2兆円ペット産業の″開かずの間″に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』
日本映画界に"製作委員会方式"がすっかり定着した。映画会社、テレビ局、出版社、レコード会社、広告代理店といった大企業が委員会に名前を並べ、公開が迫ると"公共の電波"を謳うテレビ局には自社がらみの映画の出演者たちが大挙出演。公開後はテレビ放映されることが前提になっているので、放送コードに触れる可能性のあるシーンは企画段階で予め排除される。こうしてファミリーレストランの人気メニューのような無難極まりない映画が次々と製作されていく。おまけに映画がコケても1社あたりの傷は浅い。まったくもって制作サイドにとって都合のいいシステムだ。10月10日(土)から公開されるドキュメンタリー映画『犬と猫と人間と』は、その対局にある作品と言える。スポンサーはたったひとりの"猫おばあちゃん"こと稲葉恵子さん。映画製作とはまったく無縁の老婦人から頼まれて、飯田基晴監督は名もない犬や猫たちを4年間にわたって追い続けた。
ホームレスの日常を追った飯田監督のデビュー作『あしがらさん』(02)を観た稲葉さんは、舞台挨拶のために来場していた飯田監督に声を掛ける。「動物たちの命の大切さを知ってもらえる映画を作ってほしい。お金は出します」と。稲葉さんはそれまで捨て猫の世話をしてきたが、高齢のため難しくなってきた。そこで満期となる生命保険を映画の製作資金として提供するというのだ。戸惑う飯田監督に対して、稲葉さんは「わたし、人を見る目はけっこうあるのよ」と背中を押す。稲葉さんからの数少ない注文は「ただ、私が生きているうちに観せてくれれば」というものだ。なぜ動物なんですか?という飯田監督の問いに対して、稲葉さんはこう答える。「やっぱり何かを可愛がりたいんじゃないかしらねぇ。人も好きですけど、人間よりマシみたい。動物のほうが」
猫おばあちゃんの熱意に押されて、日本における犬や猫たちの置かれた現状をイチから調べ始めた飯田監督だが、それは想像以上に辛い取材となる。少子化の影響もあり、今や2兆円とも言われる日本のペット産業。ペットの飼育数は犬1310万1000頭、猫1373万8000頭(2008年、一般社会法人ペットフード協会調べ)にも上る。しかし、その一方で、全国の自治体で年間30万頭以上、1日あたり約1000頭の犬や猫たちが処分されているのだ。日本はペット天国どころか、犬や猫たちにとっては地獄列島だったのだ。
市民からの抗議が来るので困るという理由から、これまで撮影取材が難しかった収容施設の中へと飯田監督は苦節の末に入り込むことに成功する。希望者への譲渡はわずか数%という厳しい現実。カメラに映っている檻の中の犬や猫たちは数日後には処分器へと送り込まれるのだ。動物愛護団体によって、ノラ猫たちが避妊手術を受ける様子も映し出される。メス猫から摘出された子宮の中にはすでに大きくなっている胎児の形が確認できる。飯田監督は胎児に手を添え、「命そのものですね」と絞り出すように呟く。テレビではまず放送されないシーンだろう。決してキワモノ映画にするための演出ではなく、「動物愛護って大切だよね、というキレイゴトで済ませたくなかった」という飯田監督の強い信念から記録された映像なのだ。
猫おばあちゃんからの資金提供があったものの、4年間にわたる長期取材は楽ではない。助成金も受けてはいるが、飯田監督自身の人件費は「映画が1〜2年のロングヒットとなり、最終的に回収できればいい」(飯田監督)という状況だという。ペット先進国である英国取材も敢行しているが、これはデビュー作『あしがらさん』が2007年に英国で上映されることになり、2週間の滞在期間の内の1週間を利用したもの。ロンドンではペットショップの出店が厳しく規制されており、犬や猫を飼う場合は専門のブリーダーから購入するか、保護施設から譲り受けることになっているそうだ。そして、その保護施設が清潔で広くて明るいこと。ペットの歴史が長いとはいえ、日本とのあまりの違いには愕然とさせられる。
ホームレスの日常を追った飯田監督のデビュー作『あしがらさん』(02)を観た稲葉さんは、舞台挨拶のために来場していた飯田監督に声を掛ける。「動物たちの命の大切さを知ってもらえる映画を作ってほしい。お金は出します」と。稲葉さんはそれまで捨て猫の世話をしてきたが、高齢のため難しくなってきた。そこで満期となる生命保険を映画の製作資金として提供するというのだ。戸惑う飯田監督に対して、稲葉さんは「わたし、人を見る目はけっこうあるのよ」と背中を押す。稲葉さんからの数少ない注文は「ただ、私が生きているうちに観せてくれれば」というものだ。なぜ動物なんですか?という飯田監督の問いに対して、稲葉さんはこう答える。「やっぱり何かを可愛がりたいんじゃないかしらねぇ。人も好きですけど、人間よりマシみたい。動物のほうが」
猫おばあちゃんの熱意に押されて、日本における犬や猫たちの置かれた現状をイチから調べ始めた飯田監督だが、それは想像以上に辛い取材となる。少子化の影響もあり、今や2兆円とも言われる日本のペット産業。ペットの飼育数は犬1310万1000頭、猫1373万8000頭(2008年、一般社会法人ペットフード協会調べ)にも上る。しかし、その一方で、全国の自治体で年間30万頭以上、1日あたり約1000頭の犬や猫たちが処分されているのだ。日本はペット天国どころか、犬や猫たちにとっては地獄列島だったのだ。
市民からの抗議が来るので困るという理由から、これまで撮影取材が難しかった収容施設の中へと飯田監督は苦節の末に入り込むことに成功する。希望者への譲渡はわずか数%という厳しい現実。カメラに映っている檻の中の犬や猫たちは数日後には処分器へと送り込まれるのだ。動物愛護団体によって、ノラ猫たちが避妊手術を受ける様子も映し出される。メス猫から摘出された子宮の中にはすでに大きくなっている胎児の形が確認できる。飯田監督は胎児に手を添え、「命そのものですね」と絞り出すように呟く。テレビではまず放送されないシーンだろう。決してキワモノ映画にするための演出ではなく、「動物愛護って大切だよね、というキレイゴトで済ませたくなかった」という飯田監督の強い信念から記録された映像なのだ。
猫おばあちゃんからの資金提供があったものの、4年間にわたる長期取材は楽ではない。助成金も受けてはいるが、飯田監督自身の人件費は「映画が1〜2年のロングヒットとなり、最終的に回収できればいい」(飯田監督)という状況だという。ペット先進国である英国取材も敢行しているが、これはデビュー作『あしがらさん』が2007年に英国で上映されることになり、2週間の滞在期間の内の1週間を利用したもの。ロンドンではペットショップの出店が厳しく規制されており、犬や猫を飼う場合は専門のブリーダーから購入するか、保護施設から譲り受けることになっているそうだ。そして、その保護施設が清潔で広くて明るいこと。ペットの歴史が長いとはいえ、日本とのあまりの違いには愕然とさせられる。
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