不倫のため…偽装結婚に手を染めた共産党町議
2009年11月03日10時37分 / 提供:産経新聞
「面倒見の良い、気さくな町会議員さんだったのに…」−。男を知る町民は、みな口をそろえて驚いた。栃木県那珂川(なかがわ)町で10月、タイ人の女と日本人男性の偽装結婚を斡旋(あっせん)したとして、現職の共産党町議が逮捕・起訴される事件があった。「社会的弱者の保護」を訴え、5期にわたって町民の代表を務めてきた町議。20歳も年下のタイ人の女との不倫関係を続けるために、弄(ろう)した策とは…。(是永桂一)
公正証書原本不実記載・同行使罪で起訴された那珂川町小口、元町議、大森富夫被告(62)=10月14日付で町議辞職=はもともと、東京の共産党本部で専従職を12年ほど務めた経験を持つ。
しかし、30年近く前に、妻の実家を継ぐために栃木県に移住し、那珂川町が合併する前の旧馬頭町で町議に当選。町合併後も当選を重ね、地元では「気さくでまじめな町会議員さん」として知られていた。
そんな「町会議員さん」が10月8日、公正証書原本不実記載・同行使容疑で突然、栃木県警に逮捕された。
逮捕容疑は平成16年10月、タイ国籍で宇都宮市中今泉、飲食店従業員、マシコ・ヂャンチャラポン被告(42)=同罪で起訴=と無職男性(51)との結婚を偽装し、旧馬頭町役場に婚姻届を提出したというものだった。
「町会議員さん」は、なぜ「タイ人女性」の偽装結婚という犯罪に手を染めていったのか。きっかけは8年前の平成13年にさかのぼる。
JR宇都宮駅の東側に広がる栃木随一の歓楽街。タイ人女性がホステスとして在籍するスナックに客として訪れた大森被告は、調理場で働く1人のタイ人女性に目を留めた。それがヂャンチャラポン被告だった。
きらびやかな衣装と濃厚な香水に身を包んだホステスたちとは違い、厨房(ちゅうぼう)で、地味な格好で汗を流していたヂャンチャラポン被告に大森被告は惹(ひ)かれ、声を掛けた。
「社会的弱者」のために活動する町会議員が、祖国から遠く離れた異国の地で働く労働者の声に耳を傾けるのは当然のようだが、目的はそれだけではなかったようだ。
県警によると、大森被告は、ヂャンチャラポン被告に“肉体関係”を求め、何度も関係を重ねるようになっていった。初めはそのたびに現金を渡す関係だったが、やがてそれだけではなくなった。
「“ソーペーニー”(売春婦を表すタイ語)からすぐに“ミアノーイ”(愛人を表すタイ語)になりました」
県警によると、ヂャンチャラポン被告はそう供述しているという。
当時、ヂャンチャラポン被告には、別居中の別の日本人の夫がいたが、そんなことはお構いなしだった。捜査関係者によると、大森被告は、ヂャンチャラポン被告に宇都宮市内のアパートを構えさせ、家賃の一部も支払ってやった。月3、4万円の“お手当て”を渡し、家業の農業で収穫した米なども与えた。ヂャンチャラポン被告がタイに一時帰国するときはその都度、10万円を超えるせんべつを渡していたともいう。
そんな2人に“危機”が訪れたのは6年前だった。ヂャンチャラポン被告の夫が死亡し、同被告の日本での在留資格が問題になったのだ。
ヂャンチャラポン被告は、新しい日本人の夫ができない限り、タイに帰国しなければならなくなってしまう。しかし、家庭のある自分は結婚するわけにはいかない…。悩んだ大森被告がたどり着いた結論は、愛人を別の男性と偽装結婚させることだった。
「ちょっと日本人男性を紹介してあげるよ。あなたがお金を払って」
ある日、大森被告は、こう言って、ヂャンチャラポン被告に「偽装結婚」を持ちかけた。
大森被告が、不倫相手の偽装結婚の相手に選んだのは、同じ那珂川町内に住む男性(51)だった。
捜査幹部によると、この男性は社会にうまく適応できないタイプで、10年ほど前、身内からも見放されて生活に困窮し、大森被告を頼りにしてきた。大森被告は、町営住宅を紹介し、所有する田んぼの稲作や共産党のポスター張りなどの手伝いをさせては、その都度、少額の“小遣い”を渡していた。その男性を“利用”し、偽装結婚に協力させることにしたのだった。
平成16年10月16日。大森被告とヂャンチャラポン被告、それに「夫」役の男性が集まり、打ち合わせをした上で、旧馬頭町役場に婚姻届を提出した。ヂャンチャラポン被告はタイ人女性仲間の夫で、違法タクシーを営業する赤石悦司容疑者(68)=同容疑で逮捕=にも、偽装結婚の証人役として、協力させた。
捜査幹部によると、ヂャンチャラポン被告らが、「夫」役の男性に渡していた報酬は月約1万5千円。偽装結婚ブローカーが介在すると、名義を貸した相手には月額で5万円ほどの支払いを要求されるため、破格の“安さ”だった。
「大森被告は、家族にも見放された男性を、何かにつけて面倒を見ていたようだった。しかし、それは今から考えると、自分のいいように利用していただけなのではないか」。ある町関係者は話す。
しかし、“安い”報酬しか渡さなかった報いか、偽装結婚はひょんなことから発覚する。
今年9月18日。生活に困った「夫」役の男性が、那珂川町役場に生活保護受給を申請したことに、町職員が不審を抱いた。
「奥様が働いていて収入があるので、受給対象に該当しません」と受理を拒む受付窓口の職員に、男性はつい、「妻とは実は一緒に住んでいません…」と打ち明けてしまったのだった。
これをきっかけに町側が県警に相談し、偽装結婚が発覚した。
県警は10月4日、ヂャンチャラポン被告を逮捕。続いて大森被告、赤石容疑者も逮捕した。公正証書原本不実記載・同行使罪の公訴時効(5年)の直前だった。
県警によると、大森被告は逮捕直後、偽装結婚への関与を否認していたが、最近は「(ヂャンチャラポン被告と)関係を続けるためにやった」などと認めているという。
現役町議逮捕のニュースに、小さな町は揺れた。「やったことが事実ならとんでもない偽善者だ」。怒りが収まらない町民も多い。
「町議の研修旅行やレクリエーションなど、費用が必要な行事を、突如キャンセルすることが多かった。今思えば、不倫で費用がかさんでいたのだろう」。ある町議は、こう皮肉った。
不倫相手を日本につなぎとめるために偽装結婚に手を染めた大森被告。共産党町議として弱者救済を掲げながら、自ら手を差し伸べた“弱者”を、不正に協力させていた。
男性は現在、体調を崩して病院に入院しており、逮捕もされていない。捜査幹部によると、男性は大森被告らに度々「悪いことだからやめたい。生活保護も受けたい」と頼んでいたが、大森被告は「もうこうなったのだから。あとで(ヂャンチャラポン被告と)一緒に住ませるから」などと説得していたという。
ある捜査幹部はこう語った。
「自分の欲望を抑えきれず、町議という立場で法を犯し、社会的弱者を利用していた。それが、『弱者救済』の理念を掲げた政治活動の“正体”で、何とも許し難い事件だ」
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