J2でプレー経験を持つフッキが、ポルトに移籍して欧州チャンピオンズリーグでも活躍している。もっともJリーグ時代の爆発的な突破力を素直に認めれば、ある程度予想できたことではないだろうか。
 確かにフッキは、規律面で問題があった。そして日本の関係者たちは口を揃えた。
「守備をしない。味方と連係しない。レフェリーに悪態をつく」
 しかしJクラブは手に負えないと考えても、欧州や中東のクラブは、改善可能と見てオファーを出した。現実にフッキは、ポルトへ行って変わった。本人の意識の持ち方とモチベーションの問題なのだろうが、チーム戦術の中でストロングポイントが生かされ、マイナス要素は軽減された。そういう意味では、Jに収まる器ではなかったということかもしれない。
 
 ただしこのフッキへの例をとっても、海外と日本では、プレイヤーの選別の仕方に違いが見て取れる。だいぶ古い話になるが、日本高校選抜が欧州遠征に出たときに、ミランのスカウトが、後に横浜FMで長く活躍することになる上野良治に目をつけた。武南高校時代の上野は、視野の広さと独特のパスセンスを備えていたので、このスカウトはセリエAに連れて来ても面白いと判断したわけだ。
 ところがスカウトがチームを引率した日本の関係者に話すと、こんな反応だったそうである。
「動かないし、戦わないからダメだよ」
 するとスカウトは語気を強めて反論した。
「よく走って、よく戦う選手なんか、イタリアにはいくらでもいる。オレたちの仕事は、イタリア人にないものを持っている選手を探し出すことだ」
 
 先日も似たようなことがあった。ボールを持ったら離さない高校生がいて、指導者に注意されれば余計にドリブルに固執するようなタイプだった。日本では瞬く間に罰点が重なり、指導者にダメ出しをされる。ところが長くセリエAで活躍してきたフロントたちは、一斉に「ブラビッシモ!」と最大級の賛辞を送った。「空中戦はダメ、左足もダメ、でも右足は最高級だ」という評価である。
 この高校生が将来どうなるかは判らないが、少なくともイタリアの関係者たちは、多くの欠点を抱えていても1つの強烈なストロングポイントを絶賛した。
 
 しかし日本では、トレセンコーチでさえ小学生たちに言っている。
「守備が出来なければ、FWをやらせない」
 これではよく走るが、決定力に欠ける代表チームが出来上がるのも無理はない。
 そしてこの滑稽な発想は、そのまま平均点の高い選手ばかりを求めるJクラブの傾向に繋がっているような気がする。
 
 プロは一般人に夢を売るのが仕事だ。むしろ平均点ばかりを求められる日本社会で暮らしているからこそ、ファンは別格の凄いものを見てカタルシスを得たいと願うのではないだろうか。
 もちろんシンプルに流麗にボールが動くサッカーは美しい。しかし減点法でサバイバルしてきたような選手たちばかりで統率の取れたパフォーマンスを見せられるだけでは、人気の広がりにも限りがある。(了)

加部究(かべ きわむ)
スポーツライター。ワールドカップは1986年大会から6大会連続して取材。近著に「大和魂のモダンサッカー」(双葉社)「忠成〜生まれ育った日本のために」(ゴマブックス)など。