「正確さ」を超えて「喜び」をつくる、時計の技術

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腕の上の小さな空間に置かれた、精密機械技術の結晶。しかも誕生以来、機能の進化とともに装身具としてのファッション性も磨いてきたのが、腕時計である。日本を代表する時計メーカーのひとつ、シチズン時計株式会社の時計資料室を訪ねた。

「10万年に1秒」の原子時計で誤差を補正
 携帯電話やポータブル・オーディオ……今でこそ、日常持ち歩く機械はいろいろあるが、それらの多くは、まだまだ新参者である。その一方で、およそ100 年の歴史と伝統をもつのが、腕時計。しかも単に「携帯」するのではなく、しっかり「身に着ける」ほぼ唯一の機械であるという点でも、今なお別格の存在といえる。
 源流の懐中時計が誕生したとされるのは、17世紀。下って、19世紀後半から20世紀初頭にかけ、いちいちポケットから取り出さずに使える腕時計が、まずは兵士や飛行士の間で使われ始め、デザインも洗練されて、民間にも普及することとなった。それからおよそ100年。ぜんまいを動力とした手巻き、次いで自動巻きの純メカニカルな時計から、電池式、さらにクオーツ制御と、腕時計は進化を遂げてきた。

「テクニカルな面からいえば、『正確』で『止まらない』というのが時計の2大要素。そして、特にその正確さについていえば、現在、最先端といえるのが『電波時計』です」(時計開発本部 時計設計部・部長 樋口晴彦氏)

 電波時計とは、国や国際機関が時刻および周波数の基準とするために送信している「標準電波」を受け、これによって自動的に時刻や日付を修正する機能をもった時計のこと。送信局から送られる信号は、誤差が10万年に1秒といわれるセシウム原子時計をもとにしているため、電波がきちんと受信できる環境であれば、ユーザーが時刻合わせなどをしなくても、常に正確な時間を指すのである。

 シチズンは、1989年に電波時計の研究開発をスタート。そして1993年、ついに世界初の多極受信型電波時計を発売する。当然ながら、標準電波を受信するには、そのためのアンテナが必要。当時はまだそのアンテナを目立たぬように小型化・内蔵するのが難しく、文字板の中心に縦一文字にアンテナを配し、その右側に時刻、左側にカレンダーと、送信局(地域)の表示を付けた独特のデザインとなった。

「内蔵できないなら、むしろそれを時計の“顔”に据えてしまおうという、いわば“開き直り”のデザインだったと思います。この最初の製品は限定生産のコンセプトモデルで、価格も約10万円と高め、国内では約300個が販売されただけ。その希少さと、電波時計であることを前面で主張しているデザインがマニア的に魅力らしく、今でもプレミアムが付いて取り引きされているようです」
“顔”をより普通の時計らしくと、2代目の電波時計はアンテナを側部に収納。その後さらにアンテナの高感度化、小型化を進め、現在では小さな女性用でも、ムーブメントの中に無理なく収納できるまでになった。

■「100W」で1億個以上の腕時計が動く!
 先述の時計の2大要素のうち、「正確さ」を追求する最先端が電波時計なら、「止まらない」ための技術進化が、シチズンが「エコ・ドライブ」と呼ぶ、光発電機能である。
 シチズンが光発電・充電式の腕時計を手掛け始めた歴史は古く、1974年には試作モデルを完成。1976年には、世界初の太陽電池充電式アナログ水晶腕時計「クリストロン ソーラーセル」を発売している。このときはまだ結晶シリコンのソーラーセルを使い、それも文字板にそのままメタリックブルーのセルが露出している形態だった。

「初期の製品は『太陽電池ですよ、電池交換なしで止まりませんよ』ということを前面に打ち出せば、商品の魅力がアピールできていました。ところが当たり前の機能として定着してくると、それだけではいけない。ソーラーセルの発電性能の向上や時計に使用できる2次電池の実現に伴い、90年代以降、改めてエコ・ドライブの開発を推進。単に光発電時計であることだけではなく、機能や性能追求を進めました。現在は、電波時計とエコ・ドライブの組み合わせを中核として製品の展開をしています」