お笑いコラム【この芸人を見よ!28】M-1王者NON STYLEが手にした「もうひとつの称号」とは

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 「M-1グランプリ」というのはもともと、それほど社会的に大きな影響力を持ったお笑いイベントというわけではなかった。始まった頃のM-1は、若手芸人が漫才で勝敗を競うというだけのよくあるバラエティ特番の1つに過ぎなかった。だが、回を重ねるごとに視聴率は上がり、世間の注目度も高まっていくにつれて、M-1の存在感は少しずつ大きいものになっていった。

 特に、2007年のM-1で敗者復活戦から勝ち上がったサンドウィッチマンが優勝したことの持つ意味は大きい。サンドウィッチマンの2人は、M-1を制したことで、ほぼ無名の状態から一気に売れっ子芸人の仲間入りを果たした。その過程を見届けてきた近年のお笑い視聴者は、M-1を誰が優勝するかという興味だけで楽しむのではなく、そこに出場した芸人や優勝した芸人がどうやって売れていくのか、といったその後の展開まで含めて楽しむようになってきている。

 その点から考えると、サンドウィッチマンの例とは対照的とも言えるのが、昨年のM-1を制したNON STYLEである。同大会で準優勝のオードリーが爆発的に売れてしまったことで、NON STYLEは常にオードリーと比較される存在となり、「オードリーよりも売れていない」「華がない」「トークが下手」などとさんざん叩かれてきた。これらのNON STYLEに対する悪評のほとんどは言いがかりに近いもので、それほど明確な根拠があるというわけではない。そういった評判は、正当性があるから広まっているわけではなく、2位のオードリーが売れまくっているのに1位のNON STYLEは全然売れていない、というストーリーの方が面白いからみんながそっちに乗っかることにした、というだけの話である。

 最近では、NON STYLEの2人が、そのイメージを逆手に取ったような企画にも顔を出すようになってきている。4月17日放送の『サプライズ』(日本テレビ)では、NON STYLEの2人がゲストに出演。視聴者の電話投票で民意を問う「評決クダル!」という企画で、「NON STYLEがM-1に優勝したのは妥当? 意外?」「NON STYLEとオードリー、どっちが面白い?」といった質問について、どちらの答えが多数派なのかを当てるという過酷な企画に挑んでいた。

 ただ、ここで私は、「NON STYLEはそんなひどい目に遭っていてかわいそうだから、みんなもっと彼らを評価してあげよう」などと言いたいわけではない。厳しい選択を迫られながらも、そこで一喜一憂する彼らの姿は明らかに面白かった。芸人とはそもそも、どんな悲惨な境遇も「おいしい」という魔法の言葉1つで笑いに変えられる不思議な人種である。NON STYLEがただ単にM-1に優勝しただけでなく、それをネタにしてさんざんいじられて、ここまで話題を作って引っ張ることができたのは、ある意味ではこの上なくおいしい思いをしているとも言えるのである。

 NON STYLEはネタもトークも面白い。そんなことは今さら言うまでもない当たり前のことだ。ここでいくら正しいことを言っても、今のNON STYLEのタレント活動に対する営業妨害になるだけだろう。「優勝したのに売れていない」というのは、実力と運を兼ね備えた彼らにしか得ることのできなかった日本一の「おいしい称号」でもあるのだ。
(お笑い評論家/ラリー遠田)

※画像:DVD『NON STYLE LIVE 2008 in 6大都市 ~ダメ男vsダテ男~』より


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