米グーグル社が進めている書籍検索サービスが、波紋を広げている。「絶版だが著作権はある」という書籍のデジタル化をめぐる訴訟が「和解」という形で決着しそうで、この影響が日本の本にも及ぶというのだ。米国内に条件を満たした日本の絶版本があれば、すべて内容が世界中に公開されることになる。日本の業界からの反発は必至だが、専門家からは「利益が適切に配分されるのであれば、拒否すべきではない。紙で『死蔵』するよりはましだ」と、著作権側の立ち位置の見直しを迫る声もあがっている。

「絶版になったが著作権は存在している」書籍のデジタル化が進む

   米グーグルは2004年、書籍の全文検索が可能になるサービス「グーグル・ブック・サーチ」を立ち上げ、現在は書籍100万冊以上の内容がウェブ上で検索できる。当然、この仕組みに、著作権者側は反発。米作家協会や米出版協会(AAP)が05年9月から10月にかけて、著作権侵害を訴え、グーグルを相手取って相次いで訴訟を起こした。

   この訴訟については、約3年後の08年10月18日、グーグルと米出版業界が和解することで合意することが発表された。和解内容は、グーグル側が1億2500万ドルを支払うほか、著作権者と協力して、ネット上で本を検索・購入できる仕組みを構築する、というもの。和解が成立するためには裁判所の承認が必要だが、仮に成立した場合、「絶版になったが著作権は存在している」書籍のデジタル化が進み、ネット上で全文検索・購入できる仕組みが整備される。さらに、その収益を著作権者などに分配するための非営利団体も設立されることになっている。

   ところが、この合意内容が、日本国内の著作者についても効力を持つことが明らかになり、波紋を広げているのだ。それが広く知られるようになったのは、「ニューズウィーク日本版」(阪神コミュニケーションズ)の09年2月25日号に掲載された、こんな見出しの法定公告だ。

「米国外にお住まいの方へ: 本和解は、米国外で出版された書籍の米国著作権の権利も包括しているため、貴殿にも影響することがあります。書籍、または書籍中のその他の資料等の権利を有している場合には、適時に除外を行わないかぎり、本和解に拘束されることになります」

ネットで公開され、国内でも見られることになれば影響は大きい

   見出しだけでは非常に分かりにくいが、冒頭で紹介した訴訟は、原告が、利害関係を共有する人を代表して提訴する「代表訴訟」という形で行われた。「代表訴訟」は、判決や和解の効力が、直接の原告以外の利害関係者全員に及ぶことが特徴だ。つまり、今回の和解の効力は「米国内のあらゆる『絶版本』」に及ぶことになり、その中には、日本で印刷され、米国に持ち込まれたものも含まれる。法定公告では、専用ウェブサイト(http://www.googlebooksettlement.com/)を閲覧した上で、(1)和解からの「除外」を求める(2)(自身の著作物に対して配分される)現金の支払いを求める、などの選択肢を提示している。

   著作権法に詳しい牧野二郎弁護士は、

「グーグルからすれば、今回の集団訴訟の和解という形で、『米国内の全部の著作権者を巻き込みたい』という戦略なのでしょう。スキャンされた本の内容がインターネットで公開され、国内でも見られる、ということになれば、日本にも大きな影響を受けるのでは」

とみる。日本国内の著作権者からすれば、まさに「寝耳に水」だが、それでも牧野弁護士は、「ネット上で公開することで適正な利益が得られるのであれば、今回の動きに反対して、著作物を『死蔵』するのは得策ではない」との立場だ。

「本来ならば、今回のような仕組みが国内でも展開されるのが望ましいのですが、それは当分は難しいでしょう。そうであれば、アイチューンズ(iTunes)で音楽がよく売れたように、利益がちゃんと配分されるのであれば、別に拒否する必要はないでしょう。別に、著作物を『紙かデジタルか』で区別する必要はありません。紙のまま公開を拒否、いわば『死蔵』した状態で、今後生き残る道があるとは思えません」

   裁判所が和解を承認するために開く公聴会は6月11日に予定されている。

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