山口利昭 法律事務所代表弁護士。
JR西日本事故報道から探る不作為の過失(立件方針−その2)
2009年09月28日01時15分 / 提供:ビジネス法務の部屋
土曜日から日曜日にかけまして、多くの方より(いくつかのエントリーに対して)たいへん有益なコメントを頂戴しております。「監査法人の赤字経営・・・」については、まだお返事させていただいておりませんが、私の疑問が初歩的で素朴なものであるにもかかわらず、「なるほど」と頷きたくなるものでありまして、是非そちらもご覧ください。また「内部統制1年目の総括・・・」のほうも、示唆に富むものであります。(crossさんのコメントは、本来私がフォローしておかねばならないところ、ありがとうございましたm(__)m)そして、昨日の「JR西日本事故報道から探る・・・(その1)」につきましては、酔うぞさん、辰のお年ごさんから、これまたたいへん貴重なご意見をいただきました。本日のエントリーの内容とも関係のあるコメントですので、興味深く拝読させていただきました。
このたびのJR福知山線事故に関連するJR西日本社の対応につきましては、企業コンプライアンスならびに内部統制(本件に沿っていえば安全体制確保義務)に関わる重大な課題を含んでいるものであります。しかし、JR西日本の前社長が業務上過失致死罪で起訴されていることからしますと、やはり今後も本事件において関係者に刑事責任が問われるのか否か・・・という点を中心として検討していきたいと思っております。
最近、元検事でコンプライアンス問題に詳しい郷原信郎先生が「検察の正義」(ちくま新書)を出稿されましたが※1、そのなかで鉄道事故に関する日米の刑事司法の在り方の差について触れておられます。アメリカの場合は再発防止のために事故の真相究明が第一とされ、関係者には司法免責を付与して、事故に関する供述を最大限引き出すことに全力を挙げるそうであります。いっぽう日本の場合には、航空・鉄道事故においても、一般の事件と同様に業務上過失致死被告事件として立件して、真実の発見も刑事司法が担うことになる、とのことで、ここが日米の大きな違いである、とされております。(上記著書61頁)また、郷原先生は、公正取引委員会へ出向されていた経験から、独禁法違反事件の告発に関しては、公取委と検察との間には根本的な考え方の違いがあったとして、たとえば独禁法違反について公取委は法人単位、事業者単位、つまり企業その組織全体の行為として明らかにすればよく、個人の行為を特定することはほとんど行われなかった、しかし検察の考え方は事業者や法人企業ではなく、個人の行為につき成立するものであり、それを具体的に明らかにすることが刑事処罰の必要条件だとする伝統的な刑事司法の在り方に基づいていた、と述懐されておられます。(上記著書48頁以下)このあたりの記述内容は、本件を(被告人に対する刑事追及の在り方を)検討するにあたり、とても参考になろうかと思います。
※ 1・・・この郷原先生の新書は長銀事件最高裁判決に関する検察の論理などにも言及されており、村上ファンド事件やライブドア事件に関する郷原先生の見解も含め、とてもおもしろい一冊です。また、「検察」という組織が、23年間、「郷原検事」をどのように処遇してきたか、一度辞表を出した検事を慰留しつつ、検察は何を期待したのか、といったあたりも、これまであまり触れられてこなかった検察の組織の論理を垣間見るようで、楽しめます。
昨今の運輸安全委員会とJR西日本幹部との接触(鉄道事故調査委員会報告書における癒着疑惑)に関する一連の報道は、(昨日も書きましたが)驚くべき事実を報じるものであります。委員とJR幹部が接触していた当時の副社長さんは、取材において「その当時は、ヒアリングなど、(事故調とは)正式な接触の機会が多かったから、その延長線上のことと認識していた」と述べておられるようです。しかし、私は企業コンプライアンスの視点からは「外観的独立性」こそ重要であり、たとえ元副社長さんの言い訳が真実であったとしても、その接触が正当化されるものではないと理解しております。(当時の被害者およびご遺族の方々の事故調査に対する姿勢からすれば、外観的独立性の重要性はJR西日本社の方々がもっとも意識していたはずではないでしょうか。)むしろ、元副社長さんは否定しておられる「会社ぐるみ」の責任逃れ、と言われても仕方がないように思われます。ただ、コメントにおいて辰のお年ごさんが指摘されていることに近いのかもしれませんが、鉄道事故調査会の対応を非難したり、JR西日本の企業風土(不祥事体質)を糾弾することと、個人の刑事責任を追及することとはまったく別でありまして、むしろ現時点の検察は、ともかくJR西日本の幹部社員(だった個人)の立件に全力投球をしているさなかに、「西日本の企業風土の悪質さ」を論難することは、むしろ刑事事件の立証において悪影響を与えるのではないか、と感じざるをえません。結局のところ、このたびのJR西日本事故では経営トップの刑事責任は問われないことになりましたので、前社長が鉄道本部長だったときの幹部職員としての刑事責任が果たして有罪となる可能性があるのかどうか、検討してみたいと思います。
このたびのJR福知山線事故に関連するJR西日本社の対応につきましては、企業コンプライアンスならびに内部統制(本件に沿っていえば安全体制確保義務)に関わる重大な課題を含んでいるものであります。しかし、JR西日本の前社長が業務上過失致死罪で起訴されていることからしますと、やはり今後も本事件において関係者に刑事責任が問われるのか否か・・・という点を中心として検討していきたいと思っております。
最近、元検事でコンプライアンス問題に詳しい郷原信郎先生が「検察の正義」(ちくま新書)を出稿されましたが※1、そのなかで鉄道事故に関する日米の刑事司法の在り方の差について触れておられます。アメリカの場合は再発防止のために事故の真相究明が第一とされ、関係者には司法免責を付与して、事故に関する供述を最大限引き出すことに全力を挙げるそうであります。いっぽう日本の場合には、航空・鉄道事故においても、一般の事件と同様に業務上過失致死被告事件として立件して、真実の発見も刑事司法が担うことになる、とのことで、ここが日米の大きな違いである、とされております。(上記著書61頁)また、郷原先生は、公正取引委員会へ出向されていた経験から、独禁法違反事件の告発に関しては、公取委と検察との間には根本的な考え方の違いがあったとして、たとえば独禁法違反について公取委は法人単位、事業者単位、つまり企業その組織全体の行為として明らかにすればよく、個人の行為を特定することはほとんど行われなかった、しかし検察の考え方は事業者や法人企業ではなく、個人の行為につき成立するものであり、それを具体的に明らかにすることが刑事処罰の必要条件だとする伝統的な刑事司法の在り方に基づいていた、と述懐されておられます。(上記著書48頁以下)このあたりの記述内容は、本件を(被告人に対する刑事追及の在り方を)検討するにあたり、とても参考になろうかと思います。
※ 1・・・この郷原先生の新書は長銀事件最高裁判決に関する検察の論理などにも言及されており、村上ファンド事件やライブドア事件に関する郷原先生の見解も含め、とてもおもしろい一冊です。また、「検察」という組織が、23年間、「郷原検事」をどのように処遇してきたか、一度辞表を出した検事を慰留しつつ、検察は何を期待したのか、といったあたりも、これまであまり触れられてこなかった検察の組織の論理を垣間見るようで、楽しめます。
昨今の運輸安全委員会とJR西日本幹部との接触(鉄道事故調査委員会報告書における癒着疑惑)に関する一連の報道は、(昨日も書きましたが)驚くべき事実を報じるものであります。委員とJR幹部が接触していた当時の副社長さんは、取材において「その当時は、ヒアリングなど、(事故調とは)正式な接触の機会が多かったから、その延長線上のことと認識していた」と述べておられるようです。しかし、私は企業コンプライアンスの視点からは「外観的独立性」こそ重要であり、たとえ元副社長さんの言い訳が真実であったとしても、その接触が正当化されるものではないと理解しております。(当時の被害者およびご遺族の方々の事故調査に対する姿勢からすれば、外観的独立性の重要性はJR西日本社の方々がもっとも意識していたはずではないでしょうか。)むしろ、元副社長さんは否定しておられる「会社ぐるみ」の責任逃れ、と言われても仕方がないように思われます。ただ、コメントにおいて辰のお年ごさんが指摘されていることに近いのかもしれませんが、鉄道事故調査会の対応を非難したり、JR西日本の企業風土(不祥事体質)を糾弾することと、個人の刑事責任を追及することとはまったく別でありまして、むしろ現時点の検察は、ともかくJR西日本の幹部社員(だった個人)の立件に全力投球をしているさなかに、「西日本の企業風土の悪質さ」を論難することは、むしろ刑事事件の立証において悪影響を与えるのではないか、と感じざるをえません。結局のところ、このたびのJR西日本事故では経営トップの刑事責任は問われないことになりましたので、前社長が鉄道本部長だったときの幹部職員としての刑事責任が果たして有罪となる可能性があるのかどうか、検討してみたいと思います。
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