小悪魔ageha創刊までの経緯と基本スタンスについて


G:
小悪魔agehaという雑誌はどういうコンセプトで始めたものなのでしょうか?

ageha:
小悪魔agehaが出る以前に「男性が見て夜のお店を選ぶ」というような雑誌はあったのですが、そうではなくて、「夜のお仕事をしている女の子が同じ境遇で働いている全国の女の子たちのメイク・ヘア・ドレスなどを見て参考にできるような雑誌を作ろう!」と思ったんです。夜の仕事をしている女の子たちはさまざまな理由で働いていて、太陽の光を見ないでお酒を飲んだりしているので、本当に疲れてしまって、段々と病んでくるものなんです。そんな夜の女の子たちは、ちょっとでも派手な髪型にしたり、きれいなドレスを着たりするくらいしか楽しみが無いんですよ。だからせめて出勤前に髪型やドレスを決めるのに参考になるものを作りたいなと思っていたんです。

G:
具体的な流れで進めていった雑誌なんですね。そのコンセプトはいつごろから思いついたものなのですか?

ageha:
大学生のときに夜の仕事をしていたんですけど、何でキャバクラ用の雑誌が無いんだろうってずっと思っていたんですよ。以前「Hair&Make&nuts」というムックを作って、増刷するくらい評判がよかったおかげで、会社から何か好きなものを作ってもいいよと言われたのですが、大学時代にキャバのバイトをしていたときのことを思い出して「じゃあ、キャバの雑誌を作りたい」って言ったんです。初めは「は?」って感じで見られたのですが、局長が「失敗したら失敗したでいいよ」という感じでチャンスを与えてくれたんです。実際に思っていてもなかなかチャンスを与えられなかったのでうれしかったのですが、男の人には分からない世界観だったようですね。

G:
今まで小悪魔agehaしか見てなかったので、どういう経緯でこんな雑誌が生まれたのか全く分からなかったのですが、やっと理解できました。

ageha:
大手の出版社ならプレゼンテーションとかしなきゃいけないと思うのですが、うちは小さな会社なので局長に「こうしたいんです」と言うだけでよかったんですよ。

G:
すごいですね。大手では考えられないですよ。

ageha:
わたしの場合、それまでいくつか作っていて「失敗してもいいよ」という感じで始まったので、具体的なコンセプトなどは会社にも話していなかったんです。「わたしだけ分かっていればいいや。ほかに誰も分かってもらえないだろう」と思って自分の中だけで消化してましたね。

G:
最初にムックでスタートしたときは何名で制作していたのですか?

ageha:
わたしとバイトの子の2人で制作していました。今はモデルをしている子なんですけど。元々、nutsなどで読者モデルをしていた子で「編集もやりたい」と言っていたんですよ。でも、社員を雇えるほどお金がなかったのでアルバイトとして手伝ってもらっていたんです。その子は上京して一人暮らしをしていたんですけど、ここのアルバイト代だけでは生活ができないので、夜は歌舞伎町で働いてもらっていたんです。そうした中で「これよくない?」などといいながら2人で作っていましたね。

G:
すごいですね。今では10名まで編集部員が増えたと言うことなのですが、ある時点でいきなり増えたのでしょうか?それとも徐々に増えていったのでしょうか?

ageha:
徐々に増えていった感じですね。月刊になる時点でほとんど人がいなかったので、本当に死んでしまうと思いました。そのことに会社が気付いてくれて人を入れてくれるようになったので、今ではかなり増えましたね。実は会社の中で一番人数が多い編集部なんですよ。なので「すごく恵まれすぎてどうしよう、怖い……」って思うことがあります。今のように10人いれば1人ぐらいは入院しても大丈夫ですが、最初の頃みたいに本当に2人しかいない状態だと、どちらかが倒れたら終わりなのでいつも綱渡り状態でした。本当に今は幸せで仕方がないですね。

G:
小悪魔agehaは2005年10月に「nuts」の増刊である「小悪魔&nuts」として創刊され、2006年6月から「小悪魔ageha」に誌名変更、そして2006年10月から月刊化されてますが、どういった経緯で月刊化にこぎ着けたのでしょうか?

ageha:
最初は2005年10月に「小悪魔&nuts」の1号目を出したのですが、発売して3日で増刷になったんです。その時にある程度売れたので「これはいけるだろう」ということになって、その年の4月に「小悪魔&nuts Vol.2」を出たんです。でも、「nuts」とつくと黒肌のイメージがが強くなってしまうので、今の小悪魔agehaのように肌の色にこだわらないものを作るためには、とにかく名前を変えないといけないと思ったわけです。「小悪魔ageha」という名前は「小悪魔&nuts Vol.2」を出す前から既に考えていたんですよ。でも、月刊化したときに急に雑誌名が変わるのもおかしいと思ったので、次の号ですぐ「小悪魔ageha」に変更しました。その後、売り上げ部数が一気に上がったので月刊化にこぎつけたという感じですね。

G:
本当に評判がよくて月刊化につながったわけですね。

ageha:
そうなんです。会社が無理やり月刊化する雑誌もあるのですが、小悪魔agehaは確実に実績を積んで月刊化につながった雑誌なんです。それに、「6月1日発売」「7月1日発売」みたいな感じで「毎月1日発売」のギャル誌を出すのがすごい夢だったんですよ。いつかPopteeneggの間に入るのが夢で、小悪魔agehaだったら並べる日が来るかもしれないと思っていました。でも、ムックだと1日発売にするのが難しかったので、1日発売にするには月刊化するしかないと思って当時は必死に働いてましたね。ギャル誌にとっては1日売りはあこがれの席になるので、最初は「おじゃまします」みたいな感じでようやく入れたという気持ちでした。

G:
小悪魔ageha」という非常に印象的な名前なのですが、その雑誌名の由来はどのようなものなのでしょうか?

ageha:
わたしは肌の色などとは関係のないものを作りたいと思っていたのですが、「小悪魔&nuts」のnutsというフレーズを使ってしまうと黒肌のイメージが強くなってしまうので、どうしても別の名前にしたかったんです。小悪魔&nutsから使っていた「小悪魔」というのは、女の子にとって魔性的な意味も含む最高の褒め言葉だと思うんですよ。夜の仕事では「小悪魔だね」といわれる事は自分を評価してくれているという事なので、褒め言葉としていいなと思っていました。「ageha」というのは、夜っぽくて可愛い名前にしたいなと悩んでいるときに夢の中でアゲハチョウが出てきたんです。そのときに「それがあった、夜の蝶だった」って思って決まったんです。本当はagehaだけにしたかったのですが、商標が取れなかったため、頭に「小悪魔」をつけて「小悪魔ageha」という謎の名前になりました。最初はおかしいなと思ったのですが、今では世の中に浸透したのでよかったですよ。

G:
小悪魔agehaといえば非常に表紙が特徴的で、「nuts」から「ageha」に変わった時点で表紙のイメージがずいぶんと変わっていますが、これは何か方針転換があったからなのでしょうか?

ageha:
元々、小悪魔&nutsの頃からキラキラでで可愛いというコンセプトは同じなんです。ただ、ロゴが小悪魔&nutsの頃はnutsのものを使わないといけないなどの制約はありましたけど、表紙も中身も基本構成は変わってないんですよ。

G:
実は全巻そろえている人がいて、その表紙を全巻並べてみると、号を重ねるごとにキラキラ度合いがエスカレートしていて、最初の頃と今とでは全然違うんですよ。

ageha:
もしかしたら今の表紙とは全然違うかもしれないですね。やっぱり最初は冒険するのが怖かったんですよ。特に小悪魔&nutsの時は売れないと月刊にならないので、できるだけいろんな人が見てもらえるように無難に攻めていたところがあるのですが、今では別に何をやっても構わないので、ロゴを崩壊させてみたり、今しかできないことをできるだけやろうとしています。でも毎月同じ事をしていても飽きるので、キラキラさせていない号もあるんですよ。

G:
表紙と言えばほかに気になることがあったのですが、「」や「」など割と暗いテーマをタブー視せず、あえて表紙などで全面的に押し出すケースがありますが、これはなにか考えがあってのことなのでしょうか?

ageha:
やっちまいたかったからですね。なんか最近キラキラさせる雑誌が多いじゃないですか、週刊アサヒさんでもキラキラさせているくらいですし。わたしもすごく雑誌が好きでよく読むのですが、コンビニなどで雑誌を見ていると、あまりにもキラキラしすぎていてつまらないんですよ。どこを見てもピンクでキラキラしているのを見て、「女の子の雑誌がみんな同じになっちゃう」って思ったんです。それで、読者がどれを手にしても同じだと思わせてしまってはいけないと思ってあえて違うことをしてやろうと常に考えてます。また、女の子は真っ黒な側面も持っているので、そういった部分も前面に押し出していきたいとも思っていますね。

G:
確かに本屋で平積みになっている小悪魔agehaは特に目立っていますからね。

ageha:
でも、本当に最近の雑誌はキラキラさせているのが多いんですよ。特に下の年齢層の雑誌は上の年齢層の雑誌の真似をする傾向があるので同じようなものが増えてくるんです。そうなってくると飽きちゃうじゃないですか。だからコンビニで見かけて「何だこの表紙は!気持ちワル!」みたいなのでいいのでビックリさせてあげたいですね。

G:
タイトルからしてほかの雑誌とは一風変わった特集が目立つのですが、今まで組んだ特集などの中で特に読者からの反響が大きかった特集はどのようなものだったのでしょうか?

ageha:
基本的にメイク系の特集や巻き髪系の特集は常に人気があるんですよ。基本的に絶対に人気が出ると判断したものしかしないし、人気が出ると判断したら土壇場でもひっくり返すタイプなので、これまで失敗したなと感じた特集はありませんね。ただ、やってみて意外だったというのは、先程もお話しに出た「人間だから病んでいる」という「病み(闇)」特集ですね。実際病みは「どっちかなぁ……」と思ったんですよ。でも絶対にうちの読者は共感してくれるだろうと思って掲載してみるとすごく反響が大きかったんですよ。

G:
「病み」というのはずいぶんと思い切った特集ですよね。そういった傾向はアンケートはがきなどで汲み取れていたのですか?

ageha:
アンケートはがきはすごく参考にしていますが、「病み」に関しては創刊当初からやりたいと思っていたことなんです。女の子が好きなものや共感できる事を載せるというのが基本なんですが、「病み」に関しても女の子として生きていれば誰もが通ってくる道ですし、人間だから病むのは当然。だから、病んでいるのはあなただけじゃないんだよって言う事をみんなで分かり合いたかったんです。そうしたらみんな共感してくれて、すごく人気が出たんですよ。

G:
最初からやりたかったということなのですが、創刊した直後に病み特集をやらなかったのは何か理由があったのですか?

ageha:
病み特集も含めてやりたいことはたくさんあったのですが、創刊当時は確実なことしか怖くてできなかったんです。今みたいに30万ベースになって初めて冒険できるようになったのですが、当初はまだ怖くて「病み」を扱う勇気がありませんでしたね。「これをいきなりやるのもなぁ……」って。

G:
今話していただいた病み特集も含めて、特集の決め方というのは編集部全員で考えているのですか?それとも、編集長が思い切って突き進んでいく方が多いのでしょうか?

ageha:
わたしが勝手に決めることが多いですね。それでもちゃんと編集会議はしています。編集会議で眉毛の形はどうなのか、トップはどれくらい盛った方がいいのかなど、女の子たちは何が好きなのかを私自身も肌で感じつつ、各編集部員たちにも実際に感じてもらうため、常にチェックしておいてほしいと思っています。

G:
今までのお話を聞くと、小悪魔agehaって読者目線で作っているんですね。

ageha:
そうなんですよ、絶対に読者の子たちから離れないようにしようと思っています。ゴルフとか絶対にしたくない。ゴルフなんかしたらageha作らないって言っているようなものですね。貧しい生活をするのがわたしの役割だと思っています。

G:
編集企画などでさまざまな企画が出てくると思うのですが、これは無いと思った企画はありますか?

ageha:
企画会議の時にそれぞれ企画を持ち寄るんですけど、実は企画会議ってあっても無くてもどっちでもいいと思っているんです。企画会議で出るプランって、自分が考えたプランというよりも通るためのプランじゃないですか。わたしのチェックやみんなに納得してもらうためのプランを考えてくるので、通りやすいものがでてくるんですよね。だから特に飛び抜けていい案も、ハチャメチャな案も出てこないんです。本当は心の中で思っていることをわたしがもっと引き出してあげないといけないのかもしれないのですけど……

G:
ちなみに、今まで小悪魔agehaを作ってきて修羅場というか大事件と呼べるようなことは無かったのでしょうか?

ageha:
大事件といえるものは無いですね。でも、言えないことが多いですね、キャバクラさんが絡んでくるので。夜の仕事の女の子たちがモデルで出ていますし、夜のお店の人たちとおつきあいしなければいけないので、そのあたりは普通の編集部とは違うんですよ。

G:
修羅場をくぐってきたという感じですかね。

ageha:
最初の頃は新入りって言うか、飛び入り参加って感じだったので大変でしたね。今は普通におつきあいしてもらえますけど。

小悪魔agehaの編集部を見せてもらうことに。1階のエントランスと違って、いかにも「編集部」という感じ。


中條編集長がいっていたように、ちゃんと男性編集部員もいました。


中條編集長の机。正面に鏡が置いてあるため、ファッション雑誌の編集長という雰囲気がよく出ています。


仕事をしている様子。隣に積んであるアンケートはがきはすべて読んでいるそうです。


これは雑誌で利用した物でしょうか。


ファンにとってはものすごい貴重かもしれないちょうちん。

G:
次に、インターネットと関係したことをお伺いしたいのですが、公式通販サイト「小悪魔agehaショップ(http://ageha-shop.com/)」はいつ頃からできたのでしょうか?

ageha:
実はかなり前からあるんですよ、創刊1周年記念を終えたあたりからじゃないですかね。でも、私はあまり通販に興味が無いんですよ。私たちは雑誌を作っている人間ですから、物を売ることに関してあまり興味が無いんです。

G:
あれは編集部で「やろう!」と言ってできたものではないのですか?

ageha:
会社に言われたときは本当に嫌でしたよ。でも会社の方針として儲けるためにやらなきゃいけないじゃないですか……

G:
通販サイトは編集部の意思ではなく会社の方針で出来たサイトなんですね。

ageha:
そうなんです、最初に話を聞いたときは本当に嫌でした。読者の子がいろんな情報を得るために雑誌を買ってくれるのに、そこで物を売りつけるというのはすごく嫌なんですよ。やらなきゃいけないと言われた時はすごく抵抗しました。でも今は仕方が無く服の監修やどの服をどのモデルに着せるかといった見せ方などはわたし自身が徹底的に見ています。物を売りたいわけではないのですが、小悪魔agehaの事を分かってない人たちに小悪魔agehaを汚されたくないからなんです。私たちは通販ページを作ることができないので、ホームページ作成などに長けた人が来て作ることになるわけですが、そういう人たちってどの服が可愛くて、どの服が売れるのかちんぷんかんぷんじゃないですか。そういう人たちにagehaを汚されないために内容に関してはすべて監修しているんです。また、私たち編集者は物を作る人間なので、物を売るとか商人的な考えが良くわからないんですよね。売り上げがどうのこうの言われても「はっ!?」みたいな感じじゃないですか。それでも汚されたくはないので、仕方がなくやっています。でも、やっぱり今でも売りたくはないですね……こんな事言ったら会社に怒られてしまいますが……

G:
ちょっと雑誌自体の指向が違うので一概には比較できないのですが、集英社の「LEE」は雑誌と連動した通販サイトLEEmarche(リーマルシェ)を持っており、「年間売上げが7億円を超えた」ということなのですが、小悪魔agehaショップではどれぐらいの売上になっているのでしょうか?

ageha:
「売り上げのことは絶対に私の耳に入れるな」と言っているのでまったく知らないんです。どんなに儲かってもうちの編集部員のお給料が上がるわけではないですから。

G:
もしもの話なのですが、雑誌という紙媒体ではなくインターネットという媒体で「小悪魔ageha」を作るとすれば、どのような作り方をすると思いますか?

ageha:
作らないですね。ほかの人が作ろうとするかもしれませんが、わたしはやろうと思わないので分からないですね。作り方も分からないですし、機械系が苦手なんです。

G:
今までのお話を伺った限り「雑誌大好き」という感じなのですが、ネット上ではあまり「ファッション」についての情報が言うほど多くなく、まだまだファッションに関しては雑誌が主導権を握っていると思うのですが、今後「ageha」はインターネット、あるいはモバイルとの関わりなどは予定されてないのでしょうか?

ageha:
私は小さな頃から雑誌が好きで、ずっと紙で情報を得る喜びを感じながら育ってきているため、インターネットで「小悪魔ageha」を載せるというのは全く考えられないんです。携帯小説などを読んだりするのも全く問題ないと思いますが、雑誌という楽しみもあるということを忘れられてしまっては困りますよね。雑誌で育ってきた私たちが編集者という立場になったので、今度は下の子たちに面白い雑誌を作って読ませてあげないといけないと思うんです。そうしないと、どんどん雑誌を読んでくれなくなっちゃうじゃないですか。そうするとインターネットの方に流されていってしまうと思うんです。やっぱりインターネットのように手軽にお金出さなくても簡単に見れてしまうって、確かにそんな手軽で面白いものなんて無いじゃないですか。でもそうじゃなくて、コンビニや本屋で表紙を見てビックリして、中身を見て度肝を抜かれて買って、そうやって買った雑誌をを隅々まで見るという一連の流れが、こんなに楽しくて面白いんだと感じさせるように私たちが頑張らなければならないんだって思うんです。