映画批評『ラースと、その彼女』
2008年12月17日15時44分 / 提供:映画ジャッジ!映画批評
◆人と人とのつながりに希望を見いだした作品 (70点)
舞台はアメリカの田舎町。まじめだが内気で人付き合いが苦手な青年ラース(ライアン・ゴズリング)が、ある日、兄夫婦に恋人のビアンカを紹介する。ところが、ビアンカを見て兄夫婦はビックリ。なんとビアンカは等身大の人形(いわゆるダッチワイフ)だったのだ! 兄夫婦はラースを病院に連れていくが……。
ふつうに考えれば、ラースの異変は深刻である。ところがこの映画は、そうした深刻さを必要以上にシリアスには描かない。街の人々がラースのことを奇異の目で見るのだろう――という予想をあっさりと裏切って、街中の誰もがラースをあたたかい目で見守るのである。
人と人とのつながりに希望を見いだした作品とも言える。精神のバランスを崩した人間を責め、排斥するのではなく、その言動と行動をありのままに受け入れる尊さに光をあてている。微塵の偏見もなく街中の人々がラースを支える展開は、やや現実味を欠いている向きもあるが、だからといって、この映画に込められたメッセージがスポイルされているかと言えば、むしろその逆だ。
この作品のメッセージとは、「受け入れること」である。マニュアル化された投薬やリハビリもひとつの解決方法には違いないが、こと精神にまつわる疾患の場合、患者のありのままを「受け入れること」が、完治への第一歩となる。ラースを見守る人々の存在は、"理解"よりも"押しつけ"や"拒絶"にはしりがちな昨今の社会に対するアンチテーゼとしてもピリ辛だ。
人々がラースに寛容なのは、ラース生来の人間性とも無関係ではない。ラースは、コミュニケーション能力こそ低いものの、他人を憎んだり、ねたんだり、だましたりするような人間ではない。異常者というよりもピュアなのだ。だからこそ、人々は自然とラースに手を差し伸べたくなるのだろう。
作品全体を包み込むのは、心地よいユーモアだ。とくに前半、ラースが兄夫婦にビアンカを紹介するシークエンスでは――ことの重大さとは裏腹に――なんともいえないおかしさがこみ上げてくる。また終盤、ラースが会社の同僚のあるモノを蘇生させるシーンもほほえましい。冒頭のインパクトが強すぎるだけに、中盤以降の展開はやや淡白に感じられるが、それでもこの映画に対する評価を下げたくないのは、ラースの純粋さと、周囲の人々の優しさを描こうという筆致に迷いがないからだ。
ラースを演じたライアン・ゴズリングは、文句なしのはまり役。口数は少ないものの、そのチャーミングな目の奥に魂を宿し、ゆれ動く感情と意思を言葉以上に表現している。
人は"押しつけ"られるでも、"拒絶"されるでもなく、"理解"されることによって、人生の浮力を得ることができる。本作「ラースと、その彼女」が示すメッセージは、精神疾患の患者やその予備軍が増えつつある現代社会への処方せんである。
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(山口拓朗氏)
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