができた『ツーリズム』を学ぼうと思い至りました」
21世紀に入ったころから、世界のツーリズムには新しい風が吹き始めていた。都市と農村の交流のため、農場で休暇を過ごす“アグリツーリズム”などに代表されるような体験型観光として、ツーリズムをとらえ直そうという動きが盛んになっていたのだ。そういう時代の潮流を考えると、松日樂さんの着眼点は鋭かったとも言えるだろう。
「大学3年生の時、1年間の予定でロンドンのツーリズム専門学校に留学したんです。滞在は基本的にホームステイで、特に後半の半年間は高校時代にホームステイさせてもらったファミリーにお世話になりました。滞在中に私の家族が日本から遊びに来た時には、家に招いて自慢の手料理を振る舞ってくれて、今では家族ぐるみで仲良くしています。異国の地で心から信頼できる人たちに出会えたことは幸運ですね」
ロンドンでは具体的にどんなことを勉強して、どんな成果があったのだろうか?
「英国の旅行業界の専門知識を学びました。その結果、欧州だけでなく世界のさまざまな方面の地理や文化に詳しくなり、ビジネス英語も上達したと思います」
●英国で働きたいという思い、そしてクオニイとの出会い
「ロンドン時代、休暇中の楽しみは何といっても旅行で、欧州各国を旅して回りました。英国国内はもちろん、ドイツ、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、フランス、アイルランド、イタリア、スペイン……、全部ユースホステルに泊まって学生ならではの旅を楽しみました」
上智大学で専攻しているフランス語はどうなったのだろうか?
「会話力を落とさないように、ロンドンでもフランス語のレッスンを受けていました。そして、専門学校の課程が終了した後、フランスのシャンベリーの語学学校に行って、1カ月間レッスンを受けました」
シャンベリーとは? それになぜ?
「スイスとの国境に近い小さな街なのですが、友人からの絵葉書にシャンベリーの風景が描かれていて、そのカワイらしい雰囲気が気に入って、直感でここにしようと思ったんです(笑)」
楽しい時間というものは、いつでもあっという間に過ぎていくもの。帰国が近づいてきたころ、松日樂さんは「このまま英国に残って働きたい」と思っていた。
「でも、『上智大学をきちんと卒業した上で、2〜3年社会勉強を積んでからの方が良い』とアドバイスしてくださる方がいたんです。そして、帰国後のアルバイト先としてクオニイ・ジャパンを紹介してくださったんです」
帰国し、上智大学に5年生として戻った松日樂さんだったが、留学前にすでにほとんどの単位は取得済みだったという。
「大学の授業は週に2回のみでした。1つはゼミ。そしてもう1つは学芸員実習です。私は西洋美術が好きで、1年生のころから美術史系の授業をたくさんとっていたので、それを生かして学芸員の資格を取得しました。ちなみに好きな画家はマティスです。授業の時間以外は、クオニイに週5日通って仕事をしていました」
●これまでを振り返っての今後への展望
上智大学卒業と同時にクオニイ・ジャパンの正社員となった松日樂さん。その後の活躍ぶりについては前編で詳述した通りである。これまでにツアー案件として扱ってきた国はスイス、ドイツ、フランス、オーストリア、ハンガリー、チェコ、オランダ、ベルギー、英国……。現在、業務のために勉強中なのがクロアチア、スロベニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、マルタ……。そして彼女自身がこれまで実際に訪問した国は英国、フランス、ドイツ、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、アイルランド、スペイン、イタリア、オーストリア、ハンガリー、チェコ、スロバキア、スイス、トルコ、さらには米国、カナダ、メキシコ、南アフリカ、ボツワナ、ジンバブエ、韓国、マレーシア、台湾、タイ、マカオ、オーストラリア……。今、改めて振り返ってみて、松日樂さんは自身のこれまでのキャリア構築のあり方について、どんな感想を持っているのだろうか?
「帰国直後の自分にとっては、クオニイ・ジャパンでの仕事こそが最高の適職だったと思います。でも、そろそろ次のステージを考えたいと思っているんです。今くらいのタイミングで何らかのステップアップをすることが当初からの希望でもありましたから」と意外とも思える言葉を口にした。
「もし、社内で異動するのであれば、海外のオフィスに行きたいと思っています。また、転職ということを考えるのなら、通訳、学芸員、語学講師、国際機関職員などを考えていますが、ぴったり来るものはまだ自分にも見えていません。また、私自身のこれまでの経歴には、大学の友人たちのように『リクルートスーツを着て就職活動をする』という経験が欠けていますよね。自己分析も業界研究もきちんとやったことがありませんが、今になってその重要性を痛感するときがあります。だから、そういうことも、大学生の時のようにはいきませんが、何らかの形でやっておきたいなと。さらに言えば、これは国際機関に就職する場合の必須の要件になるんですが、大学院で国際関係論を学ぶことも、ずっと興味がありながら踏み込めなかった分野なので、できればチャレンジしたいと思います」
●松日樂さんの思いの真意は?
彼女の発言には2つの真意があるように筆者には感じられた。
第1は、ツーリズムのバックヤードではなく、あくまでも海外の現場で仕事をしたいという強い想い。後編をご覧になられた方にはお分かりいただけると思うが、松日樂さんはさまざまな国に行って、そこで良い出会いに恵まれている。そして、勉強であれ仕事であれ人生の大きな方向性であれ、その出会いを通じて、さらにアップグレードしたステージに到達できていることは明らかである。それは、彼女の人間的な魅力や才能のなせるワザなのであろうが、行く先々で彼女の違った側面に光が当たり、そこから彼女の新しい可能性が次々に引き出されていることが実感されるのである。自分の未知の可能性、それもあらゆる可能性を引き出していきたい。そのためには、できる限り、あらゆる国に実際に足を運ぶことが必要……、そういう自分自身の特性を明確に自覚し得ているからこそ、「世界のすべての国・地域に行きたい」と彼女は言うのだろうと筆者は思う。
第2は、彼女が「バランスの取れた人間的成長」を念願しているということ。今さら自己分析の必要もないほど、自分という人間の特性を把握し得ている彼女であるが、上記のように普通の大学生のような「自己分析・業界研究」をして「就活」をしたいという。そして、一度は断念した国際関係論を学ぶために大学院にも入りたいという。その真意は「蛸壺型の偏った人間にはなりたくない」という思いにあると筆者は感じた。1人の日本人女性として、ほかの女性の多くが経験するような苦労もちゃんと味わい、そういう人たちと同じ目線を失うことなく生きていきたいという思い。そして、苦手だからといっていつまでも逃げ回るのではなく、機会を見つけてそれを克服していきたいという思い。そういうものを、彼女の中に感じないではいられないのである。
●楽しみはタヒチアンダンス
人生に対する真摯(しんし)な姿勢が感じられる松日樂さん。プライベートでの現在の楽しみは、タヒチアンダンスのレッスンだという。
「毎週水曜日の夜に通っているタヒチアンダンスのレッスンが平日の一番の楽しみですね。踊りはどのジャンルも好きで、ほかにサルサやベリーダンスも少しやっています。ダンスは音楽を通じて異文化に触れることもできるので、鑑賞を含めて大好きです」
松日樂さんの目は常に世界へと向けられている。それゆえ、日本国内における一時的な流行には流されることがない。しかし、あくまでも自分の信じる道をひたすら歩もうとする姿勢は、日本の大方の20代女性とはいささか趣きを異にする生き方に思える。そういう意味で、少なくとも日本国内にあっては、時として「孤独の陰」を感じることもあるようだ。世の中がどのように変化していこうとも揺らぐことのない「自分」というものを持った人材は、男女を問わず、現在の日本にとって貴重な存在と言えるだろう。彼女のようなたぐいまれな職務経験を積んだ女性であればなおのこと、それを生かしてさらなる発展を遂げてほしいと筆者は思う。松日樂優紀さんのこれからの人生に幸多からんことを!【嶋田淑之】
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