北朝鮮によるロケットの発射が近づくと見られるなか、政府高官からは「突然(ロケットが)降ってきたら当たらない」と、政府が整備を進めているミサイル防衛(MD)システムによる迎撃は困難との見方を示し、波紋が広がっている。政府・与党内からは「発言の訂正を求めるべき」などと批判的な声もあがっている。一方、軍事専門家からは、今回のロケットについては「迎撃は技術的に困難だ」という冷ややかな声もあがっている。

「ドアに安物のカギをつけるようなもの」

   北朝鮮はすでに、4月4日から4月8日までの間に、人工衛星をロケットで打ち上げることを国際海事機関(IMO)に通報し、ロケットの1段目と2段目が落下する予定区域も明らかにした。日米韓が発射の自制を求める一方、専門家からは「北朝鮮ミサイルの迎撃決断を」(森本敏・拓殖大学大学院教授、09年3月13日産経新聞)といった。「迎撃待望論」も聞こえてくる。

   そんな中、各紙が2009年3月23日、「政府筋」または「政府高官」の発言として伝えたところによると、政府が北朝鮮のロケットをミサイルMDシステムで迎撃することについて、

「あっちがピストルで撃った弾を、こっちがピストルで撃ち落とせるはずがない」

などと述べたというのだ。政府高官がMDシステムの有効性を否定した形で、閣内からは

「準備が万全になるよう努力してきており、そのようには考えていない」(浜田靖一防衛相)
「国民の安全を確保する形で対応できることをやっている。懸念は持っていない」(河村建夫官房長官)

などと反論が相次いだ。

   この「政府高官」発言について、軍事ジャーナリストの田岡俊次さんは

「これは『原理的に迎撃は無理』という意味の発言だから大問題でしょう。ミサイル防衛システムにはすでに約7000億円の税金を投入しており、政府高官が『根本的に無駄使いだ』と言っているようなもの。不見識きわまりない発言です」

と批判する。一方、「政府筋」が疑問視しているMDシステムの信頼性について、

「『当たるとも言えないが、当たらないとも言えない』といったところです。ドアに安物のカギをつけるようなもので、『ピッキングで簡単に壊されるよ』『だけどカギをかけないよりはマシだろう』といったところでしょうか」

と、やや冷ややかな見方だ。

大気圏外迎撃、地上迎撃も実効性に疑問

   国内では「迎撃期待論」が広がっているが、自衛隊法の規定では、迎撃が認められるのは、日本の領域内で人命・財産に対する被害を防止する必要がある場合のみ。したがって、北朝鮮の計画どおり、ロケットが秋田・岩手県上空の宇宙(領域外)を通過した場合には、迎撃することはできない。問題が起こるとすれば、1〜2段目のロケットにトラブルが発生した時だ。もっとも、1段目の場合は、ロケットは発射基地の近くに墜落するはずなので日本には直接の影響はない。2段目にトラブルが発生した場合、日本は対応を迫られることになる。具体的には、MDシステムは (1)日本海上に配備されたイージス艦に積んだ海上配備型のSM3ミサイルが大気圏外で迎撃する(2)(1)で迎撃できなかった場合は地上に配備した地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)で迎撃する、という2段構え。そのいずれにもついても、田岡さんは実効性に疑問を呈している。SM3については、

「問題なのはロケットの2段目に異常が発生したときです。日本国内に物体が落ちてくる状態なら迎撃すべきです。ただし、ロケットに異常が発生し速度の針路が乱れると、迎撃する側にとっては弾道計算が難しいから、迎撃は技術的に困難になるでしょう」

と、命中する可能性に疑問を呈する一方、PAC3については、

「PAC3を東北地区に持ち込むという話も出ているが、PAC3は低空用で射程20キロ以下のミサイルです。迎撃する以前に大気との摩擦でロケットの一部は溶けたり、空中分解して残骸が降ってくる。低空で一部の残骸にPAC3が当たっても、残骸が落ちてくることには変わりありません」

と、迎撃したところで、大して意味がないとの見方だ。

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