少年と従姉の淡い恋を描き、夏目漱石の絶賛を受けた小説「野菊の墓」。これまでドラマ化や映画化が繰り返されている名作だが、この作品を執筆した伊藤左千夫は歌人としても有名だ。正岡子規に師事し、子規没後は門人をまとめて根岸派の機関紙「馬酔木(アシビ)」「アララギ」を創刊、斎藤茂吉らを育成した。

伊藤左千夫は千葉県山武市(上総国武射郡殿台村)出身で、市内には伊藤左千夫記念公園などが設置されているほか、現在も生家が保存されている。山武市が主催している短歌コンクールも「左千夫短歌大会」と題されており、今年で57回目を迎えた。

その「第57回左千夫短歌大会」高校生の部で市長賞を受賞した作品に、盗作疑惑が浮上している。

この作品は、県立成東高校2年の男子生徒が応募したもの。市長賞を受賞したことで朝日新聞が取り上げ、「ぼくゴリラ ウホホイウッホ ウホホホホ ウッホホウッホ ウホホホホーイ」というユニークな内容だったためネットなどで話題となった。

男子生徒は昨春に千葉市内の動物園でゴリラを見物し、「ゴリラも人と同じように孤独なのではないかと感じた」(朝日新聞より)そうで、その孤独感を「ウ」と「ホ」でまとめたという。書き始めてから完成までの時間は30分としている。

選考にあたった歌人、田井安雲氏は「素手でつかんだ本音を歌っているユニークないい歌だ」(同紙より)と絶賛したが、男子生徒は思いもよらぬ入賞に驚いたようだ。

ところが、ネット掲示板「2ちゃんねる」で人気マンガ「ピューと吹く!ジャガー」の内容に酷似しているとの指摘が寄せられている。“盗用元”とされているのは、「ジャガー」の第129笛(話)冒頭に出てくる「ゴリラ人間」と題された詞。その内容は「オレはゴリラ人間 ウッホッホ ウッホッホ ウッホーウッホ ウホウホ ウッホォーー ウホウホ ウッホォーーウ ウホウホ ウホホ キェーウォホーー ハアハア ウホウホ ウホウホ 好きです付き合ってください」となっている。この詞は登場人物が「発掘シンガーソングライターコンテスト」作詞部門に応募したもので、「審査員から圧倒的に支持を得ず落選」した。

「ウ」と「ホ」で表現している部分が類似しており、「ジャガー」が中高生にも人気のギャグマンガということを勘案すると、男子生徒がこの「ゴリラ人間」を参考にした可能性は否めない。また、本人のブログ(現在削除済み)で自身の作品を「ゴリラ人間」と呼んでいたため、疑惑はいっそう深まっている。

ただ、「2ちゃんねる」ではこの男子生徒よりも、選者である田井氏を批判する声が強い模様。同氏は総評として「小中学生にも新鮮な感覚の作品があり、左千夫も喜んでいるでしょう」(朝日新聞より)と述べていたが、伊藤左千夫が「ぼくゴリラ〜」を選んでいたかどうかについては、疑問が残るだろう。