集団の無責任:「傍観者効果」研究を生んだ殺人事件

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Tony Long


38人の隣人が目撃したり声を聞き付けたりしていた中で、Kitty Genoveseさんは殺された。

1964年3月13日に、28歳のCatherine(Kitty) Genoveseさんがニューヨーク市の自宅アパート付近で、29歳の男にナイフで刺殺される事件が起きた。Genoveseさんは35分間の間に3度襲われたが、その間、隣人たちはGenoveseさんが助けを呼ぶ声を無視した。

警察によると、Genoveseさんの助けを呼ぶ声を聞いた人は少なくとも38人にのぼり、彼らの何人かは現場を目撃した可能性もあったという。だが、誰もGenoveseさんを助けに行かず、警察に通報したのは1人だけで、それも3度目の襲撃でGenoveseさんが殺された後だった。

集団の無関心を示すこの衝撃的な事件は、当時のマスコミに大々的に取り上げられ、米国の人々を震撼させた。この事件をきっかけに、後に「Genovese症候群」――もっと一般的な用語で言うと「傍観者効果」――として知られるようになる心理に関して、数多くの研究が行なわれた。

非常に多くの目撃者が自宅の目の前で起きた事件を故意に無視したその理由が何であれ、この事件をきっかけに、心理学的な研究が進んだ。社会心理学者のJohn Darley氏とBibb Latane氏が行なった比較的有名な研究の1つは、非常事態や犯罪の現場を目撃した人の数が多いほど、個人が行動を起こす確立が下がると結論付けた。

[Darley氏とLatane氏は、「多くの人が気づいたからこそ、誰も行動を起こさなかった」と仮説を立てて実験を行い、それを裏付ける結果を得た]

Darley氏とLatane氏は、2つの主要な理由を挙げた。

  • 多数による無視大きな集団の多数が行動を起こさないと、集団内の個人は、直感的に異常と感じていても、特に異常なことは何もないと納得する(「他の誰も、一大事とは考えていない」)。
  • 責任の分散
    人は重大な局面で責任を負うことを回避して、他者が進み出るのを当てにする傾向がある(「仕切るのは他の誰かだ」とか「もっとうまく処理できる者が他にいる」)。集団の規模が大きくなると、「誰かがそうするだろう」と仮定する傾向が強まる。

[他の理由として、「行動を起こしたとき、その結果に対して周囲からの否定的な評価を恐れるという懸念」も考えられている。]

その後も研究は進んでおり、行動を起こさなかった目撃者の道徳的責任についても長年にわたって議論されてきた。Genoveseさんの事件に関しては、3度にわたる襲撃の全容を把握している者は誰もいず、実際に何が起きているのか明確に把握していた者が一人もいなかった、と擁護する声も上がっている。

{この翻訳は抄訳です}

WIRED NEWS 原文(English)