緊急INTERVIEW【監督・橘正紀×ボンズ・南雅彦】いよいよ最終回!『東京マグニチュード8.0』が描いたリアル
2009年09月17日11時00分 / 提供:日刊サイゾー
「ノイタミナという枠がなかったら、『M8』は作れなかったかもしれない」そう、社長も橘監督も声を揃える。
高名な原作ナシの完全オリジナル作品。中1の姉・未来と小3の弟・悠貴、そして女手ひとつで5歳の娘を育てるバイク便ライダー・真理の3人が、大地震に遭遇した東京・お台場から世田谷区に戻るまでの数日間を描いた「地味」なアニメーションには、大暴れする巨大ロボットや、いかにも「萌え」といったテンプレート式のキャラクターは出てこない。だが、初回放送は午前1時00分からの放送にもかかわらず、視聴率はフジテレビ・ノイタミナ枠第1話視聴率史上1位の5.8%を記録した。
回を追うごとに、見る者の胃がキリキリと締め上げられるような展開。悠貴くんの生死をめぐっては、日本のみならず海外のネット掲示板までもが紛糾した。ディザスター・フィルムの定石を覆すドラマがどのようにして生まれたのか。最終回目前のいま、ボンズの南雅彦社長とキネマシトラスの橘正紀監督に訊いた。
──そもそもの、制作のきっかけは。
南 フジテレビのプロデューサーである松崎(容子)さんが、地震にテーマをおいたアニメ企画をやりたいと、2年くらいずーっと言っていたんですよ。自分だと、たとえば近未来の時代で巨大ロボット同士の地上戦があって、建物が崩壊したところにいる市民目線でのサバイバルだったら、アニメーションとしてアリだなとか考えるのですが。でも松崎さんは軽く「ちがう」と。「南君ちがうよー」ぐらいの勢いでした。だから、最初は松崎さんの頭の中にしかイメージがない状態だったよね。
──はじめは主人公が真理さんだったということですが、どうして子どもたちに変わったんですか。
橘 そう、初期のプロットでは真理さんに当たる女性が家で待っている子どものためにお誕生日のケーキを持って帰る、という流れだったんですが、大人だと、どうやって帰るのかを熟知していたり、危険予知ができたり、物語としてはスムーズに進みすぎる。ヒーロー的な立場になってしまうんですね。それで子どもたちの目線で、親元から離れ、帰る話にしようと。それはすんなりと決まりました。
──舞台がお台場だったのは。
南 お台場っていうか、フジテレビスタートだよね。『8.0』で8チャンネル、みたいなね(笑)。
橘 どこを出発してどのルートを通るか、延々とシミュレーションしましたね。最初はお台場から東京......そのときは内地と言ってましたけど(笑)、内地のほうへ行くにはどこを渡っていけばいいかという話をして、ロケハンで歩き回って。本読み(シナリオ会議)をしていたメンバーで、まずは豊洲へ行って、銀座に向かって歩いたんです。けど、これはダメだ、ということになって。
──何がダメだったんですか?
橘 景色的に使えそうな場所がない、ランドマークがなかったんです。だったら直接芝浦埠頭に上がって、東京タワーへ行くほうが目立つよね、ということで。
──冒頭のテロップで「演出上、実際のものと描き方が異なる場合があります」とありますが、具体例で言うと?
橘 現場的にぶっちゃけて言うと、そのまま使えない建物がけっこうあったんですよ。
南 計算では「マグニチュード8.0」でも壊れない建築物が多くて。
橘 例えば、東京タワーはかなり大きな地震が起きても倒れないように作ってある。だから、活断層が足下に走っていたから倒れた、というアニメーション的な想像を加えたんです。実際に活断層が走っているかどうか調べようしたんですが、マップを見ると東京にはほとんどないんですね。ほかの県にはけっこう赤い線が引かれているのに、都内には「ない」ということになってる。
ただ、岩盤は本来、山から海に向けて深くなっていくものなのですが、東京タワー近辺は不自然に浅くなっているんですね。ということは、活断層がそこにあってもいいんじゃないか、という理屈をこねたわけです。
それと、震災時の行動で言うと、本当はじっとして動かないほうが安全なんです。これが啓蒙的なアニメだと「ここでずっと待ちましょう」と言って、自衛隊を待っているうちに話が終わってしまう。そこは「帰りたい」という心理を優先させていますね。
──検証がハンパじゃなかったようですね。
橘 お台場を脱出する場面で、炎上した橋の下を船がくぐって逃げられるかどうかを海上保安庁を訊ねたところ「いや、燃えている橋の下は絶対くぐらないですね」というので、場所を移したり。あとは、災害時にどういう活動をするのかを陸上自衛隊の人に訊いたり。「連絡系統が崩れたときは現場の判断で動く」という非常に都合のいい話を聞けて、そこはストーリーに直接活かしました。
──地震後もフジテレビは放送できていたようですが。
橘 スカイツリーに「作品の中で登場させたいのですが、よろしいですか?」と問うたところ、「ええ、絶対に壊さないでください。新しい耐震設計による制振構造ですので」と答えられました。フジテレビの本体とスカイツリーが生きていれば、放送はできると思います。
──無政府状態になったとして、最低限のライフラインは。
橘 水や食料は各自治体でけっこう保管してあるんです夏になると食べ物が傷むので、。いまの東京でそんなに何日間ももつかという疑問はあるんですが、食料を奪い合うほど飢える事態にはならないだろうと。都内でしたら3〜4日ガマンすれば、ほかの県から食べ物が届きますから、心配することはないというのが識者の意見です。むしろ家に帰るまでの二次災害が大きな問題になってくる。あとは帰宅困難者ですね。そういう人たちがいっせいに動き出すと都内で混乱が起きる。
──4話では未来ちゃんがトイレで苦しむ場面がありました。普通のトイレは機能しなくなるんですか?
橘 内閣府の池内先生という方が中国の四川省の地震が起きたときに現地へ飛んだのですが、とにかく水洗トイレが流れなくなり、たいへんな臭いになると言っていました。溢れてるんだよ、って。阪神淡路大震災のときは、学校に泊まっている人がプールの水を運んでいって掃除したというエピソードがある。やっぱり水がなくて、やったらやったままになっちゃうので。
──巨大地震特有の現象は。
橘 液状化現象は神戸のポートアイランドでも大規模な範囲で起きていました。標高が1mくらいがくんと下に下がったそうです。映像については過去に新潟空港で発生したものが残っていたので、それを参考にしました。
クラッシュ症候群に関しては、四川で瓦礫の下から救助された直後に亡くなった男性のインパクトが強かったので、物語にきちんと入れようと思っていたんです。残念ながらあの次回予告(9話ラストの10話予告)のところだけになってしまいましたけれども。
──つまり、悠貴くんの死因はクラッシュ症候群ではない?
橘 そうですね。下敷きになっていたからではなく、東京タワーの瓦礫が致命傷です。
──そもそも「ただ帰るだけで物語になるのか」という根本的な不安はなかったんですか?
橘 ああ、ありましたね。だからプロット作りには時間をかけました。どういうふうにドラマの山を作るのかをセッションして、いまのかたちに落ち着くまでに3カ月くらいかかりました。
南 地震そのものではなく、地震の後の物語だからドラマはあくまでも人間を描くことですよね。余震で物語を引っ張るのも前半で精一杯だったよね。
橘 そうですね。回を追うとどうしても、地震で何かが崩れることに慣れてきてしまう。早い段階で大きい建物を壊して、そこからドラマで大きなうねりを作っていこうという感じになりました。
──現象としての物理的な破壊から、ドラマは精神的な面に移っていく。転換点としては5話の老夫婦かと思ったんですが。
橘 ぼくのなかでは4話でお姉ちゃんと弟くんがケンカしたところから変わっているんですね。それまでわがままばかり言っていたお姉ちゃんが、きちんと弟のほうに目を向けるようになって、そこから内面を掘り下げる話に切り替えていく。4話のケンカがあったから5話が作れたとも言えます。そこから地震で心に傷を負った人たちを描いていく流れに切り替わっています。
──2話では、何かの下敷きになった死体の足がのぞいている。これは物理的な死ですけれども、お話が進むにつれてだんだん遺されたものの心の傷へと、死を描写する視点が移っていきますよね。それでいよいよ8話以降のお話をうかがいたいんですが、なぜ悠貴くんをドラマとして「殺し」、未来ちゃんを遺したのでしょうか。
橘 地震のなかで家に帰るという物語ですから、どこかで地震の危険性が明示されていないといけない。怖さを見ている人に追体験してもらおうと思ったんです。最初はみんなが無事に帰る結末もあったんです。でもさんざん悩んで、悠貴くんになりました。
南 自分は本読みから号泣してた。ほんと、脚本でこんだけ泣けたんだから、フィルムで泣けなかったら監督のせいだからな、と言ってね(笑)。でも、地震が起きたら多くの人命が失われる、身近な人が亡くなるかもしれないという、そこまでの覚悟って地震に対してみんなできてないと思う。だからこそ大地震をテーマに持ってくるのであれば、そこまで(主人公の死を受け入れる)の想像力をもってやらなければいけないし、持ってもらいたいという覚悟でやってはいますよ。
──未来ちゃんが心を入れ替えていいお姉ちゃんになろう、と決意したとたんに、急に悠貴くんが亡くなってしまった。心残りがあり、死んだ事実を受け入れられずに、ああして悠貴くんの幻をこさえて話をするしかなかったのかと思うと本当にかわいそうで。
橘 阪神淡路大震災で家族を亡くした人が、不意に亡くなった子どもの声を聞いたことがあったと聞きます。ずっと弟のために何かをしてあげようと思っていたことを、幻相手にしてあげる。あの弟くんが幻だったのか、それとも霊だったのかは、視聴者の方々に考えていただきたいことではありますが、そこにアニメーションなりのファンタジーがある。弟の死が、お姉ちゃんの心の成長を丁寧に描くためのキーポイントになったんです。
南 未来ちゃんのストーリーとしてはほんとうに入口みたいなもので。人の死を簡単に受け入れられる人間なんてそんなにいないでしょう。大人であってもそうそう受け入れられないのに、未来ちゃんはまだ中学1年生の子どもだよね。未来ちゃんが悠貴の死をほんとうに受け入れられるのは、11話よりもっともっと先の話なんだけど。人間は過去を思い出すことはできるけど、過去には戻れない。戻すことは絶対できなくて、未来に向かって進んでいくしかない。そこを、特に11話を見て、感じてもらえればいいと思う。
橘 ショックに耐えられなくて自分でああいう幻を作った。もしくは霊を見てしまう、側にいる気になってしまう。弟の死を受け入れるまでの時間が必要ですから。でも、それにいつか気が付かないと生きていけない。わかっているんだけど受け入れられなくて、でも受け入れなければいけない、という葛藤が10話でした。
失った悲しみとか、失いたくない葛藤を表現したかったんです。そういう辛さ、苦しさを表現できないかと思った。親しくしていた方が亡くなったときも、またひょっこり出てくるんじゃないかな、という気もしましたし。そういう感覚をアニメのなかで表現したいという気持ちがありました。言葉では伝えづらいんです。
──未来ちゃんとお母さんとの諍いが最後に回収されると思うんですが、そこにお言葉をいただけますか。
橘 最後どういうふうに回収されるかは、やはり最終回を見ていただいて、見た方それぞれに感じ取ってほしい。いまここで、安易な言葉では語らないようにしようと思います。どこか未来ちゃんに重なる部分を感じて見てくれていたら、それが最終回の答えになるんじゃないかと思っています。
──ありがとうございます。最終回、楽しみにしています。ところで南さん、最後にこれからのボンズの展望をお聞かせいただけますか?
南 ウチはもう、アニメーションを作る会社なので、アニメーションを作っていくと。いろいろなクリエイターといろいろな作品を作って、見てもらいたい。見てもらう場所を探していっしょにやっていきたい。それ以上ないんじゃないんですか。みんなおもしろいものを作ろうとしているし、作れると思っているし、それを見てくれるお客さんもいる。まぁ、もうちょっと制作にスケジュールと予算のゆとりがでると嬉しいけど。『M8』でアニメ作品のひとつの作り方を提示できたと思うので、続編と言うよりは、橘くんが次にどんな作品を作れるのか、楽しみに待っていてもらえれば。
──橘さんはどういう人でしたか?
南 最初はこんなまじめな奴が監督つとまるのかな? と思っていたけど、なかなかの頑固者であり、作品全体を見通すバランス感覚ももっている。ただ、映像に関してはほんと、変態だね(笑)。
(取材・文=後藤勝)
●たちばな・まさき
アニメ演出家。東映アニメーションで『ドラゴンボールGT』『ドクタースランプ』などの演出助手を務めたのち、フリーに。プロダクションI.G.で「攻殻機動隊」シリーズの演出に携わり、今回ノイタミナ『東京マグニチュード8.0』監督に抜擢される。キネマシトラス所属。
●みなみ・まさひこ
アニメプロデューサー。ボンズ代表取締役社長。サンライズで制作進行、制作デスクを務めたのち、98年にアニメ制作会社「ボンズ」を設立。『鋼の錬金術師』『交響詩篇エウレカセブン』シリーズや、劇場公開作品『カウボーイビバップ 天国の扉』などハイクオリティな作品を次々に発表している。
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★この記事には重要なネタばれが含まれています。第10話未視聴の方はご注意ください。
高名な原作ナシの完全オリジナル作品。中1の姉・未来と小3の弟・悠貴、そして女手ひとつで5歳の娘を育てるバイク便ライダー・真理の3人が、大地震に遭遇した東京・お台場から世田谷区に戻るまでの数日間を描いた「地味」なアニメーションには、大暴れする巨大ロボットや、いかにも「萌え」といったテンプレート式のキャラクターは出てこない。だが、初回放送は午前1時00分からの放送にもかかわらず、視聴率はフジテレビ・ノイタミナ枠第1話視聴率史上1位の5.8%を記録した。
回を追うごとに、見る者の胃がキリキリと締め上げられるような展開。悠貴くんの生死をめぐっては、日本のみならず海外のネット掲示板までもが紛糾した。ディザスター・フィルムの定石を覆すドラマがどのようにして生まれたのか。最終回目前のいま、ボンズの南雅彦社長とキネマシトラスの橘正紀監督に訊いた。
──そもそもの、制作のきっかけは。
南 フジテレビのプロデューサーである松崎(容子)さんが、地震にテーマをおいたアニメ企画をやりたいと、2年くらいずーっと言っていたんですよ。自分だと、たとえば近未来の時代で巨大ロボット同士の地上戦があって、建物が崩壊したところにいる市民目線でのサバイバルだったら、アニメーションとしてアリだなとか考えるのですが。でも松崎さんは軽く「ちがう」と。「南君ちがうよー」ぐらいの勢いでした。だから、最初は松崎さんの頭の中にしかイメージがない状態だったよね。
──はじめは主人公が真理さんだったということですが、どうして子どもたちに変わったんですか。
橘 そう、初期のプロットでは真理さんに当たる女性が家で待っている子どものためにお誕生日のケーキを持って帰る、という流れだったんですが、大人だと、どうやって帰るのかを熟知していたり、危険予知ができたり、物語としてはスムーズに進みすぎる。ヒーロー的な立場になってしまうんですね。それで子どもたちの目線で、親元から離れ、帰る話にしようと。それはすんなりと決まりました。
──舞台がお台場だったのは。
南 お台場っていうか、フジテレビスタートだよね。『8.0』で8チャンネル、みたいなね(笑)。
橘 どこを出発してどのルートを通るか、延々とシミュレーションしましたね。最初はお台場から東京......そのときは内地と言ってましたけど(笑)、内地のほうへ行くにはどこを渡っていけばいいかという話をして、ロケハンで歩き回って。本読み(シナリオ会議)をしていたメンバーで、まずは豊洲へ行って、銀座に向かって歩いたんです。けど、これはダメだ、ということになって。
──何がダメだったんですか?
橘 景色的に使えそうな場所がない、ランドマークがなかったんです。だったら直接芝浦埠頭に上がって、東京タワーへ行くほうが目立つよね、ということで。
──冒頭のテロップで「演出上、実際のものと描き方が異なる場合があります」とありますが、具体例で言うと?
橘 現場的にぶっちゃけて言うと、そのまま使えない建物がけっこうあったんですよ。
南 計算では「マグニチュード8.0」でも壊れない建築物が多くて。
橘 例えば、東京タワーはかなり大きな地震が起きても倒れないように作ってある。だから、活断層が足下に走っていたから倒れた、というアニメーション的な想像を加えたんです。実際に活断層が走っているかどうか調べようしたんですが、マップを見ると東京にはほとんどないんですね。ほかの県にはけっこう赤い線が引かれているのに、都内には「ない」ということになってる。
ただ、岩盤は本来、山から海に向けて深くなっていくものなのですが、東京タワー近辺は不自然に浅くなっているんですね。ということは、活断層がそこにあってもいいんじゃないか、という理屈をこねたわけです。
それと、震災時の行動で言うと、本当はじっとして動かないほうが安全なんです。これが啓蒙的なアニメだと「ここでずっと待ちましょう」と言って、自衛隊を待っているうちに話が終わってしまう。そこは「帰りたい」という心理を優先させていますね。
──検証がハンパじゃなかったようですね。
橘 お台場を脱出する場面で、炎上した橋の下を船がくぐって逃げられるかどうかを海上保安庁を訊ねたところ「いや、燃えている橋の下は絶対くぐらないですね」というので、場所を移したり。あとは、災害時にどういう活動をするのかを陸上自衛隊の人に訊いたり。「連絡系統が崩れたときは現場の判断で動く」という非常に都合のいい話を聞けて、そこはストーリーに直接活かしました。
──地震後もフジテレビは放送できていたようですが。
橘 スカイツリーに「作品の中で登場させたいのですが、よろしいですか?」と問うたところ、「ええ、絶対に壊さないでください。新しい耐震設計による制振構造ですので」と答えられました。フジテレビの本体とスカイツリーが生きていれば、放送はできると思います。
──無政府状態になったとして、最低限のライフラインは。
橘 水や食料は各自治体でけっこう保管してあるんです夏になると食べ物が傷むので、。いまの東京でそんなに何日間ももつかという疑問はあるんですが、食料を奪い合うほど飢える事態にはならないだろうと。都内でしたら3〜4日ガマンすれば、ほかの県から食べ物が届きますから、心配することはないというのが識者の意見です。むしろ家に帰るまでの二次災害が大きな問題になってくる。あとは帰宅困難者ですね。そういう人たちがいっせいに動き出すと都内で混乱が起きる。
──4話では未来ちゃんがトイレで苦しむ場面がありました。普通のトイレは機能しなくなるんですか?
橘 内閣府の池内先生という方が中国の四川省の地震が起きたときに現地へ飛んだのですが、とにかく水洗トイレが流れなくなり、たいへんな臭いになると言っていました。溢れてるんだよ、って。阪神淡路大震災のときは、学校に泊まっている人がプールの水を運んでいって掃除したというエピソードがある。やっぱり水がなくて、やったらやったままになっちゃうので。
──巨大地震特有の現象は。
橘 液状化現象は神戸のポートアイランドでも大規模な範囲で起きていました。標高が1mくらいがくんと下に下がったそうです。映像については過去に新潟空港で発生したものが残っていたので、それを参考にしました。
クラッシュ症候群に関しては、四川で瓦礫の下から救助された直後に亡くなった男性のインパクトが強かったので、物語にきちんと入れようと思っていたんです。残念ながらあの次回予告(9話ラストの10話予告)のところだけになってしまいましたけれども。
──つまり、悠貴くんの死因はクラッシュ症候群ではない?
橘 そうですね。下敷きになっていたからではなく、東京タワーの瓦礫が致命傷です。
──そもそも「ただ帰るだけで物語になるのか」という根本的な不安はなかったんですか?
橘 ああ、ありましたね。だからプロット作りには時間をかけました。どういうふうにドラマの山を作るのかをセッションして、いまのかたちに落ち着くまでに3カ月くらいかかりました。
南 地震そのものではなく、地震の後の物語だからドラマはあくまでも人間を描くことですよね。余震で物語を引っ張るのも前半で精一杯だったよね。
橘 そうですね。回を追うとどうしても、地震で何かが崩れることに慣れてきてしまう。早い段階で大きい建物を壊して、そこからドラマで大きなうねりを作っていこうという感じになりました。
──現象としての物理的な破壊から、ドラマは精神的な面に移っていく。転換点としては5話の老夫婦かと思ったんですが。
橘 ぼくのなかでは4話でお姉ちゃんと弟くんがケンカしたところから変わっているんですね。それまでわがままばかり言っていたお姉ちゃんが、きちんと弟のほうに目を向けるようになって、そこから内面を掘り下げる話に切り替えていく。4話のケンカがあったから5話が作れたとも言えます。そこから地震で心に傷を負った人たちを描いていく流れに切り替わっています。
──2話では、何かの下敷きになった死体の足がのぞいている。これは物理的な死ですけれども、お話が進むにつれてだんだん遺されたものの心の傷へと、死を描写する視点が移っていきますよね。それでいよいよ8話以降のお話をうかがいたいんですが、なぜ悠貴くんをドラマとして「殺し」、未来ちゃんを遺したのでしょうか。
橘 地震のなかで家に帰るという物語ですから、どこかで地震の危険性が明示されていないといけない。怖さを見ている人に追体験してもらおうと思ったんです。最初はみんなが無事に帰る結末もあったんです。でもさんざん悩んで、悠貴くんになりました。
南 自分は本読みから号泣してた。ほんと、脚本でこんだけ泣けたんだから、フィルムで泣けなかったら監督のせいだからな、と言ってね(笑)。でも、地震が起きたら多くの人命が失われる、身近な人が亡くなるかもしれないという、そこまでの覚悟って地震に対してみんなできてないと思う。だからこそ大地震をテーマに持ってくるのであれば、そこまで(主人公の死を受け入れる)の想像力をもってやらなければいけないし、持ってもらいたいという覚悟でやってはいますよ。
──未来ちゃんが心を入れ替えていいお姉ちゃんになろう、と決意したとたんに、急に悠貴くんが亡くなってしまった。心残りがあり、死んだ事実を受け入れられずに、ああして悠貴くんの幻をこさえて話をするしかなかったのかと思うと本当にかわいそうで。
橘 阪神淡路大震災で家族を亡くした人が、不意に亡くなった子どもの声を聞いたことがあったと聞きます。ずっと弟のために何かをしてあげようと思っていたことを、幻相手にしてあげる。あの弟くんが幻だったのか、それとも霊だったのかは、視聴者の方々に考えていただきたいことではありますが、そこにアニメーションなりのファンタジーがある。弟の死が、お姉ちゃんの心の成長を丁寧に描くためのキーポイントになったんです。
南 未来ちゃんのストーリーとしてはほんとうに入口みたいなもので。人の死を簡単に受け入れられる人間なんてそんなにいないでしょう。大人であってもそうそう受け入れられないのに、未来ちゃんはまだ中学1年生の子どもだよね。未来ちゃんが悠貴の死をほんとうに受け入れられるのは、11話よりもっともっと先の話なんだけど。人間は過去を思い出すことはできるけど、過去には戻れない。戻すことは絶対できなくて、未来に向かって進んでいくしかない。そこを、特に11話を見て、感じてもらえればいいと思う。
橘 ショックに耐えられなくて自分でああいう幻を作った。もしくは霊を見てしまう、側にいる気になってしまう。弟の死を受け入れるまでの時間が必要ですから。でも、それにいつか気が付かないと生きていけない。わかっているんだけど受け入れられなくて、でも受け入れなければいけない、という葛藤が10話でした。
失った悲しみとか、失いたくない葛藤を表現したかったんです。そういう辛さ、苦しさを表現できないかと思った。親しくしていた方が亡くなったときも、またひょっこり出てくるんじゃないかな、という気もしましたし。そういう感覚をアニメのなかで表現したいという気持ちがありました。言葉では伝えづらいんです。
──未来ちゃんとお母さんとの諍いが最後に回収されると思うんですが、そこにお言葉をいただけますか。
橘 最後どういうふうに回収されるかは、やはり最終回を見ていただいて、見た方それぞれに感じ取ってほしい。いまここで、安易な言葉では語らないようにしようと思います。どこか未来ちゃんに重なる部分を感じて見てくれていたら、それが最終回の答えになるんじゃないかと思っています。
──ありがとうございます。最終回、楽しみにしています。ところで南さん、最後にこれからのボンズの展望をお聞かせいただけますか?
南 ウチはもう、アニメーションを作る会社なので、アニメーションを作っていくと。いろいろなクリエイターといろいろな作品を作って、見てもらいたい。見てもらう場所を探していっしょにやっていきたい。それ以上ないんじゃないんですか。みんなおもしろいものを作ろうとしているし、作れると思っているし、それを見てくれるお客さんもいる。まぁ、もうちょっと制作にスケジュールと予算のゆとりがでると嬉しいけど。『M8』でアニメ作品のひとつの作り方を提示できたと思うので、続編と言うよりは、橘くんが次にどんな作品を作れるのか、楽しみに待っていてもらえれば。
──橘さんはどういう人でしたか?
南 最初はこんなまじめな奴が監督つとまるのかな? と思っていたけど、なかなかの頑固者であり、作品全体を見通すバランス感覚ももっている。ただ、映像に関してはほんと、変態だね(笑)。
(取材・文=後藤勝)
●たちばな・まさき
アニメ演出家。東映アニメーションで『ドラゴンボールGT』『ドクタースランプ』などの演出助手を務めたのち、フリーに。プロダクションI.G.で「攻殻機動隊」シリーズの演出に携わり、今回ノイタミナ『東京マグニチュード8.0』監督に抜擢される。キネマシトラス所属。
●みなみ・まさひこ
アニメプロデューサー。ボンズ代表取締役社長。サンライズで制作進行、制作デスクを務めたのち、98年にアニメ制作会社「ボンズ」を設立。『鋼の錬金術師』『交響詩篇エウレカセブン』シリーズや、劇場公開作品『カウボーイビバップ 天国の扉』などハイクオリティな作品を次々に発表している。
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