「海猿」「ブラックジャックによろしく」という、今や日本では知らない者のいない名作を生みだしているマンガ家、佐藤秀峰氏。その彼が自身の公式HPで、両作品の打ち切りや移籍に関する裏事情をマンガ形式で告白したことが話題になっている。(佐藤秀峰氏の公式HPはこちら

「海猿」は、小学館の『ヤングサンデー』で連載されていたマンガ。実写化された映画が大ヒットするなど根強い人気を誇っていたが、あっさりと連載終了。「ブラックジャックによろしく」は、講談社『モーニング』で連載されていたマンガであり、現在は小学館の『ビッグコミックスピリッツ』に掲載誌を移して連載が続く(タイトルは「新ブラックジャックによろしく」)。

それら一連の動きを、佐藤秀峰氏は公式HPにおける「プロフィール」の項で、詳細に語っている。まとめると、「海猿」の終了は小学館の過度の干渉が、「ブラックジャック」移籍は講談社のルーズな著作権管理がおもな原因であるという。大ヒット作品がこんな騒動に巻き込まれてしまうことにどんな裏事情があるのか、当編集部ではその真相に迫ってみることにした。

まず、中堅出版社でマンガの編集を手がける山田ヒサシ氏(仮名)に話をうかがった。「現在の日本でメジャーなマンガ雑誌を作っている会社は、小学館・集英社・講談社の3社。小集講なんて言われていますね。うち、集英社は小学館の実質的な子会社。だから、現在のマンガ界は小学館と講談社の2トップが仕切っている、と言うことができます」他の産業であれば、独占禁止法にひっかかりかねない状態だ、と氏は言う。「ウチの雑誌も、3社で活躍する作家さんをひっぱれたらいいんですが。原稿料や単行本の印税率などがケタ違いなので、正直難しいですね。だから新人を発掘したり……言いづらいことですが、『都落ち』した作家さんを使っています」

また、小学館・講談社などの仕事をこなすフリー編集者の宮本学氏(仮名)はこう語る。「編集者個人の性格によって変わってくる部分も大きいんだけど……小学館は『編集者が作家をコントロールしてナンボ』っていう雰囲気があるよね。キャラモノとかでヒットが多いのはそのへんの事情があるみたいだけど、そりゃ作家は反発するよ。反対に、講談社はどこかルーズ。作家さんは自由にできるけど、反面『育てる』とか『売る』って意識もないみたい。来る者拒まずだけど、来てもそこで何も助けてあげないからそこで人気をなくす作家さんも多いんだよね」

両氏の話をまとめると、小学館(+集英社)・講談社の一方で作品を連載していた作家が不満をもったとき、もう片方に移籍する、もしくは『都落ち』と呼ばれるのを覚悟で中堅出版社に移籍するしかない、ということになる。佐藤秀峰氏は小学館→講談社→小学館と、いわば「出戻り」のような移籍をしているが、そこにはこんな事情があったのである。

このところ、浦沢直樹氏(「モンスター」「20世紀少年」)や山崎さやか氏(「マイナス」)など、以前小学館の雑誌で連載を持っていた作家が講談社の雑誌に移籍する例が相次いでいた。また、雷句誠氏(「金色のガッシュ!」)や久米田康治氏(「かってに改蔵」)など、人気作家が小学館とのトラブルを公表するケースも急増していた。これらの流れはいずれも小学館→講談社だったのだが、しかしながら佐藤秀峰氏の「出戻り」は、新たな動きとしてかなり大きな意味を持っている。こうした混乱の根底には、大手2社の極端な編集方針と、それ以外の出版社が作家たちに影響力を行使できないという、日本マンガ界独特の風土が存在しているのだ。

世界各国において、日本のマンガはその人気を今なお拡大し続けている。中国・韓国・タイなどでは、翻訳された人気作品が書店に常に並んでいる。マンガは確実に日本文化輸出の一端を担ってきているのだが、2社による事実上の寡占と、これに伴う作家たちの消耗が続くのであれば、今後のマンガの繁栄は危ういものとなりかねない。小学館(集英社)と講談社の両社がマンガ文化に対する意識を高めることと、それ以外の出版社がしっかりとした力をつけることが、日本マンガの未来を創り出すためには必須であると言えるだろう。

執筆:羽村正樹

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