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【MiAUの眼光紙背】医薬品のネット販売規制は誰が得をするのか?

2009年06月23日11時00分 / 提供:眼光紙背

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MIAUの眼光紙背:第32回

改正薬事法についての厚生労働省の省令が6月1日より施行された。6月以降は、整腸剤やうがい薬といった371品目の医薬品がコンビニで買えるようになる一方、風邪薬や胃薬などの一般用医薬品のネット販売は離島地域の居住者と継続購入者のみに限定され、それまで普通の人が利用できた薬がインターネットで買えなくなった。

この規制の理由は表向き「消費者の安全のため」ということになっている。しかし、リアルの薬局などでは薬剤師でなくても薬が販売できるように規制緩和されている上、薬局では薬を使う本人以外でも薬を買い放題なのだから、あまり「安全」面では役に立っていないのが実情だ。

今回の場合、「省令」によってネット販売が禁止されたという部分も曲者。省令の場合、違反しても罰則がないからだ。だから、実質的にネット通販業者が今医薬品を売り続けても罰することはできない。Yahoo!や楽天といった大手の通販業者であれば、コンプライアンスの観点から、罰則がなくても省令に従うだろうが、一部脱法的に省令を無視してネットで薬を売りまくる業者が出てこないとも限らない。そうした構図から考えても、この省令が消費者の「安全」の役には立っていないことがわかる。

こういうよくわからない規制が出てきたときは、まず一番に「誰が得をするのか」を考えるのが得策。そうすれば自ずと筋道が見えてくるからだ。“Cui bono?(誰が得をするのか)”は、ローマ時代から続く捜査の基本だ。

まずは楽天やYahoo!などのオンラインショッピングモールや、オンライン薬局の団体だ。彼らのように現在医薬品の通販事業を行っている業者が損をするということは100%間違いない。楽天は一般ユーザーの購入確認画面で署名を集めるなど、かなり際どいやり方で厚労省に対する対決姿勢を明確にしてメディア露出を行い、審議会においても三木谷社長が「無双」状態になるなど、この問題で八面六臂の奮闘をしているが、実質的に彼らは今「損」しかしていない状態だ。厚労省に対して行政訴訟を起こしたケンコーコムらにしても、大差はなく、「損」側の立場といえる。

次に薬剤師や製薬会社はどうか。まだまだネット市場は小規模とはいえ、米国などで行われている処方箋薬のネット販売などを自らの事業として行えば、医薬品市場が今以上に拡大することは彼らとて理解していることだろう。大手の製薬会社はそもそもグローバル企業であるし、オンライン薬局に勤務する薬剤師もいる。彼らは今のところ微妙な立場にあるが、ネットを切り捨てたら将来的に損をするということは理解している。その意味において、薬剤師や製薬会社もこの件によって「損」をする当事者だ。

では、一体誰が得をしたのだろうか。

この規制について厚労省で開催された検討会の参加者名簿をよく眺めてみると、得をする業者が見えてくる。それは下記の2業種だ。


1 リアル店舗を持つ薬局・薬種商
2 薬を売り歩く置き薬業者


改正薬事法によって消滅した「薬種商」と呼ばれる商売を行っている協会、そしてリアル店舗を構えているチェーンドラッグストア協会。このあたりは新興のネット業者に対して強力な牽制球を投げる立場におり、現時点では確実に「得」をする立場にある。かつてAmazonが日本最大級の書店になったことで、リアルの書店がどんどん潰れていったように、オンラインの薬局が台頭してくると、既存のドラッグストアチェーンが得ていた利益が食い荒らされる可能性が高い。しかし、今回の省令によって当面そうした逆転が起きる可能性はかなり低くなった。

そしてもう1つは置き薬関連の2つの団体だ。置き薬というのは各世帯を一軒一軒回って、簡単な薬セットを販売していく薬の訪問販売業者のこと。伝統的な販売形式ではあるが、ネット世代の一人として率直な感想を述べれば、わざわざ訪問販売で薬を買う自分の姿が想像ができない。そんなことをするくらいなら安い店から通販して好きな時間に運んでもらった方がいい。置き薬販売は「主婦や老人などがいつも家にいること」を前提とした古いビジネスモデルである。必然的に高齢層の主婦や高齢者をメイン顧客とせざるを得ず、このままでは先細りは必至だ。そんな業界が「対面販売でありさえすれば、薬剤師でなくとも、しかも薬を使う本人ではない人間にでも医薬品を売れる。そして、それ以外はすべて禁止!」という省令をありがたがらないわけがない。間違いなく彼らも「得」をする側の立場である。

では今回の省令騒ぎは彼らが厚労省と結託して行った陰謀だったのか。話はそう単純ではない。置き薬系の業界は2つの団体に分かれているし、ドラッグストアと薬種商も別の団体だ。本来、統合されていてもおかしくない業界団体が別個に存在しているというのは、そこに政治的な対立があると考えるのが常識的な推論だ。そもそも、リアルのドラッグストアを束ねた業界団体と、オンラインでの薬局を束ねた団体が別になっているのも妙な話。このように業界団体が細分化しているのは、お互いにあまり仲が良くなく、細かく政治的に対立する火種を抱えているからであろう。

個人的な見立てで今回の医薬品問題をばっさりまとめれば、「政治的調停の失敗」であったのではないかと思っている。今後伸びることが間違いないネット市場にお互いに仲が悪く利益の相反する団体が大挙して押し寄せ行政を動かしたところまでは良かったが、それ以降の取りまとめに失敗してしまい、結果として市場を潰してしまった。これが筆者が考えるこの問題の大雑把な俯瞰図であり、真実からもそれほど遠くないのではないかと思っている。

利権のなれの果てであれ、陰謀であれ、政治的調停の失敗であれ、6月以降医薬品のネット販売が停止されて不便を被り、危険にさられているのは一般の消費者だ。一刻も早く、実態にそぐう形での改革を期待したい。(中川譲/MIAU理事、多摩大学情報社会学研究所RA)

プロフィール:
MiAU 2007年設立。ネット上の世論を集約し、政策提言などを行う団体。著作権法関連の動きについて、ネットユーザが意見表明するためのサポートを行っていくことを目的として設立された。
公式サイト:MiAU

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「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。バックナンバー一覧 Readerに追加RSS
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