【MIAUの眼光紙背】政治家やメディアに騙されないようにするとっておきの方法
2008年12月17日11時00分 / 提供:眼光紙背
MiAUの眼光紙背:第21回
今年9月、福岡県で6歳の男の子が殺される事件があった。変質者の犯行が疑われたものの、結果的に逮捕されたのは母親だった。さて、ここで1つ質問がある。子供が変質者に殺される可能性と、実の親に殺される可能性とでは、どっちが高いか?警察庁の統計やメディア報道から計算すると、意外なことに子供が殺される事件の92%くらいは、親族による犯罪だということがわかる。実のところ、変質者による被害者は年間数件あるかないかでしかない。子供を変質者から守るために厳しい法律を作ったり、パトロールを強化するよりも、育児に疲れた親をサポートする政策を整備する方が殺される子供の数は減るのだ。
昨今こんにゃくゼリーを喉に詰まらせて亡くなった子供の事件が話題になっている。その何百倍もの人たちがパンや餅のせいで亡くなっているにも関わらず、こんにゃくゼリーという意外さからか、そればかりがメディアに取り上げられてしまう。その結果「こんにゃくゼリーの販売・製造を規制しよう」などという政治家まで現れる始末だ。
このように、思い込みのせいで誤った判断をしてしまうことを、心理学の世界では「ヒューリスティクス」と呼ぶ。例えば、実際の事故の確率で考えれば、旅客機は自動車の100倍以上安全であるにもかかわらず、飛行機を過剰に怖がる人は多い。これも「ヒューリスティクス」の一種だ。
ここでもう1つクイズに挑戦してみてほしい。これはある映画に出てきたクイズをちょっとひねったものだ。
――父親とその息子が一緒に飛行機に乗った。するとその旅客機のパイロットが出発前に客席を回りながら、父親に向かって「私の息子をよろしく頼む」と呼びかけた。さて、この状況には何かおかしなところはあるだろうか?
養子? 不倫? 同性愛? 妙な事態を妄想した人がいるかもしれないが、そうした人は見事に「ヒューリスティクス」の罠にはまっている。答えを聞けば、おかしなところは何もないことがわかる。このパイロットは「少年の母親」だからだ。
一般的には「パイロット=男性」との思い込みが強いので、母親という発想がなかなか出てこない。これは、日本でもアメリカでも同じ。アメリカの航空会社を4回ほど利用すれば、実際に女性パイロットに遭遇する確率は約4割にもなるというのに、だ。
実はここにもヒューリスティクスの落とし穴がある。今、まさにこれを読んだ読者の人は「アメリカには女性パイロットが結構な数いるんだな」と思ったのではないだろうか。
しかしこれも錯誤を誘う言葉のマジック。米国の女性パイロットの割合をリアルな数字で伝えてしまえば、約6%でしかない。約94%は男性であり「パイロット=男性中心」という考え方そのものはほぼ間違っていない。このようにある事柄についての印象が表現の仕方でコロコロ変わってしまうことは「フレーミング効果」と言われる。
では、我々が誤った判断をしないようにする方法はあるのか?実はある。それも、とびきり“現金”な方法だ。答えは簡単。「その判断が正しい場合に大金がもらえるとしたら、自分はどう判断するか」という視点で考えれば、人間は判断を誤らないのである。さっきのクイズで言えば、「4回乗れば40%の確率で女性パイロットに当たるとしたときに、あなたが次に乗る飛行機のパイロットが女性であることに1万円かけるか?」という形式に問題を変えれば、人間は判断を誤りにくくなる。これは心理学的な実験で実証されていることだ。どうやらお金が絡むと人間は最大限合理的な判断をしようとするらしい。
我々――政治家やマスメディアも含め――は、往々にして「偏見」のせいで変な結論に飛びついてしまいがちだ。しかし、そんな偏見も「本当にそれが正しければ1万円払うか?」という問いを挟むことで冷静に除去できるようになる。一部の政治家がこんにゃくゼリーを悪者にしたのは、誤った判断をしている人達が大勢いて、そういう人達の人気取りをしたかったからに過ぎない。そのような政治家にだまされないためには、自身に潜む「偏見」の罠に気付いた上で、常に「現金」な判断を心がける必要があるのだ。(中川譲/MIAU理事、多摩大学情報社会学研究所RA)
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