【パンドラ映画館38】海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』
2009年10月27日14時13分 / 提供:日刊サイゾー
ポン・ジュノ監督の初期の短編映画を集めた『ポン・ジュノ アーリーワークス』の特典映像として、ポン・ジュノ監督へのインタビューが収録されている。それによると1969年生まれのポン・ジュノ監督は韓国、日本の区別なくアニメやコミック漬けの少年時代を過ごしたそうだ。「アニメ製作は大変なので、実写を撮るようになった」とも語っている。
無意識のうちに日本のポップカルチャーのエキスを吸収しているのだろう。そのため、日本人が観てもポン・ジュノ作品はとても親近感が湧く。デビュー作『ほえる犬は噛まない』(01)は韓国ではさっぱりだったものの、日本のミニシアターによく合う作風で日本でスマッシュヒット。軌道修正した実話系犯罪ミステリー『殺人の追憶』(03)を韓国で大ヒットさせて足場を固めると、第3作『グエムル 漢江の怪物』(06)は緻密な設定で日本の元祖怪獣マニアたちを唸らせた。またオムニバス映画『TOKYO!』(08)の一編『シェイキング東京』では蒼井優を日本のどの監督たちよりもセクシーに撮っている。ポン・ジュノ監督は映画ならではの深みとエンターテイメント性を両立させている希有な映像作家だ。"隣の芝生は青く見える"ではないが、ポン・ジュノ作品を観ていると「日本にもこんな監督がいてくれれば」と思ってしまう。
最新作『母なる証明』は、『殺人の追憶』と同じく殺人ミステリー。5年ぶりの俳優復帰となるウォンビンと、"韓国の母"と呼ばれるベテラン女優キム・ヘジャ(どことなく"日本の母"と呼ばれた山岡久乃っぽい雰囲気)共演による母子ものだ。殺人の容疑を掛けられた息子を救うために、ごく平凡な母親が素人探偵となって真犯人を暴き出すというシンプルなストーリー。日本の2時間ドラマなら新聞のラテ欄で埋れてしまう地味な題材ながら、ポン・ジュノ監督はズシリと観る者の胸に迫る映画に仕立てて見せている。ドメスティック・バイオレンスならぬ、ドメスティック・ラブとでも呼ぶべき、狂気さえ感じさせる親子愛のドラマとなっている。
ポン・ジュノ作品の登場人物たちは、いつも何かを捜している。長編デビュー作『ほえる犬は噛まない』ではペ・ドゥナが子犬失踪事件の犯人を懸命に追い掛け、『殺人の追憶』では迷宮入りした実在の連続殺人鬼を2人の凸凹刑事コンビが執念で追い続けた。『WXIII機動警察パトレイバー』(02)を彷彿させる怪獣パニック映画の枠組みに『北の国から』(フジテレビ系)さながらの濃厚な家族ドラマを注ぎ込んだ『グエムル』では、ダメ親父が怪獣にさらわれた娘を命懸けで救出しようとする。懸命に捜し回った結果、捜しものが見つかる場合もあれば、見つからないまま映画が終わってしまう場合もある。そして仮に捜しものが見つかった場合も、見つかったものは捜していた人間が頭の中で思い描いていたものとはまるで違うものに変容している。それがポン・ジュノ作品だ。
メーテルリンクの童話『青い鳥』では、幼いチルチルとミチルが"幸せの青い鳥"を捕まえに冒険旅行に出る。最初に訪れた「思い出の国」で意外とあっさりと青い鳥を見つけるも、「思い出の国」を出るとその青い鳥はドス黒く変色して死んでしまう。二人を旅へとけしかけた光の女神は「それは本物の青い鳥ではなかったのです。さぁ旅を続けましょう」とのたまう。子どもの頃に読んで「原作者、ひでぇ」と心の中で叫んだ覚えがある。心の中に黒インキのシミのようにこびり付いていたその記憶が、大人になって蘇る。そして思い知る。子どもの頃に『青い鳥』を読んで感じた違和感は、実はその違和感のほうがよりリアルな現実なのだと。見つけ出した青い鳥がもし偽物であったとしても、それが自分にとっての青い鳥だと信じ込んで飼い続ける。うまくすれば、やがて情が湧いてくるかもしれない。ポン・ジュノ作品を観ていると、そんなことを考える。捜し求めていた答えがもし期待していたものと違っても、その答えをしっかりと抱きしめよ。それが人生だと。
無意識のうちに日本のポップカルチャーのエキスを吸収しているのだろう。そのため、日本人が観てもポン・ジュノ作品はとても親近感が湧く。デビュー作『ほえる犬は噛まない』(01)は韓国ではさっぱりだったものの、日本のミニシアターによく合う作風で日本でスマッシュヒット。軌道修正した実話系犯罪ミステリー『殺人の追憶』(03)を韓国で大ヒットさせて足場を固めると、第3作『グエムル 漢江の怪物』(06)は緻密な設定で日本の元祖怪獣マニアたちを唸らせた。またオムニバス映画『TOKYO!』(08)の一編『シェイキング東京』では蒼井優を日本のどの監督たちよりもセクシーに撮っている。ポン・ジュノ監督は映画ならではの深みとエンターテイメント性を両立させている希有な映像作家だ。"隣の芝生は青く見える"ではないが、ポン・ジュノ作品を観ていると「日本にもこんな監督がいてくれれば」と思ってしまう。
最新作『母なる証明』は、『殺人の追憶』と同じく殺人ミステリー。5年ぶりの俳優復帰となるウォンビンと、"韓国の母"と呼ばれるベテラン女優キム・ヘジャ(どことなく"日本の母"と呼ばれた山岡久乃っぽい雰囲気)共演による母子ものだ。殺人の容疑を掛けられた息子を救うために、ごく平凡な母親が素人探偵となって真犯人を暴き出すというシンプルなストーリー。日本の2時間ドラマなら新聞のラテ欄で埋れてしまう地味な題材ながら、ポン・ジュノ監督はズシリと観る者の胸に迫る映画に仕立てて見せている。ドメスティック・バイオレンスならぬ、ドメスティック・ラブとでも呼ぶべき、狂気さえ感じさせる親子愛のドラマとなっている。
ポン・ジュノ作品の登場人物たちは、いつも何かを捜している。長編デビュー作『ほえる犬は噛まない』ではペ・ドゥナが子犬失踪事件の犯人を懸命に追い掛け、『殺人の追憶』では迷宮入りした実在の連続殺人鬼を2人の凸凹刑事コンビが執念で追い続けた。『WXIII機動警察パトレイバー』(02)を彷彿させる怪獣パニック映画の枠組みに『北の国から』(フジテレビ系)さながらの濃厚な家族ドラマを注ぎ込んだ『グエムル』では、ダメ親父が怪獣にさらわれた娘を命懸けで救出しようとする。懸命に捜し回った結果、捜しものが見つかる場合もあれば、見つからないまま映画が終わってしまう場合もある。そして仮に捜しものが見つかった場合も、見つかったものは捜していた人間が頭の中で思い描いていたものとはまるで違うものに変容している。それがポン・ジュノ作品だ。
メーテルリンクの童話『青い鳥』では、幼いチルチルとミチルが"幸せの青い鳥"を捕まえに冒険旅行に出る。最初に訪れた「思い出の国」で意外とあっさりと青い鳥を見つけるも、「思い出の国」を出るとその青い鳥はドス黒く変色して死んでしまう。二人を旅へとけしかけた光の女神は「それは本物の青い鳥ではなかったのです。さぁ旅を続けましょう」とのたまう。子どもの頃に読んで「原作者、ひでぇ」と心の中で叫んだ覚えがある。心の中に黒インキのシミのようにこびり付いていたその記憶が、大人になって蘇る。そして思い知る。子どもの頃に『青い鳥』を読んで感じた違和感は、実はその違和感のほうがよりリアルな現実なのだと。見つけ出した青い鳥がもし偽物であったとしても、それが自分にとっての青い鳥だと信じ込んで飼い続ける。うまくすれば、やがて情が湧いてくるかもしれない。ポン・ジュノ作品を観ていると、そんなことを考える。捜し求めていた答えがもし期待していたものと違っても、その答えをしっかりと抱きしめよ。それが人生だと。
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