混沌と秩序の入れ混じる国・中国へ行く(2)
2009年07月06日06時46分 / 提供:PJ
上海の中心を流れる黄浦江の南北両岸で開催される上海万博。威容を誇るメイン・パビリオン「中国舘」、館全体の建築コンセプトは、中国の精神を象徴するといわれる「東方の冠」。南海大橋からの遠望。(6月25日撮影:今藤泰資)
200の国家と国際機関の出展、見学者7000万人を目標とし、2010年5月1日から10月31日まで開催される上海万国博覧会は、上海の中心を流れる黄浦江両岸の広大な土地を利用して行われる。メインテーマは「より良い都市、より良い生活」、サブテーマは「都市多元文化の融合」であり、都市経済の繁栄、都市科学技術の革新、都市コミュニティーの再生、都市と農村の対話である。威容を誇るのがメイン・パビリオンの中国舘。館全体の建築コンセプトは、中国古代の冠を連想させる「東方の冠」。「東方之冠、鼎盛中華、天下糧庫、富庶百姓(東方の冠、盛んな中華、天下の糧庫、物産豊かな百姓)」という16文字の設計理念は、中国文化の深さと奥行きを具現化したものだ。主な色調は伝統的で落ち着きのある「故宮城壁の紅」で、中国文化の精神と気質を表現することになるという。
1970年の大阪万博と東京オリンピックの開催の前後から、わが国では主要高速道路が整備され、東海道新幹線が開通し、国際空港も地方空港も利用者が著しく増加した。韓国もそれに倣って1998年、ソウルで五輪大会を開き、中国もまた昨2008年に北京五輪大会を成功させた。オリンピックを利用した中国的覇権主義との批判もあるほど、国威を発揚させてきた事実は記憶に新しいところだ。評論家の境屋太一氏は中国情報を専門とするウエブサイトのサーチナ紙上で「開催都市にとっては考えも及ばない発展を意味する。大阪でも名古屋でもその後の約10年は発展した。パリとシカゴは輝かしい文化を創った。うまくいけば上海は世界の文化センターになる」とまで語っている。後発効果をいかんなく発揮し、浦東国際機場と地下鉄龍陽路駅を結ぶ「上海磁浮快速列車」(リニア・モーターカー)は全長約30km。最高時速430キロ、世界最速の商業路線も完成ずみだ。巨大国家の万博にかける意気込みは生半可ではないのである。
2001年12月11日、中国はWTOに加盟した。あい前後してインフラ整備に力を入れ始めた。まず電力事情を改善するため発電量を増加させ、地域格差を是正するため西電東送(西部で発電し東部に送る)を計画。その結果、90年代に比べおおよそ2倍の電力が必要な地域に供給され、産業構造の改善と個人生活の向上を成し遂げた。都市部と農村部、高所得者と低所得者の普及格差が課題となっているが、インターネットの利用者は05年には1億人を超えている。遅れているのが上下水道の完備だ。人口の増加や農業工業の発展による上水道需要の増大により、地下水位は低下し、水質悪化などの問題が生じ、河川や湖沼による水源の水質悪化が今問題となっている。下水道は10年間で都市下水道総延長距離が3倍近くになった。反面、巨額の投資が必要なため下水道整備は遅れ、生活排水の処理が大幅に遅れているのはこの連載記事(1)で解説したとおりだ。
この国のインフラ整備の特徴の一つは、携帯電話の驚異的な普及による通信事情の変化である。携帯電話の保有率は過去10年の間に約4700倍になり、携帯電話の絶対数では世界一になったとされている。一部地域では、固定電話の台数を携帯電話が上回るほど普及したのも、広大な国土の隅々まで巨費を投じての架設工事が不要であったからだ。ところでわたしは移動する観光バスの窓から、高速道路網の発達と携帯電話の驚異的な普及率、さらには生活意欲旺盛な人民の発想が、ものの見事に投影されているのを発見して驚き喜んだ。
立ち入り禁止のはずの高速道路のあちこちに早朝から人影がうごめいている。中には子連れでインターチエンジ付近を歩く夫婦の姿もあった。ある場所では大荷物(おの国の旅には大型のビニールバッグが特徴だ)を抱えた男が10数名近く群がっていたりする。異様な光景が続くことに気がついたわたしは、早速観光ガイドに聞いてみた。「あれはね、高速バスの運転手と結託した安乗り旅行者」。以前に利用したか、他から情報を得たのか、ともかく遠距離を格安で旅したい人と、しがない稼ぎであえぐ運転手らが発案した苦肉の策らしい。両者の連絡手段は、もちろん携帯電話である。かくして運転手と利用者は、高速道路上の「任意の場所」で乗り降りすることになる。「警官に捕まったら一大事」だが、「公安」の二文字を掲げたクルマが頻繁に行きかう高速道路で、これだけ大勢の人間がたむろすれば容易に見つかりそうなはず。規制を強化し、報道を管制し、人々の移動にまで干渉するこの国にあっては、こうしたカオスは必要不可欠なのかもしれない。バスには効率よく利用者を満たし、低所得者の格安旅行を援助し、おまけに重労働であろう長烏距離運転手のフトコロを潤すこの作法。ワイロや税金で私腹を肥やす官吏を想起すれば、利便性の高い高速バスの使用方法が、一概に「悪」だと断罪はできます。この日わたしは、わが国でもマネして見てはどうかとさえ思ったものである。【つづく】
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