相手が弱過ぎたとの声が出たキリンカップだが、特にチリ戦は最近の閉塞感打破に繋がるいくつかの収穫が見えた。

まず何より過去にバーレーン戦で起用しながらアピールできなかった本田圭佑を再招集し、希少価値を持つ2列目から得点を狙える素材としての成長を確認できたこと。次に玉田圭司の故障により1トップに移動した岡崎慎司が機能したこと。さらには「ジェラードを意識させた」(岡田監督)という中村憲剛のトップ下が効果的だったこと。そして山田直輝を初めとする新戦力を試せて、今まで不得意なポジションで真価を発揮できなかった矢野貴章も右サイドからスピードを生かして得点に絡む長所をアピールするなど、一気にオプションが広がったことである。

 

前回のドイツワールドカップを振り返っても、1年前のコンフェデレーションズカップではブラジルに食い下がり、収穫を手に帰国したかに見えた。ところが本大会では完敗。

他大陸の代表は、厳しい予選を繰り返しながら、チームを整備しオプションを広げて成長していく。むしろ長めのキャンプを実現できるのは、ワールドカップか、その間に挟まる大陸選手権の前だけなので、普段はレベルの高いリーグで揉まれた個の実力が、そこで組織としての機能的に結集されていく。逆に1年前からチームがほぼ完成し、メンバーも固定された状況では、本番で多くを望むのは難しくなる。

 

ジーコ監督は新しい素材が出てきても「順番を待つことが大切だ」と、一貫して序列を崩そうとしなかった。基本的には故障やアクシデントがない限り、着任当初に出来上がった「ベスト11」を送り出し、プレー時間を長く共有させることで熟成を促そうとした。

 

実は一見若手の抜擢を好む岡田監督も、これまでの流れを見る限り、似たような傾向が否めない。98年フランスワールドカップでも3試合とも同じベースのメンバーで戦い全敗。親善試合で結果を出した岡崎や中村憲も、公式戦になり欧州組が戻るとベンチに座った。

だが内部で健全な競争原理が働き、過去の実績にとらわれず活性化が促進されていかないとチームは伸びない。自信をつけている旬な選手は、伸びようとする瞬間を捉えて使わないと勢いを失ってしまう。

一方で岡田監督が今全幅の信頼を置く中村俊輔や遠藤保仁が1年後も看板選手である保証はないし、ドイツ大会のようなアクシデント(発熱)もありえる。

 

過去のワールドカップを振り返っても、成功するチームは、レギュラー当落選上にある若手を巧みに勢いづかせている。

象徴的だったのが90年イタリア大会。開幕戦ではサブだったスキラッチは、交代出場でゴールを重ね最終的には得点王になった。さすがに情報も発達した現在では、いきなり無名のシンデレラボーイを本大会で生み出すのは難しいだろうが、大会期間中にも絶えず持ち駒の中から活性剤を探り続けるのも指揮官の大事な才覚だ。

 

言うまででもなく親善試合は、公式戦に繋げるための実験だ。刻々と変化するチーム内での力関係を冷静に見極め、最大限のパワーを引き出すのが監督の仕事となる。そういう意味では、今後の岡田監督のチーム作りによって、キリンカップの価値も証明されることになる。(了)