先月下旬、Q&Aサイト「人力検索はてな」で父親の遺産6億3千万を相続した高校一年生が資産運用の方法を尋ねたスレッドが反響を呼んだ。多数の回答やコメントが寄せられて大いに賑わったのだが、どんなやりとりが繰り広げられたのだろう。

寄せられたコメントの中には、「どうせネタだろ」というような誹謗中傷もあったが、ここではこの相談に記された内容が真実であると仮定して話を進める。
内容の詳細はこちらを参照していただくとして、相談の内容が適切な資産運用の方法を尋ねるものだったので、寄せられた回答の大部分も運用方法についての具体的なアドバイスだった。わかりやすいところでは以下のような回答があった。
「まずは運用のスペシャリストを雇うべき」、「生計を立てる仕事のための勉強ではなく、資産を管理する能力をつけるための勉強をした方がいい」、「読書と様々な実体験を通して自分の理想とする金の使い方を学んでから資産を運用すべき」、「自分のやりたいことを計画して、そこから資産の運用方法を考えるのがいい」、「人にだまされないように最低限自衛のための知識は身につけること」

若くして分不相応な大金を得ることがその人の人生にとって幸運か否かは意見の分かれるところだが、そもそも過去、現在、未来と一続きの時間軸上で複雑に絡まり合った出来事を個別につまみ上げて、その価値を云々すること自体がナンセンスなのであって、本当のところはその人が死ぬまでわからないようにも思える。
最近の宝くじ当選者殺人事件や小室哲哉、ホリエモンの没落ぶりを引き合いに出すまでもなく、金のために欲望を肥大させて身を持ち崩す例は枚挙に暇がない。一般に勝ち組と見なされるセレブたちの世界はそういった人間の一大博覧会と言っても過言ではない。
そういう人間がいる一方で、ドイツの年金受給者の70歳男性が三億円余りの宝くじに当選しながら、「使い方がわからない」と受け取りを拒否した例(当選金目当てでなく、妻が生前買っていたために習慣的に購入していた)や、日本人の宝くじ当選者が当選後もその金には手をつけず、それまでと変わらぬ農業の仕事を続けたという例もある。こういった選択は一般庶民にはそうそう真似できるものではないが、彼らが生活のバランスを保つ上で賢明な判断をしたことは間違いないだろう。
もしこの少年が資産運用それ自体に、あるいはその資産を生かしたビジネスに生き甲斐を見出せるタイプの人間なら何も言うことはないが、そうでなければ本当に大変なものを手にしてしまったことになる。なぜなら今後は近寄ってくる人間を疑心暗鬼の目で見なければならず、適切な資産運用の方法を巡って頭を働かせ、進路決定についても自分自身のありのままの欲求よりも「資産をどう活かすか」という考えが強く影響を及ぼすだろうからだ。
資産運用に気をとられる余り、「自分を生かす」ことが疎かにならなければいいが。