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「an・an」「Olive」から見た、"かわいいカルチャー"の源流

2009年10月19日12時00分 / 提供:サイゾーウーマン

サイゾーウーマン
「an・an」「Olive」から見た、
 「エロかわいい」「大人かわいい」「カッコかわいい」――。一時期、ほとんどの女性誌の表紙に踊っていた「カワイイ」という言葉が、いつしかひっそりと身を潜めるようになった。一方で「Kawaii」は日本のポップカルチャーを表す世界共通語となり、外務省は今年3月に「カワイイ大使」なるものを任命し、"マンガ""アニメ"とともに、"カワイイ"を世界に売り出そうとしている。

 いつしか国を挙げてまでの壮大なカルチャーになってしまった"カワイイ"を、雑誌メディアとの関係から紐解いた書籍『「かわいい」の帝国』(青土社)が発売された。"カワイイ"を作り出した社会的な背景や雑誌文化の興隆について、著者の古賀令子・文化女子大教授と、ファッション週刊紙「WWD JAPAN」の山室一幸編集長に語ってもらった。

――まずは、"かわいいカルチャー"の源流について伺いたいと思います。古賀さんは著作の中で、戦中・戦後に活躍した画家で編集者の【註1】中原淳一から筆を進めていますよね。

古賀令子教授(以下、古賀) まあそうなんですけどね。世に言う"カワイイ本"というのはいくつもあって、"カワイイ"の源流は「枕草子」だっていう説を展開される方もいらっしゃるんですけど、私は「ホント !?」って思った。私は"かわいいカルチャー"の分岐点は「Olive」(マガジンハウス)だと思っているんです。当時、私自身はもうその世代を卒業していて服を作る方の立場にいたから、リアルタイムを実感としては知らない んですよ。だから雑誌と口コミから探っていったのが、この本なんです。雑誌文化っていうのはよくも悪くも、社会のニーズをくみ取らなきゃいけないし、そうしないと生き残れない。だから、その分、厳しく時代を写しているんだと思うんですよ。

山室一幸編集長(以下、山室) 僕はね、"かわいいカルチャー"の根幹に、自分の世代がかすっていると思うんです。1960年代後半に水森亜土が出てきて、「丸文字」が流行り、コミュニケーションツールとしての"カワイイ"が出てきた。きっと、世にいう「女子大生ブーム」のあたり、今「HERS」(光文社)を読んでる世代だよね。そのあたりからかな、自分たちの幼児性を恥と思わず、「カワイイじゃん」と認める文化が出てきた。カワイイという言葉を使うことで、自分の幼児退行性を認めてしまったんだよね。"カワイイ"っていう言葉の便利さを手に入れてしまった。

古賀 そうですね。いろんなものが混じり合っているですが、私は"かわいいカルチャー"には、戦後の少子化も関係していると思うんです。子供一人当たりにかける金額がどんどん上がってきたでしょう。そして、女子大生ブームぐらいから、「大人になれない人」がもてはやされる時代になったと思うんですね。大人が若い人たちの真似をし始めたと思うし、そういった価値観が混ざり合って、文化としてパワフルに花開いた。

――古賀さんは著作の中でもおっしゃっていましたが、やはり「Olive」が"カワイイ"のルーツと考えていらっしゃるんですよね。

古賀 「an・an」(マガジンハウス)から始めるべきか、 「Olive」からかで迷ったんですが、最終的にこの本 では「Olive」だということにしました。でも今、考えてみても「an・an」の役割は"カワイイ"文化が売りではないんですよね。でも「Olive」は"カワイイ"という言葉こそ使わなかったけど、ガーリー文化を作ったんですよ。

――「an・an」と「Olive」の大きな違いというのは?

古賀 もちろん時代も違いますが、 単純にターゲットとすべき読者層が違ったと思いますけどね。

山室 「an・an」の創刊当時は「ELLE」の日本版で、モードを表に出していましたし。

古賀 とは言いつつ、後期フォークロアの旗手となった「KENZO」の服を紹介したり、写真の使い方を見てみると、専門学校生〜大学生だったんじゃないかと思います。「Olive」はリセエンヌ(仏語で女学生)というぐらい言葉を掲げたぐらいだから、高校生がターゲットだったと思います。

山室 【註2】淀川(美代子)さんが編集長になったぐらいからですかね? リセエンヌという言葉を使い始めたのは。

古賀 でも高校生という、お小遣いをもらっている人たちが、ファッション文化を作ったということについては、「Olive」の存在はすごく革新的だったと思いますよ。

山室 82年に「Olive」が創刊され、そのころは「コム・デ・ギャルソンがすごい」「ヨウジヤマモトがカッコイイぞ」と言われている中で、「an・an」と「Olive」はまったく存在が違ったんですよね。「an・an」はモード志向というか、純文学的というか。実際がどうであれ、「リセエンヌってカワイイじゃん」って言いきった「Olive」の強さは衝撃だったなぁ。

――「Olive」の全盛というはいつぐらいなんでしょうか。

古賀 82年に創刊だから、80年代の半ばぐらい ?

山室 モード誌は、「パリコレ至上主義」というものに、どうしても支配されてしまう。でも「Olive」は多分最初に、アンチモード主義という姿勢を見せた雑誌だったと思うですよね。「ストリートっていいじゃん。スタイルMIXってかっこいいじゃん」。もっといえば「チープシックでいいじゃない」って。今で言う「リアルモード」の根っこだし、この流れがないと、今の青文字系雑誌が語れなくなる。

古賀 ちょっと話がそれちゃうかもしれないんですけど、なんで「Olive」は「リセエンヌ」なんでしょう。 高校生の「リアルモード」を目指すなら、「リセエンヌ」自体が虚構じゃない(笑)?

山室 でもそれをいったら、VANが「アイビールック」を提唱したのと同じことですよ(笑)。「an・an」が創刊した70年代初頭、当時というのは、プレタポルテの黎明期時代だったんですよね。ヨーロッパの「成熟を良し」とした文化の中に、"カワイイ"を持ち込んだのが、70年代の高田賢三さんです。80年代に入って、コム・デ・ギャルソンやワイズが台頭してきて、東京コレクション系のDCブランドが盛り上がっていた。そんな中、「Olive」の淀川さんが「リセエンヌ」という虚構のスタイル落とし込んで、女の子たちにとってリアルなストリートをカルチャーに見せたことがすごいと思う。それはまさに淀川さんの嗅覚だよね。

古賀 虚構だけど、「リセエンヌ」と名前を付けたことが良かったんでしょうね。モードって名前を付けないと発展しないんですよ。レッテル貼りすることで、一つの形に凝縮するんですね、歴史的に見ても 。

【第2回へ続く】

【註1】中原淳一......昭和7年に銀座松屋にてフランス風人形の個展を開催し、注目を集める。その後、雑誌『少女の友』の表紙・挿絵を手掛け、一躍人気画家に。戦後に『それいゆ』『ひまわり』『ジュニアそれいゆ』を創刊し、編集者・イラストレーター・ファッションデザイナーと幅広く活躍し、高田賢三や金子功などに多大な影響を与える。

【註2】淀川美代子......「Olive」の世界観を確立させた、3代目編集長。その後、「an・an」「Ginza」の編集長も務める。映画評論家・淀川長治の姪。

古賀令子(こが・れいこ)
 東京都出身。お茶の水女子大学卒業後、ファッション情報分析および商品企画業務に携わり、フリーランスのファッション・ライター/翻訳者を経て、2002年より文化女子大学教授。ファッション誌を主資料に近・現代ファッションを研究。著書に、『コルセットの文化史』(青弓社)。

山室一幸(やまむろ・かずゆき)
 上智大学理工学部卒業。1985年より「ファッション通信」(BSジャパン)の番組プロデューサーとして、20年以上にわたってパリ、ミラノ、ニューヨークを中心に世界各国のファッションシーン最前線を取材。2006年より現職。

「かわいい」の帝国(青弓社、1995円)
 主に紙メディア(女性誌)から、「カワイイ」文化の誕生から衰退までを辿った書籍。中原淳一から「アンノン族」、ロリータやゴスロリ、「かわいい男」の誕生など、年代を追って、社会情勢や価値観の変化などを「かわいい」のフィルターを通して、解説していく。巻末の「『かわいい』関連年表」は、女性誌を語る上での重要な資料をなりうる。

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