漫画好きのみならず広く世間から高い評価を得ている「もやしもん」。昨年は手塚治虫文化賞マンガ大賞、講談社漫画賞一般部門のダブル受賞という栄誉に輝き、さらには漫画とは無関係の「醤油文化賞」まで受賞している作品だ。現在も漫画雑誌イブニングで連載しており、コミックスは7巻まで発行されている。

 主人公は上京したいがために農業大学に進学した種麹屋の跡継ぎ「沢木葱右衛門直保」。幼い頃から菌が肉眼で見え、その言葉が聞こえるという力を持つ。それがゆえに教授である「樹慶蔵」に目をかけられ、親友であり造り酒屋の息子でもある「結城蛍」とともに研究を手伝うことになった。

 沢木たちの他に樹の下に集うのは、女王様気質の院生「長谷川遥」。樹に研究者としての資質を見出された2年生、酒好きの「美里薫」と虫を愛するトライリンガル「川浜拓馬」。沢木の同級生で除菌命の「及川葉月」。唯一のゼミ生であり酒豪の「武藤葵」。彼らは樹が研究のために建造した“発酵蔵”で酒や醤油や味噌作りに精を出す。その一方で学園祭を楽しみ、古酒をサルベージし、戦時中に軍の施設として活用されていたかもしれない研究室の謎に迫るなど一風変わったキャンパスライフを満喫しているのだ。

 この作品をしいてジャンル分けするならば学園物の部類に入るであろう。その一方で結城がゴスロリ女装を始めたり、長谷川が政略結婚させられそうになったり、沢木が似たような境遇の「マリー」と家業を継ぐことに関してのジレンマを共有したりと個人にスポットを当てた話も多く、青春群像劇の一面をも併せ持つ。

 この作品がただのキャンパス群像物に終わらないのは菌の力にある。この作品の象徴でもある菌は沢木と読者の目にだけ映るものであるため、物語を大きく動かすことは基本的にはない。彼らの主な役割は発酵の仕組みなどについて説明する場面でのナビゲーター的なものだが、その存在感は圧倒的だ。また『人間め 神気取りか』『いつの日か我々菌が人を凌駕し万物の霊長に』などと菌同士で真剣に語り合うシーンもある(すぐに人間に撃退されてしまうが)。沢木の願いに応えて人間の世界に介入することもあり、どことなくピクミンを思わせる存在だ。

 そんな菌たちのナビゲートに加えて注目したいのが樹の懇切丁寧すぎる解説。樹は大学教授というだけあって発酵食品に造詣が深く、時折漫画とは思えない文字量でその知識を披露する。あまりに話が長くコアなため学生たちにはうんざりされているようだが、読者からすれば非常に興味深い。

 この作品を読めば菌はただ汚いものという考えがいかに愚かか痛感させられるであろう。うまく再編集すれば食育のテキストとしても使えそうだし、大人が読んでも十分ためになる部分が多い。

 私が特に感銘を受けたのは武藤の友人でありバーテンダーの「宏岡亜矢」の酒の楽しみ方に関するくだり。酒の作り手のプライド、売り手のプライドに加えて飲み手に求められるものが彼女の口から語られている。『体調はいいか』『語れる仲間はいるか』『心配事は片付けたか』、なるほど、この3つを兼ね備えれば少なくとも悪酔いすることはなさそうだ。

 安く憂さを晴らすだけが酒の楽しみではない。たまには少しはり込んででもうまい酒をゆっくりと飲むのもいいではないか。すっかり影響を受けた私は近所の酒店に行ってみたが、悲しいかな定休日。そこにいるはずの菌に思いを馳せながらグラスを傾けるのは明日以降におあずけとなった。

(編集部:三浦ヨーコ)


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