「マンガ大賞2009」を受賞した「ちはやふる」。少女漫画雑誌BE・LOVEで連載中の、競技かるたに青春を賭す女子高生の物語だ。

 主人公「綾瀬千早」は小学校6年生の時に福井から転校してきた「綿谷新」を通してかるたの魅力を知った。女性部門日本一の「クイーン」をめざすため、幼なじみの「真島太一」を加えて3人でかるた会に出入りして腕を磨いていく。『ずっと一緒にかるたしよーね』――少女の純粋な願いは卒業により打ち砕かれた。

 新は福井へ戻り、太一は名門中学へ。かるたを続けていればまた会える、幼い誓いを胸に秘め、千早は一人で戦い続ける。入学した高校でかるた部を作ろうと奮闘する千早の前に太一が現れた。千早と太一は「大江奏」「西田優征」「駒野勉」を加え、正式にかるた部を発足。強豪を下して全国大会へ出場する。千早らの全国大会参戦を知った新は会場へ向かうが、そこで見たのは高熱を押して戦い、意識を失う千早の姿だった。

 一言でいえば、非常によくできた素晴らしい作品である。かるたを野球にすりかえれば非常にありきたりなスポ根漫画のできあがり。しかし競技かるたというあまり一般的でないものをモチーフにすることで、従来の漫画では感じることのなかった高揚感を覚えてしまう。

 かるたというと、犬も歩けば〜、といったイメージを持ってしまうが、競技かるたで用いられるのは小倉百人一首。娯楽のかるたとは違って厳密なルールが設けられており、われわれ一般人からすれば敷居の高いものだ。それをモチーフにしているというのに、ルールの詳細が登場人物の口から説明されるのはコミックス3巻を待たなくてはならない。読者は競技かるたのなんたるかを知らされぬまま、作品に引きずり込まれていく。

 吸引力を持っているのはコミックス1巻から2巻序盤までに描かれる千早の少女時代。初めて出会う競技かるたの鮮烈なイメージを、読者は千早をアンテナとしてストレートに植えつけられる。競技者が流す汗の温度や札が空を切る音までも感じられそうなかるたのシーンにルールの説明は不要。すごい、おもしろい、それだけで十分なのだ。

 この作品を満たしているのは笑顔と涙。一つのものに熱中する素晴らしさという実にありふれたテーマを、時に息苦しさを感じるほどの迫力で紙面から発している。青春のほとばしり、これこそありふれた言葉だが、これほどこの作品にふさわしいものはない。

 恋愛の要素はほとんど表には出てこない。太一が抱えている千早への想いがときおり見て取れるくらいで、千早自身はひたすら、かるた、かるた、かるただ。しかし千早のかるたへの情熱の中心には常に新がいる。千早の手が札を飛ばすたびに、無自覚のまま新への想いが募っているのかもしれない。

 素晴らしいのは作中の世界だけではない。クライマックスシーンから始まって少女時代へ以降、そこで十分にきっかけと動機を見せつけ、本編である高校時代へ突入する。この構成はフィクションの世界では常套手段であるが、これ以上ないほどにこの作品にぴったりとはまっている。

 コミックスの表紙にも注目。一色で統一された美麗な表紙は、千早が奏に教えられた歌の意味からイメージした色の世界を思わせる。男性はひるんでしまいそうなトーンだが、ぜひ手に取ってみてほしい。後悔はさせない。

(編集部:三浦ヨーコ)


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