虐待される子どもたちを救え! 施設育ちの元ボクサー・坂本博之の闘い
2009年05月23日08時00分 / 提供:日刊サイゾー
2007年、一人のボクサーが15年の現役生活に別れを告げた。世界タイトルマッチに4回挑戦し、いずれも敗れたものの、幾多の名勝負を演じてきた坂本博之である。現在、坂本は角海老宝石ジムのトレーナーとして活動するその一方で、児童虐待などが目立っている子どもたちを取り巻く状況に対し危機感を抱いているという。彼自身の幼少時代の体験やプロボクサーとして培ってきた「熱」を伝えるために、全国の児童擁護施設を訪問している坂本の姿を追った。
* * *
「誰だって愛されたいんだよ」
38歳の元ボクサーが、やるせなさの滲んだ声で言う。
「だけど親に虐待された子が、捨てられた子が、自分は愛されているなんてどうしたら思える? 恐怖を味わわされた子が大人を信じることができると思う? ......無理だよ。だからこそ、俺はどうしても伝えてやりたいんだ。君たちを傷つける大人ばかりじゃないってことを」
坂本博之。戦績は、47戦39勝7敗1分29KO。ハードなパンチで、平成のKOキングと呼ばれ、広く深く、愛され続けた元東洋太平洋及び日本ライト級チャンピオンだ。
現役時代から「こころの青空基金」(下記参照)を設立し、児童養護施設への援助を行っていたが、2年前の引退以降、本格的な支援活動に情熱を注いでいる。
現在、日本には、環境上、養護を要する子どもなどが入所する児童養護施設が560もある。少子化は進む一方だというのに、この2年で2カ所も増設され、施設に入所する前にさまざまな手続きや相談、検査を行う児童相談所は、満杯で順番待ちだという。虐待を理由に入所する児童は全体の6割を超えた。
極寒の冬に丸裸で捨てられた兄弟。父親が灯油をかぶり焼身自殺するのを目の当たりにした子ども。保護されたときは全身が垢と汚れで黒ずみ、何度洗っても髪に櫛が通らなかった少女――。
「暴力だけじゃない。むごい体験をさせられる子どもが年々増えているんだ。あの子たちが心を閉ざし、傷だけ抱えて大人になったら......。被害者だった子が加害者になってしまうケースもある。そういう悪循環を俺は見て見ぬふりできないし、したくないんだよ」
坂本もまた、施設出身者であり、虐待の被害者だった。
1970年、福岡県田川郡に生まれた。幼いうちに両親が離婚。7歳の時、坂本は年子の弟・直樹とともに遠戚に預けられた。待っていたのは虐待と飢えの、生きるか死ぬかの日々だった。
まともに食べ物を与えられなかった。学校の給食だけが命綱。給食のない週末や夏休みは食べ物を求め、町や川べりをさまよった。
川で釣り人に魚をもらえる幸運な日もあったが、口にできたのはザリガニやトカゲ......公園のゴミ箱を漁り、弁当箱に残るご飯粒を指ですくったこともある。胃痛にのたうち回り、拒食症と栄養失調で日に日に衰弱していく兄弟を、家の者は無意味な理由で殴った。
●虐待による不安と孤独が人間らしい感情を殺す
無力で知恵も知識もお金もない7歳と6歳には、逃げ方も助けの求め方もわからなかった。虐待の前でただ受け身になるしかないことがどれほど恐ろしく、絶望的なことか。誰にも手を差し伸べられない不安と孤独が、どれほど人間不信を募らせ、人間らしい感情を殺していくか。
「ああもう、世の中で自分と直樹以外、信じられなかった。一生信じるものかと誓ってた」
8カ月後、登校途中に弟・直樹が失神し、ようやく異変に気づいた学校によって2人は保護された。児童養護施設・和白青松園に連れられていった日、「さあ、おなかいっぱい食べなさい」と出された豚汁の温かさは、「今も忘れられない」。
「俺たちは、施設に命をつないでもらった。だから今度は俺が恩を返す番なんだよ」
* * *
「誰だって愛されたいんだよ」
38歳の元ボクサーが、やるせなさの滲んだ声で言う。
「だけど親に虐待された子が、捨てられた子が、自分は愛されているなんてどうしたら思える? 恐怖を味わわされた子が大人を信じることができると思う? ......無理だよ。だからこそ、俺はどうしても伝えてやりたいんだ。君たちを傷つける大人ばかりじゃないってことを」
坂本博之。戦績は、47戦39勝7敗1分29KO。ハードなパンチで、平成のKOキングと呼ばれ、広く深く、愛され続けた元東洋太平洋及び日本ライト級チャンピオンだ。
現役時代から「こころの青空基金」(下記参照)を設立し、児童養護施設への援助を行っていたが、2年前の引退以降、本格的な支援活動に情熱を注いでいる。
現在、日本には、環境上、養護を要する子どもなどが入所する児童養護施設が560もある。少子化は進む一方だというのに、この2年で2カ所も増設され、施設に入所する前にさまざまな手続きや相談、検査を行う児童相談所は、満杯で順番待ちだという。虐待を理由に入所する児童は全体の6割を超えた。
極寒の冬に丸裸で捨てられた兄弟。父親が灯油をかぶり焼身自殺するのを目の当たりにした子ども。保護されたときは全身が垢と汚れで黒ずみ、何度洗っても髪に櫛が通らなかった少女――。
「暴力だけじゃない。むごい体験をさせられる子どもが年々増えているんだ。あの子たちが心を閉ざし、傷だけ抱えて大人になったら......。被害者だった子が加害者になってしまうケースもある。そういう悪循環を俺は見て見ぬふりできないし、したくないんだよ」
坂本もまた、施設出身者であり、虐待の被害者だった。
1970年、福岡県田川郡に生まれた。幼いうちに両親が離婚。7歳の時、坂本は年子の弟・直樹とともに遠戚に預けられた。待っていたのは虐待と飢えの、生きるか死ぬかの日々だった。
まともに食べ物を与えられなかった。学校の給食だけが命綱。給食のない週末や夏休みは食べ物を求め、町や川べりをさまよった。
川で釣り人に魚をもらえる幸運な日もあったが、口にできたのはザリガニやトカゲ......公園のゴミ箱を漁り、弁当箱に残るご飯粒を指ですくったこともある。胃痛にのたうち回り、拒食症と栄養失調で日に日に衰弱していく兄弟を、家の者は無意味な理由で殴った。
●虐待による不安と孤独が人間らしい感情を殺す
無力で知恵も知識もお金もない7歳と6歳には、逃げ方も助けの求め方もわからなかった。虐待の前でただ受け身になるしかないことがどれほど恐ろしく、絶望的なことか。誰にも手を差し伸べられない不安と孤独が、どれほど人間不信を募らせ、人間らしい感情を殺していくか。
「ああもう、世の中で自分と直樹以外、信じられなかった。一生信じるものかと誓ってた」
8カ月後、登校途中に弟・直樹が失神し、ようやく異変に気づいた学校によって2人は保護された。児童養護施設・和白青松園に連れられていった日、「さあ、おなかいっぱい食べなさい」と出された豚汁の温かさは、「今も忘れられない」。
「俺たちは、施設に命をつないでもらった。だから今度は俺が恩を返す番なんだよ」
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