競馬ファンの中で障害レースを楽しみにしている人は、一体どれくらいいるのだろうか。障害は1日に1〜2レース程度しか行われない上に、その大半は昼休み前の午前中に行われるため、ファンの注目度は決して高いものではない。メディアの露出も極めて低く、先日の小倉サマージャンプは重賞にも関わらず、一部のスポーツ紙は結果のみで、写真はもちろん記事も掲載されていないほどだった。

だが、先日、フジテレビ系の「馬の王子様」という競馬番組で、障害特集が放送された。木曜夜9時54分(一部地域を除く)からの、都合2分半ほどのミニ番組ではあるが、ゴールデン、しかも地上波で障害レースに関する特集が組まれることは、あまり例のないものであり、興味深く見入った。

内容は障害レースとは最大13個の障害を飛び越えなければならない過酷なレース。騎手と馬が一体となるように障害を跳ぶよう調教を課していくことなど、ごくごく当たり障りのないもの。だが、競馬初心者向けの番組ということもあり、知らない人向けにとって親切な番組構成だったといえよう。

一見、何の苦労もなく制作されたような番組だが、この放映にこぎつけるまで相当な努力があったようだ。この回には障害を中心に活躍する金子光希騎手が出演していたのだが、彼のブログにて放映に至るまでの苦労話が切々と綴られている。

今回の障害特集は2年前くらいに発案されて、一度はお蔵入りになったもの。しかし、周囲の後押しもあり実現に至ったのだが、「二時間番組をつくるくらい労力をかけ、また民放のゴールデンという壁が最大の試練だった」というほど、苦労が絶えないものだったようだ。その過程で、金子騎手は少しでも多くの人に障害レースに興味を持ってもらうように協力し、時に心が折れそうになった制作者サイドを励まし、奮闘してきたこと。わずか2分半の番組に「僕の夢と、ディレクターさんの思いが詰まっている」と、大好きな障害レースへの切なる思いを記している。

年々売り上げの落ちてきている競馬会。しかも、障害レースは創設当初から売り上げが伸びない状況が続いている。ギャンブルという側面から考えても、落馬などの不確定要素の強い障害は、ファンにとって手を出しづらいということも、売り上げに繋がらない要因の一つだろう。障害レースは、悪く言ってしまうと“お荷物”的な存在だ。

もちろん手をこまねいている訳でもなく、グレード制を導入したり、国際招待競走を設置するなど、障害レースを盛り上げる方策を怠ってきたわけではない。だが、障害レースが盛んで、レース直前になると一種のお祭りのような活気が溢れているヨーロッパに比べ、日本における知名度の低さ、活気のなさに金子騎手は嘆き悲しんでいる。

同騎手はブログで「競馬会の方々に『ポスターを1枚でもいいから貼っていただけませんか?』と懇願してきているが、未だに実現はされていない。自分の非力さ、そしてどの程度の効果を得ているかも分からないCMにだけ力を注ぐ競馬会に、憤りを感じた」と、赤裸々に今の競馬会の実情と、自身の心情を吐露し、一人でも多くの人に障害に興味を持ってもらえれば、と日々その魅力を伝えている。

以前、障害に騎乗するある騎手が「世界の障害騎手を招待して、WSJS(ワールドスーパージョッキーシリーズ)ようなポイントを競う障害競走を、日本でできる日が来るのがひとつの夢」と言っていたことがあるそうだ。障害でもそういうイベントができれば、もっと日の目を見ることになるのではないだろうか。

金子騎手は最後にこう綴っている。「このブログの読者の皆さんもそうだし、僕の事が好きだろうと嫌いだろうと、競馬と馬がそして障害レースが好きな人々がいてくれるだけで、きっと何かが変わると思い、また願わずにはいられない」。この言葉を聞いて、重い腰を上げようとしない競馬会の今後の対応に期待したい。

■関連リンク
金子光希オフィシャルブログ「そらとぶおにいちゃん」
2分半にかける思い - 同ブログ/7月28日投稿分