もっとも、実際によいピアノをつくるのは簡単ではない。ピアノの評価基準としてもっとも重要なのは「音のよし悪し」である。が、ピアノの音がよいか悪いかということには明確な基準があるわけではない。演奏者によって音の好みは千差万別であり、またどのような曲を弾くかということでも、よい音の定義は刻々変化する。
 また、こうした多様なニーズに1台のピアノで応えるのは事実上不可能で、細部の音色のチューニングは調律技術者の手にゆだねられることになる。
「では、ピアノエンジニアはベースとなるヤマハサウンドをどう定義しているかということですが、実は明確に『コレだ』というものはないんです。個々のモデルの開発過程で、このピアノをどのようにつくればより素晴らしいと思える音になるのかということを皆で徹底的に考え、その積み重ねの結果出来上がる音が、しいて言えばヤマハサウンドになると思っています」

 ヤマハの開発部門では多様なテクノロジーを駆使して、こうした音の改良を行っている。別掲の「響板の変形・応力分布解析」画面の写真はその一例。ピアノの底の部分には、バイオリンの函体のようにピアノ線の振動を大きく増幅するための板が付いている。ピアノ線は一本一本が強烈なテンションで張られており、その力を合計するとグランドピアノ1台あたりでおよそ20tにもなる。その一部を薄い柾目板を継いでつくられた響板が支えているのだ。
 多大なストレスがかかる響板にどのような力がかかり、どのように変形するかは、かつては職人の勘と経験で察知していたが、現在ではこのように細かく力学的に解析することで、より的確な設計が可能となった。ほか、ピアノを鳴らすと、ピアノのどこからどのような振動が発生して、全体の音をつくっているのかということを分析する技術など、多様な解析技術やCAEもピアノづくりには欠かせない存在となっている。近い将来、東海地方でも最速クラスのコンピュータを導入し、こうした設計支援技術にさらに磨きをかけるという。……≫続きはこちら

■関連リンク
livedoor キャリア


■ケータイ関連リンク
モバイル版 livedoor キャリア