加盟店に対する優越的な地位を利用して賞味期限切れが迫った弁当などの「見切り販売」(値引き販売)を制限していたとして、公正取引委員会がセブン−イレブン・ジャパンに対して独占禁止法に基づく排除措置命令を出した問題は、コンビニ業界全体を揺さぶっている。「経営指導」の名を借りた値引きの制限は、程度の差はあるものの各社共通。そのひな形を作ったのが他ならぬセブンだけに、各社とも加盟店との契約再検討に追い込まれる可能性があるためだ。

売れ行き好調なら本部と加盟店の軋轢表面化しなかった

   公取委の命令を受けた翌日の2009年6月23日早朝。鈴木敏文セブン会長は井阪隆一社長に電話を入れ、緊急役員会の招集を指示した。午前8時半から始まった役員会で、排除命令に対する加盟店の反応が次々に報告された。排除命令を受けて、見切り販売が一気に広がるのではないかといった本部、加盟店両側からの不安感だけにとどまらない。むしろ、見切り販売の前提になる売れ残りを出さないようにするため、発注量を減らす加盟店主が増えるのでは、というエリア担当役員の懸念が相次いだことだ。

   セブンの一部の加盟店が見切り販売に踏み切った背景には、「棚にたくさんの商品がないと買わない」(新浪剛史・ローソン社長)という顧客心理を背景に、一定程度の廃棄を前提にした発注が当然視されてきたコンビニ業界の慣習がある。売れ残りで廃棄される商品の原価は、最終的な発注責任がある加盟店側が負う。それでも売れ行きが好調なときには本部と加盟店の軋轢は表面化しなかった。しかし、コンビニ各社の積極的な出店で、同一エリア内に競合コンビニの店舗はもちろん、同じセブンの看板をかかげる店舗が新設されることも珍しくなくなり、この数年、各店ごとの売り上げはジリ貧状態が目立つようになった。客の節約志向も強まり、スーパーなどの値下げ競争が激しくなる中、加盟店に負担を強いて成長してきたフランチャイズ・ビジネスの矛盾が一気に吹き出した。

「値下げ制限110番」設置する動き

   「店舗の品ぞろえが縮小均衡に陥っては、いつでも欲しい商品が選べるというコンビニのビジネスモデルが崩壊しかねない」。セブンの23日の役員会では、これまで加盟店が負担していた弁当などの廃棄損失の15%を本部が負担することが決まった。本部として年間約100億円の負担になるが、鈴木会長のツルの一声だったという。同社の09年2月期の営業利益は約1780億円。新たに発生する費用はその6%弱だが、同業他社からは「最大手のセブンだからこそできる数字」とうらみ節も聞こえる。

   井阪社長はこの会見で「本部による新たな支援策の導入で、加盟店が積極的な発注を維持すれば、(品切れで)これまで取り逃していた目に見えない機会損失を回復できる。100億円の負担がそのまま収益に響くことはない」と強気の姿勢を見せた。

   だが、見切り販売の拡大を食い止められるかは不透明だ。公取委の排除命令後、一部加盟店には弁護士事務所などと手を組んで「値下げ制限110番」などを設置する動きもある。現状で2〜3%とされる廃棄率をすぐに縮小できる手立てがないことは井阪社長自身が認めているところ。「食品ごみ」削減を求める消費者の声が、見切り販売を続けてきた加盟店側の「口実」になることは確実だ。

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