『ひぐらしのなく頃に 誓』DVD発売直前インタビュー「制作会社に採用されなくてよかった」原作者・竜騎士07の挫折と下克上
2009年11月01日15時00分 / 提供:日刊サイゾー
コミケでひっそりと売られていた同人PCゲームが次々に他メディアへ移植されて大ヒット──『ひぐらしのなく頃に』で竜騎士07が体験したのは紛れもなく、希有なジャパニーズドリームだ。専門学校卒業後にゲーム制作会社への就職を希望するも、あえなく撃沈。諦念を胸に公務員となった彼を、トップクリエイターへと押し上げる原動力とはなんだったのか? 実写映画が解答編にあたる2作目『誓』で完結。そのDVDが発売を迎えて『ひぐらし』にひと区切りがついたいま、7年間の足跡を訊いた。
──『ひぐらしのなく頃に』原作ゲームの1作目『鬼隠し編』から足かけ7年。小説も映画も完結して、集大成的な年になりました。
竜騎士 まさかこうして7年後にも話題にしているとは思いもよりませんでした。書いているときは無我夢中でしたから......。いま「7年経った」と言われて、驚いています。
──ゲーム、マンガ、アニメ、映画と、メディアを替えつつ発表してきました。
竜騎士 マンガになるというだけで十分だったんですが......。自分の引き出しから出てくるものではなく、他のメディアで新たに作られる『ひぐらし』が非常に楽しみでした。
──映画とサウンドノベルである原作の違いは?
竜騎士 『ひぐらし』は『雛見沢停留所』という舞台脚本が原案になっている、もともと生身の役者が演じることを想定した物語だったんです。だからサウンドノベル、マンガ、アニメと来て最後に実写映画になったのは、実は原点回帰なんですね。7年かけて一周したようで、感慨深いです。
──『雛見沢停留所』のときにイメージしていたものが、今回の実写映画で具現化した?
竜騎士 それはありますね。当時の脚本は若い役者さんしかいない小劇団で演じられることを想定して書きましたから、登場人物は若者だけなんです。映画では大石役の大杉漣さんをはじめ、実力ある大人の方々に演じていただけた。その1点において、確実に私の原案を越えています。実年齢が伴うすごみ、リアリズム、と言いましょうか。それに、まだ祟りが祟りとして説得力があった、昭和末期の空気感をよく再現してくれたと思います。
──『ひぐらし』で訴えたかったこととはなんなのでしょうか。
竜騎士 ひとりで考え込んでしまうと、往々にしてよくない結末に陥りやすい。会話をすることで誤解を解き、よりよい解決方法を見つけるべきだというのが、『ひぐらし』に込められたテーマです。映画『誓』では、狂気に取り憑かれたレナと圭一が学校の屋根の上でぶつかり合う。形式的には凶器を交錯させる「バトル」ですが、実は、あれは心と心をぶつけ合う「対話」なんです。本音を思う存分さらけ出した結果、レナの呪縛が解けた。そこが大切なところです。
──それまでの場面とは変わって、怖さやグロさがないですね。
竜騎士 ほんとうに恐ろしいのはむしろ、レナがひとりで膝を抱き、悶々と悩んでいるシーンなんです。暗い妄想が広がっていく。しかし思い悩んでいるのがどんなに物騒な事であっても、口に出して相手にぶつければ、残忍な殺し合いにはならない。ナタとバットを重ねながら、狂気を氷解させるべくコミュニケーションを図っていた。映画の前作では圭一がやはりひとり悩み、陰惨な結末を迎えますが、『誓』はそうはなりませんでした。
──起こった惨劇をやり直せる。そこが特徴ですね。
竜騎士 ゲーム的世界観ですね。ゲームでしか学べないことがあると思っているんです。取り返しのつかないこと、たとえば殺人です。現実に殺人をしたあとにそれを悔いても、反省を活かせない。殺人者の烙印を押され、自分は刑務所のなか。遺族の哀しみが癒えることもないでしょう。人を殺したらどんなによくない事態が待ち受けているかは、ゲームでしか学べないことなんです。「主人公の圭一=プレイヤーである自分」と考えれば、不可逆的な出来事を起こす前に学習できる。その意味で『ひぐらし』は「ゲーム」なんです。
──本来、人は文学や芸術から人生を学んでいたはずなんですが......。
竜騎士 エンターテインメント性が優先されると、痛快さ、爽快さばかりが求められるようになってしまいますよね。勝ち組のヒーローばかりを追体験するようになる。結果として読者はおもしろくない話を読まなくなり、不幸な人の追体験をしなくなる。もし、5年間引きこもった人が就職面接にこぎつけたらそれだけで偉業ですが、辛い人の気持ちを追体験したことがなければ、その感覚は理解できないでしょう。しかしゲームならそれができる。自分だったらどうなるかと、感情移入をする。ゲームはその度合いが高い表現だと思います。『ひぐらし』は選択肢がなく、アクション性のあるボタン操作もありません。けれども、読み終わったあとに議論をして噛みしめるという行為そのものが「ゲーム」だと言えます。
──売らんかな、という要素が少ない『ひぐらし』が、商業シーンが無視できないくらい大きな作品になったことについてはどう思われますか?
竜騎士 正直、好きなものを作っているだけなんですよ。それを結果としてユーザーの方に気に入ってもらえた。だからこれから先も、売れるためにどうすればいいかを考えて作るのではなく、どうやったら私自身が楽しめるかを考えて作り続けたいと思います。方針を変えずに。
──作りたいものを作って受け入れてもらえた、数少ない成功例のうちのひとつなのではないですか。
竜騎士 たしかに、ゴハンを食べていこうと思うシナリオライターの人たちに、好きなものを作れとは助言しづらい。私がいまこうして取材を受けているのも運がよかったからで、決して文才があったからではないのだと、肝に銘じています。好きなものを思い切り書いているから売れているんだと、寝ぼけたことを言うつもりはありません。しかし人に喜んでもらおうと思うと、どうしても顔色を窺った、おっかなびっくりな書き方になってしまう。書いていることそのものが楽しくないと宿らない「すごみ」を得るために、私はこれからも自分が書いていて楽しいものを書くでしょう。自分がその物語の最初の体験者である、と感じでもしなければ、何十万文字も何百万文字も書いていられません(笑)。書くことが楽しいという原点は忘れないようにしたいと思います。
──クリエイターとして立とうと思ったときに、制作会社に就職できなかったのはひとつの「挫折」だったのでしょうか。
竜騎士 私にとっては挫折でしたね。新卒でゲーム制作会社に落ちて。これでダメならこの業界では働けない、と思っていたんですよ。「中途採用」なり「浪人」というあり方すら浮かんでこなかった。クリエイティブな業界を諦めようと公務員になったのですが、2年、3年が経つと、沸々とした思いがこみ上げてきたんです。やはり自分はものを作らなければ生きていけない、と。このままではたとえ死んでも、自分の痕跡が何も残らない。そう気付いたある日、悲しくなって。自分が確かにここにいたという何かを残したいと、焦燥感ともフラストレーションともつかない感情が湧き上がった。20代中盤の頃でした。しかし何を作ったらいいかがわからない。マンガは描いてみたけどダメだったし、アニメとゲームもモノにならなかった。そうした試行錯誤を始めてから何年も経って、ようやく出会ったのが舞台脚本でした。それも実らず、最後にはサウンドノベルに辿り着いた。だからいきなりサウンドノベルの『ひぐらし』を作ったんじゃないんです。舞台脚本を書いてから1年後のことでした。
──公務員は社会的には認められた地位にありますよね。退職するにあたって、相当迷ったのでは?
竜騎士 悩みましたよ。趣味で喰えるという保証はない。一方、公務員はお給料がいい。いちばんいいのは本業と趣味の両立だったのですが、これが難しかった。皆さん公務員は暇だと思っていらっしゃるかもしれませんが、実はかなりの激務なんです。作品の執筆が遅れてしまい、両立することができなくなった。図らずもその頃は『ひぐらし』の評価が上がってきていて、ユーザーの方に次作をお待ちいただく状況になっていた。忙しいからといって休筆することはできなかったんです。そこが人生の岐路でした。一歩を踏み出した時点では喰っていけるかどうか、不安でいっぱいでした。
──アニメ、マンガ、ゲームの業界で働いている人々の何割かは、次々にドロップアウトしていきます。しかし学校を出るときに就職できなかった竜騎士さんは、それでも諦めることなく、コツコツと書き続けてきました。
竜騎士 不思議なものですね。公務員という、もの作りとは異なる世界に行き、一度自分を見つめ直すことができたのも幸いしたんじゃないかと思います。もし私があのとき、ゲーム制作会社に就職できていたら? いまおっしゃられたように、数年でドロップアウトし、星くずのひとつになっていたかもしれない。就活に失敗したからこそ、仕事の合間にでも書きたいと思う心境に至った。そう考えると、いまの自分を作るうえで、私の人生に無駄なことはなかったと思えるんです。公務員の経験は直接的に生きています。『ひぐらし』での沙都子への虐待における児童相談所の対応は、職員研修に使ってもいいんじゃないかというくらい、リアルにできている。役所ほどいろいろな世代の人々が集まる場所はありません。お店にも入れないような辛い境遇の方もいらっしゃるんです。人間というものについて学ぶことができました。
──就活当時のご自身を、未熟だったと省みていらっしゃるようですが......。
竜騎士 おそらく就活をしていたときの私は、巨大なゲーム制作会社に願書というボールを送り、採用というボールを返してほしいと思っていた。箔のつく肩書きが欲しかったんでしょう。ボールは届きませんでした。投げる方向が違っていた。ほんとうはユーザーに向かって投げるべきだったんです。ゲーム制作会社に認めてほしいという甘ったれた考えで、ボールが届くはずがない。本当にゲームを作りたいやつは願書を書く前に、自分でゲームを作っていますよ。会社に入るのは就職であって、それが即ち創作ではない。当時の私は自分のゲームを他人に作ってもらおうと、頼る気持ちがあった。例のゲーム制作会社さんには感謝しています。そんな男を採らないでくれて本当によかった!
──「そんな男を採らないでくれて本当によかった」「当時の自分は甘ったれていた」という、謙虚な気持ちになれず、苦しんでいる作り手もいると思います。もし竜騎士さんからおっしゃっていただけることがあれば、一言お願いします。
竜騎士 趣味で喰おうと思わないほうがいいかもしれないな。趣味で喰わなければならない、という昭和からの妄執があるような気がするんです。その妄執から逃れている趣味のひとつが釣りです。釣りを趣味にしている人は、釣りでお金を得ようとは思わないですよね。お給料で買ったリールを持ち、長期休暇をとって島へ行き、思う存分釣りを楽しむ。もの作りの路を進むにあたって悩んでいる人は、いま持っている趣味を釣りのようなものだと思ってほしい。そうすれば、仕事をしてでも続けられる、と思えるじゃないですか。二足のわらじでもやっていけるくらいの根性がなかったら、制作の仕事はやっていけないですよ。副収入が本業の収入を上回りそうなら、そのときプロになるかどうか、考え直せばいいんだと思います。働くと嫌な仕事に耐える根性がつくから、もの作りに生きてくるんですよ(笑)。
(取材・文=後藤勝)
●竜騎士07(りゅうきしぜろなな)
1973年、千葉県生まれ。専門学校を卒業後、公務員を経てシナリオライターに。同人サークル「07th Expansion」代表。サウンドノベル『ひぐらしのなく頃に』が04年頃からネット上で口コミを呼び、空前の大ヒットに。以降、同作はマンガ、小説、アニメ、劇場公開映画など多方面にメディアミックス展開され、同人サークルの成功例となる。
劇場版「ひぐらしのなく頃に 誓」スタンダードエディション
発売日:2009年11月6日
価格:3,990 円(税込)
発売元:フロンティアワークス
販売元:フロンティアワークス、ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
※メイキング映像やサントラ&ドラマCDなど特典付きの『コレクターズエディション』も同時発売【7,140円(税込)】
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──『ひぐらしのなく頃に』原作ゲームの1作目『鬼隠し編』から足かけ7年。小説も映画も完結して、集大成的な年になりました。
竜騎士 まさかこうして7年後にも話題にしているとは思いもよりませんでした。書いているときは無我夢中でしたから......。いま「7年経った」と言われて、驚いています。
──ゲーム、マンガ、アニメ、映画と、メディアを替えつつ発表してきました。
竜騎士 マンガになるというだけで十分だったんですが......。自分の引き出しから出てくるものではなく、他のメディアで新たに作られる『ひぐらし』が非常に楽しみでした。
──映画とサウンドノベルである原作の違いは?
竜騎士 『ひぐらし』は『雛見沢停留所』という舞台脚本が原案になっている、もともと生身の役者が演じることを想定した物語だったんです。だからサウンドノベル、マンガ、アニメと来て最後に実写映画になったのは、実は原点回帰なんですね。7年かけて一周したようで、感慨深いです。
──『雛見沢停留所』のときにイメージしていたものが、今回の実写映画で具現化した?
竜騎士 それはありますね。当時の脚本は若い役者さんしかいない小劇団で演じられることを想定して書きましたから、登場人物は若者だけなんです。映画では大石役の大杉漣さんをはじめ、実力ある大人の方々に演じていただけた。その1点において、確実に私の原案を越えています。実年齢が伴うすごみ、リアリズム、と言いましょうか。それに、まだ祟りが祟りとして説得力があった、昭和末期の空気感をよく再現してくれたと思います。
──『ひぐらし』で訴えたかったこととはなんなのでしょうか。
竜騎士 ひとりで考え込んでしまうと、往々にしてよくない結末に陥りやすい。会話をすることで誤解を解き、よりよい解決方法を見つけるべきだというのが、『ひぐらし』に込められたテーマです。映画『誓』では、狂気に取り憑かれたレナと圭一が学校の屋根の上でぶつかり合う。形式的には凶器を交錯させる「バトル」ですが、実は、あれは心と心をぶつけ合う「対話」なんです。本音を思う存分さらけ出した結果、レナの呪縛が解けた。そこが大切なところです。
──それまでの場面とは変わって、怖さやグロさがないですね。
竜騎士 ほんとうに恐ろしいのはむしろ、レナがひとりで膝を抱き、悶々と悩んでいるシーンなんです。暗い妄想が広がっていく。しかし思い悩んでいるのがどんなに物騒な事であっても、口に出して相手にぶつければ、残忍な殺し合いにはならない。ナタとバットを重ねながら、狂気を氷解させるべくコミュニケーションを図っていた。映画の前作では圭一がやはりひとり悩み、陰惨な結末を迎えますが、『誓』はそうはなりませんでした。
──起こった惨劇をやり直せる。そこが特徴ですね。
竜騎士 ゲーム的世界観ですね。ゲームでしか学べないことがあると思っているんです。取り返しのつかないこと、たとえば殺人です。現実に殺人をしたあとにそれを悔いても、反省を活かせない。殺人者の烙印を押され、自分は刑務所のなか。遺族の哀しみが癒えることもないでしょう。人を殺したらどんなによくない事態が待ち受けているかは、ゲームでしか学べないことなんです。「主人公の圭一=プレイヤーである自分」と考えれば、不可逆的な出来事を起こす前に学習できる。その意味で『ひぐらし』は「ゲーム」なんです。
──本来、人は文学や芸術から人生を学んでいたはずなんですが......。
竜騎士 エンターテインメント性が優先されると、痛快さ、爽快さばかりが求められるようになってしまいますよね。勝ち組のヒーローばかりを追体験するようになる。結果として読者はおもしろくない話を読まなくなり、不幸な人の追体験をしなくなる。もし、5年間引きこもった人が就職面接にこぎつけたらそれだけで偉業ですが、辛い人の気持ちを追体験したことがなければ、その感覚は理解できないでしょう。しかしゲームならそれができる。自分だったらどうなるかと、感情移入をする。ゲームはその度合いが高い表現だと思います。『ひぐらし』は選択肢がなく、アクション性のあるボタン操作もありません。けれども、読み終わったあとに議論をして噛みしめるという行為そのものが「ゲーム」だと言えます。
──売らんかな、という要素が少ない『ひぐらし』が、商業シーンが無視できないくらい大きな作品になったことについてはどう思われますか?
竜騎士 正直、好きなものを作っているだけなんですよ。それを結果としてユーザーの方に気に入ってもらえた。だからこれから先も、売れるためにどうすればいいかを考えて作るのではなく、どうやったら私自身が楽しめるかを考えて作り続けたいと思います。方針を変えずに。
──作りたいものを作って受け入れてもらえた、数少ない成功例のうちのひとつなのではないですか。
竜騎士 たしかに、ゴハンを食べていこうと思うシナリオライターの人たちに、好きなものを作れとは助言しづらい。私がいまこうして取材を受けているのも運がよかったからで、決して文才があったからではないのだと、肝に銘じています。好きなものを思い切り書いているから売れているんだと、寝ぼけたことを言うつもりはありません。しかし人に喜んでもらおうと思うと、どうしても顔色を窺った、おっかなびっくりな書き方になってしまう。書いていることそのものが楽しくないと宿らない「すごみ」を得るために、私はこれからも自分が書いていて楽しいものを書くでしょう。自分がその物語の最初の体験者である、と感じでもしなければ、何十万文字も何百万文字も書いていられません(笑)。書くことが楽しいという原点は忘れないようにしたいと思います。
──クリエイターとして立とうと思ったときに、制作会社に就職できなかったのはひとつの「挫折」だったのでしょうか。
竜騎士 私にとっては挫折でしたね。新卒でゲーム制作会社に落ちて。これでダメならこの業界では働けない、と思っていたんですよ。「中途採用」なり「浪人」というあり方すら浮かんでこなかった。クリエイティブな業界を諦めようと公務員になったのですが、2年、3年が経つと、沸々とした思いがこみ上げてきたんです。やはり自分はものを作らなければ生きていけない、と。このままではたとえ死んでも、自分の痕跡が何も残らない。そう気付いたある日、悲しくなって。自分が確かにここにいたという何かを残したいと、焦燥感ともフラストレーションともつかない感情が湧き上がった。20代中盤の頃でした。しかし何を作ったらいいかがわからない。マンガは描いてみたけどダメだったし、アニメとゲームもモノにならなかった。そうした試行錯誤を始めてから何年も経って、ようやく出会ったのが舞台脚本でした。それも実らず、最後にはサウンドノベルに辿り着いた。だからいきなりサウンドノベルの『ひぐらし』を作ったんじゃないんです。舞台脚本を書いてから1年後のことでした。
──公務員は社会的には認められた地位にありますよね。退職するにあたって、相当迷ったのでは?
竜騎士 悩みましたよ。趣味で喰えるという保証はない。一方、公務員はお給料がいい。いちばんいいのは本業と趣味の両立だったのですが、これが難しかった。皆さん公務員は暇だと思っていらっしゃるかもしれませんが、実はかなりの激務なんです。作品の執筆が遅れてしまい、両立することができなくなった。図らずもその頃は『ひぐらし』の評価が上がってきていて、ユーザーの方に次作をお待ちいただく状況になっていた。忙しいからといって休筆することはできなかったんです。そこが人生の岐路でした。一歩を踏み出した時点では喰っていけるかどうか、不安でいっぱいでした。
──アニメ、マンガ、ゲームの業界で働いている人々の何割かは、次々にドロップアウトしていきます。しかし学校を出るときに就職できなかった竜騎士さんは、それでも諦めることなく、コツコツと書き続けてきました。
竜騎士 不思議なものですね。公務員という、もの作りとは異なる世界に行き、一度自分を見つめ直すことができたのも幸いしたんじゃないかと思います。もし私があのとき、ゲーム制作会社に就職できていたら? いまおっしゃられたように、数年でドロップアウトし、星くずのひとつになっていたかもしれない。就活に失敗したからこそ、仕事の合間にでも書きたいと思う心境に至った。そう考えると、いまの自分を作るうえで、私の人生に無駄なことはなかったと思えるんです。公務員の経験は直接的に生きています。『ひぐらし』での沙都子への虐待における児童相談所の対応は、職員研修に使ってもいいんじゃないかというくらい、リアルにできている。役所ほどいろいろな世代の人々が集まる場所はありません。お店にも入れないような辛い境遇の方もいらっしゃるんです。人間というものについて学ぶことができました。
──就活当時のご自身を、未熟だったと省みていらっしゃるようですが......。
竜騎士 おそらく就活をしていたときの私は、巨大なゲーム制作会社に願書というボールを送り、採用というボールを返してほしいと思っていた。箔のつく肩書きが欲しかったんでしょう。ボールは届きませんでした。投げる方向が違っていた。ほんとうはユーザーに向かって投げるべきだったんです。ゲーム制作会社に認めてほしいという甘ったれた考えで、ボールが届くはずがない。本当にゲームを作りたいやつは願書を書く前に、自分でゲームを作っていますよ。会社に入るのは就職であって、それが即ち創作ではない。当時の私は自分のゲームを他人に作ってもらおうと、頼る気持ちがあった。例のゲーム制作会社さんには感謝しています。そんな男を採らないでくれて本当によかった!
──「そんな男を採らないでくれて本当によかった」「当時の自分は甘ったれていた」という、謙虚な気持ちになれず、苦しんでいる作り手もいると思います。もし竜騎士さんからおっしゃっていただけることがあれば、一言お願いします。
竜騎士 趣味で喰おうと思わないほうがいいかもしれないな。趣味で喰わなければならない、という昭和からの妄執があるような気がするんです。その妄執から逃れている趣味のひとつが釣りです。釣りを趣味にしている人は、釣りでお金を得ようとは思わないですよね。お給料で買ったリールを持ち、長期休暇をとって島へ行き、思う存分釣りを楽しむ。もの作りの路を進むにあたって悩んでいる人は、いま持っている趣味を釣りのようなものだと思ってほしい。そうすれば、仕事をしてでも続けられる、と思えるじゃないですか。二足のわらじでもやっていけるくらいの根性がなかったら、制作の仕事はやっていけないですよ。副収入が本業の収入を上回りそうなら、そのときプロになるかどうか、考え直せばいいんだと思います。働くと嫌な仕事に耐える根性がつくから、もの作りに生きてくるんですよ(笑)。
(取材・文=後藤勝)
●竜騎士07(りゅうきしぜろなな)
1973年、千葉県生まれ。専門学校を卒業後、公務員を経てシナリオライターに。同人サークル「07th Expansion」代表。サウンドノベル『ひぐらしのなく頃に』が04年頃からネット上で口コミを呼び、空前の大ヒットに。以降、同作はマンガ、小説、アニメ、劇場公開映画など多方面にメディアミックス展開され、同人サークルの成功例となる。
劇場版「ひぐらしのなく頃に 誓」スタンダードエディション
発売日:2009年11月6日
価格:3,990 円(税込)
発売元:フロンティアワークス
販売元:フロンティアワークス、ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
※メイキング映像やサントラ&ドラマCDなど特典付きの『コレクターズエディション』も同時発売【7,140円(税込)】
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