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11年7月の地上放送デジタル移行 「絶望的状況」で延期しかない(連載「テレビ崩壊」第9回/ジャーナリスト・坂本衛さんに聞く)

2009年08月30日11時30分 / 提供:J-CASTニュース

J-CASTニュース
11年7月の地上放送デジタル移行 「絶望的状況」で延期しかない(連載「テレビ崩壊」第9回/ジャーナリスト・坂本衛さんに聞く)
地デジと地方局のあり方について語る坂本衛さん

   テレビの地上放送が完全にデジタルに移行する予定の2011年7月まで、700日を切った。特に地方局は、地デジ移行に向けて、多額の設備投資を行うなど準備を進めてきた。ところが、ここに来て「2年後の完全移行は無理」との声も出始めている。今後の地デジ移行の見通しと、それにともなう地方局のあり方について、放送に詳しいジャーナリストの坂本衛さんに聞いた。

「3年程度の延期で済めば御の字だ」

――総務省は、2011年7月には、地上放送を完全にデジタルに移行したい考えです。可能なのでしょうか。

坂本 絶望的ですね。まず、受信機の問題です。電子情報技術産業協会(JEITA)の統計によれば、09年6月末時点での地デジ受信機の出荷台数は約5400万台です。このことから、「日本の世帯数は約5000万だから、結構普及しているじゃないか」と受け止める向きもありますが、これは大間違いです。この統計の内訳を見ると、薄型テレビ(液晶とプラズマ)、HDD/DVDレコーダー、セットトップボックス(STB)やPCなど。つまり、モニターが付いていないものも含んでいるんです。しかも、企業や役所など家庭以外が買った全数を含み、一家にテレビ2〜3台という重複もある。

――では、実際のところ、地デジ受信機器の普及具合は、どのくらいなのでしょうか。

坂本 先ほどの「5400万台」と比較すべきは何かを考えると、アナログ時代のテレビ、VHSやベータのビデオデッキ、STBなどがこれにあたります。それらを足していくとアナログ受信機器は、2003年段階で間違いなく1億7000〜8000万台ほどあった。現時点では、そのわずか3分の1がデジタルに置き換わったにすぎない。詳しい計算は省きますが、世帯普及率は40%前後でしょう。地デジが始まった03年12月から5年半経ってこの有様ですから、2年間で残り50%以上の家庭に普及させられる訳がありません。
   そう考えると、11年7月の段階で、全体の半分にのぼる「アナログしか見られない人」を「切る」ことは無理なので、延期せざるをえなくなります。

――では、何年ぐらい延期されるとお考えですか。

坂本 このペースでいけば、3年程度の延期で済めばよいところです。3年延期したとすると2014年。テレビの寿命は10年ですから、デジタル放送が始まった04年頃から10年経てば、ちょうど2014年です。1つサイクルが回る形で、ちょうどいい。2014年でアナログ停波ができたら御の字でしょうね。

――放送局が「アナログとデジタル両方発信するという状態(サイマル放送)を続けるのはコスト負担が大変だ」という議論もあります。

坂本 ちょっと前までは、NHKが「アナログを1年続けるのに100億円ほどかかる」と見られていた。ところが、09年夏になって、福地茂雄会長は「60億円かかるので負担が大きい」と述べたんです。これは噴飯ものの理屈です。NHKの受信料収入は08年度には6350億円あったのですが、アナログを続けるための60億円という額は、この1%にもなりません。このご時世、「1年で給料が2〜3割減った」という人は少なくないはずです。そんな中で、「うちは1%支出が増えるので厳しい。だから全世帯でテレビを買い換え、アンテナやケーブルも新しくしてほしい」なんて理屈が通用するはずがありません。
   さらに言えば、09年の受信料収入は、前年度比140億円増の6490億円が見込まれています。これは、訴訟を起こすなどして受信料の回収が進んだのが理由なのですが、この収入増加分だけで60億円が2年分もまかなえてしまいます。NHKにとってアナログ放送の延長は、痛くもかゆくもない話です。

延期して困るのは携帯電話事業者?

――民放についてはいかがですか。

坂本 1系列あたり、20〜30億かかるとみられています。したがって、民放全体では年に150億円程度。ですが、民放にとっては、きわめて軽い負担です。例えば日本テレビの08年度の売り上げは3246億円。1日に10億円以上のCM収入があります。2〜3日分の収入で、系列局が1年間アナログを続けるだけの費用がまかなえる計算です。

――では、延期して困る所は?

坂本 恥をかく総務省を除けば、携帯電話事業者くらいでしょう。彼らはアナログの「跡地」を当て込んでビジネスの展開を考えていますからね。彼らは「ビジネスチャンスが失われる」と言うでしょうが、別に失われる訳ではありません。計画が延期されるだけです。つまり、アナログ停波を延期したとしても、誰も損する人はいないんです。

――いずれにせよ、完全デジタル化はやってきます。そんな中で、地方局はこれまで地デジに多額の投資をしてきました。

坂本 現在の地方局の多くが県域放送ですが、私はこれは、視聴者にとってはやや中途半端な存在だと思っています。長野県を例に取ると、県庁所在地は長野ですが、南部は名古屋の文化圏で、北部は豪雪地帯で新潟の文化圏。そういうところで、同じ放送を流すのは無理があります。
   一方で、地方には「どこの地域でインフルエンザが発生して休校や学級閉鎖になった」といった、きめ細かい情報を求める声があります。県域放送は、これには大きすぎます。対応するのにちょうどいいサイズは、ケーブルテレビ(CATV)やコミュニティー放送。一方で、テレビ局番組のほとんどは東京で作られています。タレントが地方ロケすることはあっても、番組自体を作るのは東京、というのが基本です。そんな中で、地方局というのは微妙な立ち位置に立たされている訳です。
   ただ、ニュースなどを取材するとなると、CATVやコミュニティー放送は小さすぎる。災害の取材については、県域局ぐらいのしっかりした取材基盤が欲しい、という面もあります。難しい問題です。

――番組のほとんどが東京製で「中継塔に成り下がるのでは」との指摘もあります。

「地元に根ざす」を忘れないことが重要

坂本 地方局のCMの多くは、東京からのものがそのまま流れています。キー局がスポンサーから系列局の分まで広告費を受け取って、それをキー局が地方局配分しているんです。地方局が独自に地元のCMだけを取って経営が成り立つようにするのは、経済圏が小さすぎて難しい。この仕組みは、何十年にわたって合理的だったのですが、それに甘んじて「地元密着」を捨ててしまった時が、地方局崩壊の時だと思います。
   たとえば地方局が、1日あたり制作費60〜70万円の「夕方情報ワイド」をやめてしまい、東京からの番組に切り替えて二十何万円か受け取るということが、ここ数年ほど進行しています。地方局の制作率もどんどん低下している。経営的にはプラスでも、制作力や取材力にはマイナスで、非常に危ない傾向だと思います。そうならないために、いかにして自分たちの存在意義を探すかがポイントです。

――「放送と通信の融合」という動きも報じられています。地方局に、どのような影響を与えると思いますか。

坂本 「ネットを使えば、地球の裏でもテレビが見られてしまう」。これは本当ですし、総務大臣をやった竹中平蔵さんなどは、それでいいんだという考え方です。しかし、そうすると、地方局は潰れてしまいます。

――今後、地方局はどうなりますか。

坂本 可能性としては、「キー局の支局」になってしまう、というのもあり得る。ただ、これは視聴者にとってはつまらない話です。
   例えば、阪神淡路大震災の時に、東京キー局はじめ系列局が在阪局に応援を出して総力報道をやったのですが、現場入りしていたあるキー局の取材クルーは、「在阪局に素材を見せたくない」と、バイク便で東京にテープを送ったことがある。彼らは、「東京発」で、高速道路が倒壊した映像のように刺激的なものを、全国に発信したかったんですね。キー局は、そういう発想なんです。
   一方、在阪局が発信したかったのは、「△△電鉄復旧には、あと何日かかる。給水車がいつ、どこにくる」といった、被災者に密着した情報。キー局のニーズと地元局のニーズは、全く違うんです。その地元局が劣化して、地方の人びとにとってよいことは一つもない。

――他の可能性についてはいかがでしょうか。

坂本 再編の可能性もあると思います。そもそも、旧郵政省が「各県に民放を4局置く」ということを目指したのですが、これは破綻した。「もうやっていけない」という地域は、4つある民放が3つや2つになる可能性も否定できません。でも、それでもいいのではないでしょうか。
   近隣の県の局と協力する、といったやり方もあるでしょうし、CATVとの協力も選択肢でしょう。地方ではCATVの視聴率、結構いいんですよね。例えば集中豪雨の時、「何町何丁目に避難勧告が出た」といったピンポイント情報が提供でき、一帯ではどの家庭も見ていたりする。地方局主導で、そういう局を組織化し広域連合を作るといったやり方もあるでしょう。
   ただ、あくまで「地元に根ざす」を忘れないことが重要です。地デジ完全移行まで、あと数年あるはずです。地方局にとっては、「どこからお金をもらい、誰が自分のお客さんで、誰に対して放送するのか」という、自らの存在意義を徹底的に考え直すよい機会だと思います。それをやらなければ、それこそ単なる「中継鉄塔」として廃れてしまいかねません。

坂本衛さん プロフィール
さかもと・まもる ジャーナリスト。1958年、東京生まれ。早大政経学部政治学科を中退。在学中から週刊誌、月刊誌などで取材執筆活動を開始。放送専門誌「GALAC」「放送批評」元編集長。日大芸術学部放送学科非常勤講師。取材協力した田原総一朗著「日本の政治の正体」(朝日新聞出版)が8月20日発売。ホームページ「すべてを疑え!! MAMO's Site」主宰。

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