9月5日に行われた、オランダ戦の38分だった。日本陣内でボールを運ぼうとした長谷部が、スナイデルの激しいタックルを受けた。長谷部はすぐに起き上がることができず、スナイデルに警告が出される。

 数分間のインターバルを経て、日本の直接FKで試合が再開される。両チームの選手がそれぞれのポジションに戻り、左センターバックの闘莉王がボールに近づいていく。

 ここで闘莉王は、長谷部が倒されたポイントより明らかに前へボールをセットした。少なくとも5メートルは手前だったはずである。オランダの選手が抗議をするのと同時に、スロベニアのダミール・スコミナ主審がピッ、ピッ、と短い笛を繰り返す。ポイントが違うぞ、という合図だ。

 闘莉王は苦笑いを浮かべながら、ゆっくりとボールを後方へ戻す。ここなら自分が蹴るまでもないかといった雰囲気で、GKの川島にキッカー役を任せる。

 このプレーには、ふたつの意味が込められていたと思う。

試合の再開を遅らせることで、治療を終えた長谷部をピッチ内へ戻らせようとしたのがひとつめの狙いだったはずだ。川島がキックをする前に、闘莉王はそんな素振りを見せたのだ。

ふたつ目は、0−0のまま前半を終わらせるためだった。ファンマルバイク監督がテクニカルエリアで声を張り上げた35分あたりから、オランダは攻撃に人数をかけるようになっていた。スナイデルが警告を受けた直前の展開では、ペナルティエリアに3人の選手が飛び込んできていた。カイト、ファンペルシー、ロッベン、スナイデルの4人に攻撃を任せきりで、4人の関係性も決して緊密とは言えない攻撃は、少しずつ迫力を増しつつあった。

 前半終了間際の失点は、均衡が保たれている試合のバランスを崩しかねない。残り時間がわずかだったことを含めても、ここで少しでも時計の針を進ませるべきだと、闘莉王は考えたのだろう。

 自らが警告を受けることもなく、試合の時間や展開が求めるプレーする。時間にすればほんのわずかだが、闘莉王の適切な判断に触れておきたい。

戸塚啓コラム - サッカー日本代表を徹底解剖