【インタビュー】「いつも上司を殺していた」蛭子能収流・今を生き抜く処世術

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 独特の絵柄と支離滅裂なストーリーのサブカルマンガを描きつつ、ぼさぼさ頭でエヘへ〜と笑いながらバラエティ番組に飄々と登場する。俳優や映画監督としても活躍し、筋金入りのギャンブラーとしても有名な"元祖エビちゃん"こと、蛭子能収。そんな蛭子氏の最新作『えびすビンゴ』(長崎出版)が今年2月に発売された。これは、身の回りに居がちな腹が立つ人・目障りな人などを、蛭子流の視点でおもしろおかしく描いたイラスト集。車内マナーの悪い人、目障りなカップル、ありえない格好をするオヤジ......など、思わずイラッと感じる人達でも、これを読めば笑い飛ばせてしまう。そこで今回、「えびすビンゴ」の発売を記念して、蛭子流・人間論について話を聞いてみた。

――最近、『えびすビンゴ』で描かれているように、車内マナーが悪い人って本当に多いですね。

【蛭子】 怒りっぽい人が増えましたね、電車でもどこでも。うちの女房もそうだけど、今の人は怒ったことをすぐ行動に出すでしょう。オレは滅多に怒らないし、そもそも感情を表に出すのは恥ずかしいことだと思っているので、怒っても顔には出さないようにしてるんです。

――では、蛭子さんは怒った時、どうするんですか?

【蛭子】 怒りはね、全部マンガにぶつけます。オレは33歳でマンガ家一筋の生活になるまで、サラリーマンをしながらマンガを描いてたんですが、会社であった嫌なことはマンガにぶつけていましたね。「何であんなことを言われなきゃいけないんだ!」と思ったら、家に帰ってね、マンガの中でその上司を殺すんです。もう徹底的に殺す。

――怖いですねえ......(笑)。それはつまり、"怒りを原動力にして描く"ということなんでしょうか。今の若者が掲示板やブログで鬱憤を晴らすことに近いようにも思えますが......。

【蛭子】 そうですね。ただ、オレはマンガで上司を何人も殺したけど、特定できないように描きました。今はブログとか掲示板で堂々と相手のことを攻撃する人が多い。それはズルイですね。

 だから、ネット上で誰かの悪口を書く暇があれば、小説でも書いて怒りを形にすれば良いんじゃないか、って思います。オレは会社での怒りをマンガにぶつけたから、おもしろいものが描けたと思ってる。たとえば派遣切りにあった人達は、今こそその怒りを小説とか音楽とかにぶつければ良い作品ができると思いますよ。

――なるほど。蛭子さんは、会社ではどんなサラリーマンだったんですか?

【蛭子】 良いサラリーマンだったと思いますよ。上司の言うことは全部聞くし、会社では不満を言いませんから。だから、辞めるときはいつも執拗に止められました。

 オレはね、一貫して、人に好かれるように努力してきたんです。嘘でもいいから、"いい人"に見えるように振舞ってきた。本当に好きなことを仕事にできる人なんて、5%くらいでしょう。もちろん運もあるけど、そうしているうちにいろいろなことが自分のやりたいようにできるようになりましたよ。もちろん不満は常にありましたから、すべてマンガで発散してね(笑)。

――ちなみに、上司を殺すマンガは誰かに読ませるつもりで描いていたのですか?

【蛭子】 描いたからにはみんなに読んでほしいと思っています。だからオレは描いたマンガはすべて出版社に持っていきました。無駄な絵は描かないんです。

 マンガはね、「自分の思いをどれだけ伝えられるか」が一番だと思うんです。オレは、絵が下手なんですよ。動物を描くのもすごく苦手だし、自転車なんてまったく描けない。でも別に、たくさん描こう、上手くなるために練習しよう、とは思わないんです。描いたら、誰かに見てもらうことが何よりも大切だと思っているから。