独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)統括研究員。
専門は労働法、労働政策。
「クビ代1万円」すら「ムダ」ですか?
2009年11月04日21時42分 / 提供:EU労働法政策雑記帳
本ブログの各エントリに付けられたブックマーク数で、昨日の湯浅誠さんのやつが一気に200件を突破してしまいましたが、それまでの1位は「クビ代1万円也」の96件でした。
http://b.hatena.ne.jp/entrylist?sort=count&url=http%3A%2F%2Feulabourlaw.cocolog-nifty.com%2Fblog%2F
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/post-fb88.html(クビ代1万円也)
ここでは、解雇自由化論を批判する観点から、現在都道府県労働局の窓口で行われている個別労働紛争解決制度の実態をいくつか引用して、日本の解雇の実情を説明しましたが、なかなかその辺の感覚が世間に伝わらず、依然として「日本では解雇も労働条件の不利益変更もほぼ不可能」などと大まじめな顔をして説く人々の群れが絶えないようです。
一つにはそういう世間の無理解を正すという意味もあり、現在わたくしは個別紛争処理事案の分析というのをやっています。この件については、7月に経営法曹会議で講演したときにちらりと触れているので、そのときの発言を引用しておきますと、
http://homepage3.nifty.com/hamachan/zadankai.html(正社員及び非正規労働者の労働契約の終了にまつわる法的問題の現状と展望)
>世の中では、解雇とか雇止めというのは、あちこちで山のように行われているわけです。そういったところでは、金銭で解決どころか、びた一文も払わない形でそのまま雇用が終了するというのは幾らでもある。
私は、今、労働政策研究・研修機構におりまして、今年度のプロジェクト研究として、各地方の労働局でやっている個別紛争の斡旋事案の中身を分析し始めています。まだ事案を見始めたところですが、実にさまざまであるというのは当然ですが、解決の仕方も実にさまざまで、もっと言うと、基準は何もない。斡旋というのは本来そういうものだといえば、会社側が嫌だと言えばそれまでの話なので、当然と言えば当然ですが、これはどう考えても会社がひどいなと思うものでも、本当に5万円、6万円のはした金で解決しているものもあれば、こんなひどい労働者に金を出すのかというようなものに40万円、50万円払ったりしている。
そういう問題意識で現在分析をしているところなのですが、一昨日の日経の記事は、どうも民主党政権はそういう問題意識などムダの極みであると考えているのではないか、という疑いを抱かせるのに十分なものでした。
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT3S0200P%2002112009&g=MH&d=20091102(行刷会議の事業仕分け、3省63事業ムダ洗い出し 雇用機構など )
>2010年度予算編成に向けて政府の行政刷新会議が無駄を洗い出す対象事業のうち、厚生労働、経済産業、外務各省の所管分が2日、明らかになった。
例によって、官僚のやっていることはデフォルトとしてムダであるに違いない、という強固な信念に立脚しておられるのではないかとおぼしき「事業仕分け」だの「ムダ洗い出し」だのといった表現が飛び交っていますが、このリンク先には具体的な「ムダ」扱いされようとしている事業名は、(新聞政治部が脊髄反射的に「悪」とラベルを貼り、職業訓練とか雇用促進住宅とかに関する社会部記者の感覚は一切反映されない)雇用・能力開発機構しか載っていません。
そこで、一昨日の日経夕刊をじっくり見てみると、なかなか素敵な「ムダ」の数々が並んでいます。その中に、
>個別労働紛争対策の推進
というのもちゃんと挙げられています。
個別労働紛争の解決のために国民の税金を使うなどというのは許し難いムダであるようです。
なるほど、「民主党革命」というのは、いきなりクビだと言われたり、パワハラを受けた労働者が思いあまって駆け込んでくる労働相談窓口はムダであると、いわんや経営者にあれこれ助言指導したりするのはムダであると、ましてや両者の間であっせんを試みて、少ない額でもなにがしかの金銭解決につなげていくことなど、言語道断のムダ遣いであると、こういうことを言わんとしているのでありましょうか。
確か、民主党のマニフェスト(正確には「政策集INDEX」では、「個別の労使紛争に対する適正、簡便、迅速な紛争解決システムの整備促進を図ります」(32ページ)というのもあったはずで、一体どういう考え方に立ってものごとを進めようとしているのか、理解に苦しむところでもあります。
「行政刷新」というのは、誰にとってのどういう「ムダ」を排除しようとしているものなのか、仙谷大臣と、とりわけ連合総研から行政刷新会議に参加されている草野理事長には原点に立ち返った議論をお願いしたいと切に念じております。なにしろ、
>担当するワーキンググループ(WG)が2日午後から各省からの聞き取り調査に着手し、今月半ばに第1次報告をまとめたい考えだ。
だそうなので、へたをすると、わたくしの研究がのろのろと亀の歩みをしている間に、肝心の個別紛争解決制度自体が、「ムダ」だと烙印を押されて、研究対象が自動的に消滅してしまいました、という顛末にならないとも限りませんので。
・記事をブログで読む
http://b.hatena.ne.jp/entrylist?sort=count&url=http%3A%2F%2Feulabourlaw.cocolog-nifty.com%2Fblog%2F
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/post-fb88.html(クビ代1万円也)
ここでは、解雇自由化論を批判する観点から、現在都道府県労働局の窓口で行われている個別労働紛争解決制度の実態をいくつか引用して、日本の解雇の実情を説明しましたが、なかなかその辺の感覚が世間に伝わらず、依然として「日本では解雇も労働条件の不利益変更もほぼ不可能」などと大まじめな顔をして説く人々の群れが絶えないようです。
一つにはそういう世間の無理解を正すという意味もあり、現在わたくしは個別紛争処理事案の分析というのをやっています。この件については、7月に経営法曹会議で講演したときにちらりと触れているので、そのときの発言を引用しておきますと、
http://homepage3.nifty.com/hamachan/zadankai.html(正社員及び非正規労働者の労働契約の終了にまつわる法的問題の現状と展望)
>世の中では、解雇とか雇止めというのは、あちこちで山のように行われているわけです。そういったところでは、金銭で解決どころか、びた一文も払わない形でそのまま雇用が終了するというのは幾らでもある。
私は、今、労働政策研究・研修機構におりまして、今年度のプロジェクト研究として、各地方の労働局でやっている個別紛争の斡旋事案の中身を分析し始めています。まだ事案を見始めたところですが、実にさまざまであるというのは当然ですが、解決の仕方も実にさまざまで、もっと言うと、基準は何もない。斡旋というのは本来そういうものだといえば、会社側が嫌だと言えばそれまでの話なので、当然と言えば当然ですが、これはどう考えても会社がひどいなと思うものでも、本当に5万円、6万円のはした金で解決しているものもあれば、こんなひどい労働者に金を出すのかというようなものに40万円、50万円払ったりしている。
そういう問題意識で現在分析をしているところなのですが、一昨日の日経の記事は、どうも民主党政権はそういう問題意識などムダの極みであると考えているのではないか、という疑いを抱かせるのに十分なものでした。
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT3S0200P%2002112009&g=MH&d=20091102(行刷会議の事業仕分け、3省63事業ムダ洗い出し 雇用機構など )
>2010年度予算編成に向けて政府の行政刷新会議が無駄を洗い出す対象事業のうち、厚生労働、経済産業、外務各省の所管分が2日、明らかになった。
例によって、官僚のやっていることはデフォルトとしてムダであるに違いない、という強固な信念に立脚しておられるのではないかとおぼしき「事業仕分け」だの「ムダ洗い出し」だのといった表現が飛び交っていますが、このリンク先には具体的な「ムダ」扱いされようとしている事業名は、(新聞政治部が脊髄反射的に「悪」とラベルを貼り、職業訓練とか雇用促進住宅とかに関する社会部記者の感覚は一切反映されない)雇用・能力開発機構しか載っていません。
そこで、一昨日の日経夕刊をじっくり見てみると、なかなか素敵な「ムダ」の数々が並んでいます。その中に、
>個別労働紛争対策の推進
というのもちゃんと挙げられています。
個別労働紛争の解決のために国民の税金を使うなどというのは許し難いムダであるようです。
なるほど、「民主党革命」というのは、いきなりクビだと言われたり、パワハラを受けた労働者が思いあまって駆け込んでくる労働相談窓口はムダであると、いわんや経営者にあれこれ助言指導したりするのはムダであると、ましてや両者の間であっせんを試みて、少ない額でもなにがしかの金銭解決につなげていくことなど、言語道断のムダ遣いであると、こういうことを言わんとしているのでありましょうか。
確か、民主党のマニフェスト(正確には「政策集INDEX」では、「個別の労使紛争に対する適正、簡便、迅速な紛争解決システムの整備促進を図ります」(32ページ)というのもあったはずで、一体どういう考え方に立ってものごとを進めようとしているのか、理解に苦しむところでもあります。
「行政刷新」というのは、誰にとってのどういう「ムダ」を排除しようとしているものなのか、仙谷大臣と、とりわけ連合総研から行政刷新会議に参加されている草野理事長には原点に立ち返った議論をお願いしたいと切に念じております。なにしろ、
>担当するワーキンググループ(WG)が2日午後から各省からの聞き取り調査に着手し、今月半ばに第1次報告をまとめたい考えだ。
だそうなので、へたをすると、わたくしの研究がのろのろと亀の歩みをしている間に、肝心の個別紛争解決制度自体が、「ムダ」だと烙印を押されて、研究対象が自動的に消滅してしまいました、という顛末にならないとも限りませんので。
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