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LIBRIeとKindle

無駄遣いを自覚しつつSONY Readerに続いてKindleも買った。タッチパネル中心でシンプルなSONY Readerに対してボタン中心のKindleで随分とUser Experienceが違う。例えば辞書を引く場合にKindleで十字キーを使って辿るよりはSONY Readerで単語をタッチする方が簡単だが、タッチパネルは多少テカるし、指で触ると画面が汚れるのが気になるがペンを出すのは面倒だ。KindleのQWERTYキーボードはショップや検索とか駆使するには便利かも知れないが、僕の使い方では出番がない割に場所をとりすぎる。メールの受信だけでなく送信もできると、もっとキーボードを使うのかも知れない。
大根田CFOが考える両者の違いは、(1)日本では、電子書籍端末より携帯電話を使って文字や画像を見る文化が強いこと、(2)出版業界が日米でかなり違い、日本では新刊がなかなか電子書籍化できないなどの問題があったこと――など。「タイミングと投入する導入する場所についての失敗もあったのではないか」と反省する。
ソニーの「LIBRIe」はなぜ“日本のKindle”になれなかったのか - ITmedia News
ところで大根田氏の分析は半分正しく、半分は外れているようにみえる。日本で新刊の電子書籍化が難しかったことが問題であることは確かだが、ケータイで文章を読んでいる層とKindleやSONY Readerの利用者層は大きく異なるのではないか。日本に於ける電子書籍流通はユーザー層を固めないまま軽めの本からデジタル化して、それらを雑多な並べ方をしたから中高年の本読みにも若者にも引っかからなかったのではないか。

もっとユーザー層を絞り込み、そのライフスタイルに対してだけでもカバレッジを上げていく必要があったのではないか。譬えでいうと今の日本の電子書籍はiTunes以前の音楽配信と似ている。いつまで続くか分からないDRMに守られた使い勝手の悪いコンテンツが、少ない数だけ雑然と並んでいるのだから手を出しにくい。昔リナザウで『蹴りたい背中』を買ったことがあるが、リナザウはもう何年も電源を入れていないし、あれに残っているXMDFを他の端末で読めるか定かではない。あの時は決して電子ブックで買いたかったのではなく、空前の需要で紙の本を買えなかったのだった。

SONY Readerでは試しに"The Lost Symbol"を買った他、大きめのPDFやらGoogle Booksをダウンロードしたのに対して、KindleではTechnology ReviewやTimeと、IHTとSan Jose Mercury Newsをお試し購読した他、仕事で使う"Robert's Rules Of Order Newly Revised In Brief (Roberts Rules of Order (in Brief))"、Googleの著作権担当による新刊"Moral Panics and the Copyright Wars"を購入。似たようなデバイスでも導線如何で読みたくなるものは随分と変わるものだな、と驚いた。

SONY Readerを買った直後にKindleの日本展開を知って驚いたが、買おうと思った理由のひとつはKindleでのコンテンツ購入の概念が非常にクラウド的と感じたからだ。買った本はKindleでもiPhone(持ってないけど)のKindleアプリでも、年内にPC版のリーダーでも読めるようになる。Amazonが潰れない限り、Amazonで買ったKindle Bookを、自分が使うどの端末でも読めるのだとすると、それは電子ブックというビット列を買っているのではなく、Amazonのクラウド上に本棚を預け、少しずつ本を揃えていくような感じか。

数年前リナザウで買った『蹴りたい背中』と違って、ちゃんと残り続ける書籍へのアクセス権であって欲しい。で、本棚を預けるという感覚で考えた場合に、事業者としてWeb書店を信じるのか、機器メーカーを信じるのか、いずれ本屋と電子ブックリーダーの垂直統合関係を見直すべきか、みたいなところは議論になりそうだ。本棚を預けるとなるとコンテンツの価格やカバレッジだけでなくサービスの永続性が問われるから、個々の機器メーカーが活字コンテンツのアグリゲーターとしてAmazonやBNと伍していくことは難しいと感じる反面、機器メーカーの立場でone of themとして書店にぶら下がったところで機器の付加価値をつけ難いとも感じる。

これから日本で電子ブックが流行り得るかという点について考えあぐねている。米国でKindleが受け入れられた背景として、出版社がコンテンツの電子化に前向きで、新聞の宅配制度がなく、本の紙も印刷も装丁も粗雑だからeInkのディスプレイの方が読みやすいとか諸々の理由がありそうだ。日本に於ける書籍のデジタル流通は、このところ版元の経営不安が噂され、取次など鍵となるプレーヤーがその気になれば一気に進む可能性があるものの、このところの印刷会社による投資ほか諸々の動きをみている限り、彼らがプレーヤーとしてどこまで張ってくるかにかかっているように思われるし、それはAmazonのような黒船やSONYをはじめとした機器メーカーによる外部からの働きかけだけでは限界があるようにもみえる。

書籍のカバレッジを一気に広げるのは難しいとして、特定セグメントからでも始められないものか。このところ各社が力を入れている新書やら、文藝春秋はじめA5版の総合雑誌とか、Kioskで売ってるビジネス雑誌を電子ブックに統合できるだけでも十分なメリットがある。高齢者向けに大きな字で読めるとか読み上げサービスとか、年間電子購読&読者との関係強化みたいなかたちで始められないかなあ。それでは市場が小さすぎる、のだろうか。

お試し購読した新聞について、国際ニュースはIHT、シリコンバレー事情はSan Jose Mercury Newsが魅力的ではあるが、課金前に解約することになりそうだ。新聞のニュースはWebなら無料で読めるし、Kindleは持ち歩けるところがメリットではあるのだが、BBCやCNNのポッドキャストを無償で落とせるところに月10ドル以上は払い難い。それでも日本の新聞と比べたらずっと安いのだが、まだ日本で仕事するサラリーマンとして、日経新聞の購読を止める踏ん切りはつかない。

Technology ReviewとTIMEは気に入ったら続けるし、Foreign Affairsもいいかな、と。Economistは日本からは買えず、意外なところでHarvard Business Reviewは米国も含めて売ってない。Amazonで検索しても私が昔読んだ本は有名どころでも結構な割合で引っかからず、30万冊といってもこんなものかと驚いた。ちょっと古い本はあまり売れないから後回しになっているのだろうか。

電子ブックは機器メーカーが日本で先行したものの撤退・欧米に進出、ネット書店のAmazonが抜き去り、リアル書店のBNが追うなど、iPodの時以上に興味深い展開をみせている。ディスプレイ・デバイスとしてeInkの優位性が定着するのか、他社の電子ペーパー技術と競うのか、液晶や有機ELなど他技術も浮かび上がるのか、という論点もあるし、コンテンツ・アグリゲーターは引き続き垂直統合モデルか、水平分業でAmazon包囲網をつくる動きが出てくるのかという点も興味深い。

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[ICON]雑種路線でいこう

雑種路線でいこう

楠正憲

(株)マイクロソフト技術標準部部長。

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