小久保英一郎@惑星系形成・天文学は千回以上潜ってる
「地球や月はどうして生まれたか」という心くすぐるテーマを研究し、宇宙や惑星のリアルなCG映像でも知られる小久保英一郎さん。テレビ番組「情熱大陸」でも紹介された彼は、柔らかなマスクと穏やかな語り口に比して、海へ山へと挑むごっつい探検家であり、HHKとFreeBSDにこだわる純粋なプログラマでした。

プログラミングとは、PCの中の宇宙を創り出す手法である
■お前のプログラミングを見ると目が腐る
― 小久保さんはシミュレーション天文学がご専門とお聞きしました。

こ 天文学の基本は望遠鏡を使った観測天文学ですね。普通の物理や化学の分野では実験があっても、天文学ではスケールが大きすぎてできませんが、コンピュータの進化でPCの中での模擬実験ができるようになりました。それがシミュレーション天文学です。僕の研究はシミュレーションと理論を用いて、惑星が形成される過程や惑星の起源を明らかにすることです。地球のような惑星や月のような衛星、あるいは土星がもつようなリングがどうやってできるのかを理解しようとしています。

― 国立天文台の4次元デジタル宇宙(4D2U)プロジェクトのメンバーでもいらっしゃいますが、描き出される高精細な宇宙や惑星のCGには驚きました。

こ 4D2Uプロジェクトは、実は趣味なんです。シミュレーションから理論を引き出すのが僕の研究の本流で、あそこまでリアルな映像を作る必要は本当はないんです。ただ、非常に受けたのでありがたく思っています。

― シミュレーションの計算には重力多体問題専用計算機「GRAPE」が使われていますが、このハードウェアも小久保さんがお作りになられたと。

こ 僕ではなく、僕のいた大学の(杉本)研究室で始めたものです。それがしたくて4年のときに入って、アキバでチップを買い、CADで設計して、2000〜3000本の配線をして、はんだ付けも自分でしましたよ。一方ではGRAPEを動かすための制御プログラムも書きました。

― プログラミングだけでなくGRAPEのようなスーパーコンピュータの設計・開発までする人は、エンジニアでも研究者でもなかなかいないと思います。

こ 確かに恵まれました。ハードがどう動くかを理解できることは今の研究にとても役立っています。ハード系は大学1年の授業であり、アナログは難しいけれどデジタル回路なら1年間学べばわかるんです。プログラミングはもともとしていました。僕はブラックボックス的な道具が嫌いで、自分の携わっている範囲はなるべく理解したいと思っています。

― プログラミングを始めたのはいつごろからですか?

こ 中学生くらいですね。当時はPCを持っていなかったので、電気店さんに展示してあるMZ-80に打ち込んで、持参したテープに保存して、また組んだりを続けていました。簡単な数当てゲームをBASICで書くくらいでしたけど。高校になると親がPC-98を買ってくれたので、グラフィックで模様を描いていたりしました。好きで続けていましたが、熱中していたわけではなく、高校でも大学でも外で遊んでいました(笑)。ただ、大学では計算機実習などもあり、 GRAPEの開発にはすんなり入っていけました。
 学部時代に習ったのはFORTLANです。この業界では今でも根強く使われているのですが、 GRAPEの開発はCなので一から覚えました。最初はFORTLAN的な使い方をしていて、特に問題ないと思っていたら、ハッカー的な先輩や先生から「そんな腐ったプログラムを書くな」とか「お前のプログラムを見ると目が腐る」などと言われたんですよ。あれ、どういうことかなと思うじゃないですか。それでオブジェクト指向よりのプログラミングにしていって、今ではCが母国語です。

― ご研究の惑星の形成で「地球はどうやってできたのか」がゴールとすれば、今は何合目くらいでしょうか。

こ 全くわかりません。でも、ゴールは見えないほうががいいですよ。

■スキューバダイビングが、大好き!
― 先ほど学校時代は「遊んでた」とお聞きしました。どんな遊びですか?

こ 高校時代は山岳部で、主将だったんですよ。冬山も登れば、ロッククライミングも沢登りもやるというめちゃくちゃハードな部で、30kgの装備を担いで1週間縦走したり、真冬に蔵王にこもったり、今考えるとよくやったと思います。ただ、育ったのが山のほうなので海に憧れがあって、大学でスキューバダイビングのサークルに入りました。
 その中で「海の師匠」に出会いまして、いろいろなところに連れて行ってもらいました。水中撮影や水中調査の助手をしたり、ダイビングの教室で教えたりして仕事を手伝い、ダイビングのこと、海のことを学びました。潜るのは主に伊豆で、長い休みには沖縄や奄美大島、伊豆諸島や小笠原諸島にも行きました。それからずっと続けていまして、海外ではオーストラリア、タヒチ、ハワイ、タイ、ボルネオなど、潜った場所は数えきれません。イースター島でも潜りました。

― イースター島にダイビングショップはあるんですか?

こ ないです。だから器材をもっていって、漁師さんに頼んで潜りました。日本人で潜ったのは2人くらいで、僕がそのひとりだそうです(笑)。海外に行くときは普通に器材(スーツ、BC、レギュレータ、計器、ウエートなど)をもっていきますが、仕事がらみで難しい場合でも、3点セット(マスク、シュノーケル、フィン)は必ず持参します。

― 私も少しだけダイビングをするのですが、シュノーケルが小さいですね。

こ 最もシンプルな形です。水を抜く弁がないので逆に砂などが詰まったりしませんし、プラスチックではなくゴム製なので割れません。ダイビングポイントで危険なことは少ないのですが、インストラクターになってからはリスク回避のために使っています。
 また、マスクは視界が広くて見やすく、フィット感がよいので、アジアの漁師さんたちが欲しがっているものです。フィンは個々の差が大きくて、これは「名器」と呼ばれている、たいていのインストラクターが履いているものです。ゴム製なのでしなやかで、形がよいので蹴っていて疲れないのに推進力があります。私もいろいろと試しましたが、圧倒的にこのタイプはいいですね。ちなみに色が白いのは皆を引率するときに水中で目立つからです。私はインストラクターのライセンスをもっていて、大学の後輩たちなどに教えていますから。

― スキューバダイビングの面白さとは何ですか?

こ もともと僕は、トール・ヘイエルダールのような探検家になりたかったんです。ダイビングはそうした要素からも惹かれますし、海の生き物に合える素晴らしさもあります。場所によって全然様子が違いますしね。世界中の海に潜りたいと思っているんですよ。

― 今までに何本くらい潜っているんですか?

こ う〜ん、軽く1000本以上は潜っていますね。今年は少なくてまだ10本くらいですが、これからの季節は伊豆がいいんです。秋になると水が澄むし魚が増えるので、また行こうと思っています。

― 多趣味なようですが、最近の趣味などはありますか?

こ もともと寺や古墳などの古いものを見て歩くのが好きなのですが、最近はお祭りにハマっています。先週末は特別に開催された越中八尾(富山)の「おわら風の盆」に行ってきました。優雅できれいな踊りなんですよ。ダイビングで沖縄に通ううちに現地の芸能やお祭りが好きになって、そこから内地の祭りへと興味が広がりました。
 お祭りは唄と踊りがいいですね。仙台出身なので東北地方の文化・芸能が好きで、仙台の七夕まつり、秋田の西馬音内盆踊り、弘前のねぷたまつり、みちのくの芸能まつりにも行きました。京都では祇園祭や葵祭、徳島は阿波おどりなどかな。

― ご自分でも踊ります?

こ できるところなら踊ります。沖縄のお祭りではいつも踊っていますから。

■僕の研究はすべてFreeBSDで閉じてます
― ところで、お使いのキーボードはHHK(Happy Hacking Keyboard)では?

こ はい。これは初代機です。HHKは新しいモデルが出るたびに買っているのですが、初代機がいちばん手に合うので、まめに掃除などをして使い続けています。キーボードとディスプレイはPCと人間とのインタフェースですから、お金をかけてもいいものを使うべきだと思います。この液晶ディスプレイはナナオ(EIZO)ですが、バックライトがヘタってくるたびに買い換えています。
 また、UNIXユーザーの方ならわかると思うのですが、僕のマウスは見なくなった3つボタンマウスです。ホームポジションから手を離したくないので、本当はマウスも使いたくないのですけど。……≫続きはこちら

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