電子の移動で通信:「微生物のネットワーク」と神経網

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Yuri Gorby


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ネットワークと聞くと、われわれは世界中に張り巡らせて互いを結びつけている、人間やケーブルのそれを思い浮かべる。電子の移動方法を見出すことで、人間の社会は変化してきた。しかし、この地球上でネットワーク社会に生きているのは人類だけではない。

数年前[2005年6月]、ミシガン州立大学の微生物学者Gemma Reguera氏が、ある種のバクテリアは導電性の付属器[繊毛]を発達させると報告した

[このバクテリアはGeobacter sulfurreducensで、繊毛を導電性ナノワイヤーとして機能させ、電子を細胞の表面から細胞外の電子受容体(酸化鉄)へ移動させる。Geobacter(ジオバクター)属は、金属化合物を感知でき、それに向かって移動し、還元する性質を持つ]

その後まもなくして、このような「生物的ナノワイヤー」を発達させる能力は他のバクテリアにもあることを、筆者の研究室は突き止めた[本記事を執筆したYuri Gorby氏は、J. Craig Venter Instituteの電子微生物学者]。酸素を生み出す細菌で、光合成を最初に行なったともいわれる藍藻(シアノバクテリア)は、二酸化炭素の量が限られた状態にある場合、それに反応して導電性のナノワイヤーを発達させる。また、熱を好み、メタンを生成する微生物の集合体では、ナノワイヤーが異なるドメイン[分類]に属する生物どうしを結びつける役割さえ果たしているとみられる。

バクテリアの多く(ひょっとすると大半?)がナノワイヤーを生成することを、われわれは、徐々にではあるが着実に理解しつつある。バクテリアの諸細胞が、これらの細胞外構造によって結びつき、1つの複雑な集団となっている様子は、まるで神経ネットワークのように見える。

われわれは今、新たな科学の最前線に立っていると思う。電子微生物学(Electromicrobiology)の研究は、このようなバクテリアにおけるナノワイヤーの構成要素、反応性、役割について、確実に新たな知見をもたらすだろう。

バクテリアの活動について知識を深めることは、われわれ自身の体や地球について知識を深めることに等しい。人間の体には、人体の細胞の10倍のバクテリア細胞が存在する。バクテリアや古細菌という、細胞核を持たない原核生物は、地球のバイオマスの大部分を占め、最も重要な栄養素を循環させる役割を担っている

バクテリアの多くの種が、ある種の化学信号を発信・受信して情報交換を行なっていることはすでに広く知られている(日本語版記事)。バクテリアのナノワイヤーに関する最も刺激的な仮説は、ナノワイヤーが、それとはまた別の原始的な(あるいは高度な?)コミュニケーション・システムの一部なのではないかということだ。

それぞれが独自の組み合わせの代謝反応を有する個々の細胞が、導電性フィラメントでつながっているということを考えてみると、この仮説は理にかなっている。ある生物から別の生物への電子の移動率や移動頻度は、1つのコミュニケーション形式として十分に成立しうるものだ。

バクテリアが、神経生物学的な集積回路を使ってコミュニケーションしていることを証明するのは容易なことではない。しかしそれが成功すれば、微生物の生理学や生態学に関するわれわれの認識は根底から変わることになるだろう。

研究者たちはまだ、これら微生物の小さな導電性付属器[繊毛]の特性を解明している段階だ。このナノワイヤーが主にタンパク質でできていることは分かっているが、タンパク質の種類は微生物によって異なるようだ。ナノワイヤーは、標準的なバクテリアの体長の10倍以上の長さに達することがあり、通常直径は8〜10ナノメートルほどだ。このように長いワイヤーは、一種の呼吸管としての用途も考えられる。ナノワイヤーが、個々の細胞の長さの10倍の距離まで電子を移動させられることを示す証拠もある。これを使えば、細胞が比較的遠くにあるエネルギー源にアクセスすることが可能だが、ナノワイヤーがそのような用途に使えるかどうかは、現時点では不明だ。

おそらくより重要なことは、地球上で最も古い有機体における、効率の良いエネルギー分散とコミュニケーションについて理解することは、われわれ自身の持続可能性にとっても有益なアナロジーになりうるということだろう。

WIRED NEWS 原文(English)

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