信藤健仁の浦和レッズ解体信書 連載18
「浦和レッズマガジン10月号(9月12日発売)より」
レッズはなぜ試合の主導権を東京Vに渡してしまったのだろうか。個人の力では勝っているにもかかわらず苦戦を強いられた試合から現在のレッズが抱える最大の問題点とその解決方法を探る。
主導権を奪われた要因は意思統一の不徹底さにある
ボールを奪った瞬間、味方からのパスを受けた瞬間、レッズの選手たちの視線はどこを向いているのだろうか。
8月最後の試合となった東京V戦。後半ロスタイムに阿部勇樹のヘディングで、レッズは辛うじてドローに持ち込み、勝ち点1を得た。簡単に負けない勝負強さは見事だが、内容を考えれば0−1、いや0−3で負けてもおかしくない試合だった。
主導権を奪われ苦しい展開を強いられた要因の一つとして、攻撃に移行する際の意思統一の不徹底さが挙げられる。レッズのパス回しは各駅停車。パスの大半は安全第一の選択で、最も近くの味方にボールを渡している。リスクを負ってFWにパスを出すことも少ない。これでは攻撃にスピーディーさが生まれなければ、相手守備網を打開することもできない。守備を攻略するための意図が含まれたパス回しではなく、ただボールをつないでいるだけ。そのゆったりとしたパス回しの中でもポンテにボールが渡れば、彼のスキルと創造性でチャンスが生み出されるが、そうでなければ何も起こらない。
相手DFも前線のポンテ、高原直泰、田中達也を徹底マークしているため、簡単にパスは通らない。パスの出し手と受け手のどちらかがミスをすれば、ボールを失うことになる。しかし、サッカーというスポーツにおいて、リスクを背負わなければ能動的にチャンスを生み出すことなど不可能なのである。相手守備陣をどのように崩すのか。今のレッズは決定的にこの意識が欠如している。
相手の守備を崩すための手段の一つとして、危険地帯、すなわち相手DFのマークが最も厳しいバイタルエリアに入ったFWにくさびのパスを送り、フォローした選手にシンプルにリターンパスを出し、そこから攻撃を展開するパターンがある。しかし、今のレッズには積極的にくさびのパスを入れようとする選手が少ない。パスの出し手はFWがDFを背負っていようともパスを送り、FWは体を張ってそれを受けなければならない。この試合では、高原や田中がパスを受けられる体勢にあるにもかかわらず、ボールが送られることが少なかった。しかも、相手DFのすきを突いて、裏に抜け出してもパスが来ない。なぜこのようなことが起こるのか。それはボールを保持した瞬間に、最前線に張るFWを意識していないからである。さらにくさびのパスが入った場面でもフォローがなく、FWは孤立無援。ボールを奪われることを過剰に恐れ、ディフェンスラインを押し上げていないからフォローが遅れる。中盤とFWの距離が開き過ぎているために起こる事象なのだ。
戦術的修正を施すことなく交代策に活路を求めた指揮官
ゲルト・エンゲルス監督は、前半終了後、劣勢を打開するためにFWを一度に二人も交代させた。しかし、この交代には疑問が残る。前半の2トップは停滞していた攻撃を打破しようと、ボールを引き出すために懸命に動いていた。それ以前のビルドアップの部分に問題があったにもかかわらず、指揮官は戦術的修正を施す前に、選手交代に活路を見いだしたのである。この策は試合終盤での交代枠が減ること以上に、大きな不安を抱かざるを得なかった。不安の原因は、ハーフタイムの指示で修正不可能なほどチーム状態が悪いのではないかと思ってしまったからである。
そもそも、サッカーにおいて組織を構築することは簡単ではない。しかし、どれほど個人能力の高いチームでも、組織がなければ個の力を最大限に発揮できないのだ。
チームによって個人能力と組織力のバランスがある。例えば、100という力のチームをつくる過程において、個の力が50しかないチームは不足している50を組織で補わなければならない。これをレッズに置き換えてみるとどうだろう。現在のJリーグの中で、レッズの選手たちの個人能力は間違いなくトップレベル。その力を80とするならば、組織力を20ほど高めるだけで簡単に100の力を持ったチームになるのだ。
2006年、リーグ優勝を果たしたチームも戦術的にはつたなかったが、ある意思統一は徹底されていた。「ボールを持ったらワシントンに預ける」。このブラジル人ストライカーの絶対的なキープ力は、仲間から絶大な信頼を受けていた。だが今は、このような意思統一が欠如している。それがピッチの選手たちの迷いとなり、攻撃の遅れにつながっているのだ。だから、パスがセーフティーな横方向へ偏ってしまう。また、前線にボールを放り込むこともなく、くさびのパスも入らない。
「ここでパスを入れたらボールを失うかもしれない」と思うのではなく、味方を信頼してパスを送る。そういったプレーを組織として機能していない現状で実践すれば、ミスが起こるかもしれない。しかし、チャレンジしなければ何も生まれない。チャレンジして起こったミスはミスではなくなる。それは未来への糧となり、そしてそのプレーが成功したときに信頼関係が生まれるのだ。
サッカーのチームや選手は、ハスの花のようだと思っている。ゆっくりと養分を蓄え、あるときが来たらパッと花開く。サッカーも同じように、地道にチャレンジしていればある瞬間に劇的に変化する。そのチャレンジをレッズは実践し、成功させるためにトレーニングに取り組んでいるのだろうか。
試合中の選手たちの視線はチーム全体が進む方向。それは長期的に見れば、チームとしてどういう方向に進んでいるかということと同義ではないだろうか。レッズの選手たちはボールを奪ったら、第一に最前線の選手を見ること。これを意識すれば一歩一歩チームは前進し、そしてあるとき劇的に花が開き、ピッチで素晴らしいサッカーが展開されることだろう。
信藤健仁 Katsuyoshi SHINTO
1960年9月15日生まれ。広島県出身。中央大→マツダ→三菱(浦和)→フジタ(平塚)。現役時代は日本代表のキャプテンマークも巻いたDF。引退後は平塚のコーチや横浜FCの監督を務めた。現在はWOWOWやテレ玉などで解説者として活躍している
レッズはなぜ試合の主導権を東京Vに渡してしまったのだろうか。個人の力では勝っているにもかかわらず苦戦を強いられた試合から現在のレッズが抱える最大の問題点とその解決方法を探る。
主導権を奪われた要因は意思統一の不徹底さにある
ボールを奪った瞬間、味方からのパスを受けた瞬間、レッズの選手たちの視線はどこを向いているのだろうか。
8月最後の試合となった東京V戦。後半ロスタイムに阿部勇樹のヘディングで、レッズは辛うじてドローに持ち込み、勝ち点1を得た。簡単に負けない勝負強さは見事だが、内容を考えれば0−1、いや0−3で負けてもおかしくない試合だった。
主導権を奪われ苦しい展開を強いられた要因の一つとして、攻撃に移行する際の意思統一の不徹底さが挙げられる。レッズのパス回しは各駅停車。パスの大半は安全第一の選択で、最も近くの味方にボールを渡している。リスクを負ってFWにパスを出すことも少ない。これでは攻撃にスピーディーさが生まれなければ、相手守備網を打開することもできない。守備を攻略するための意図が含まれたパス回しではなく、ただボールをつないでいるだけ。そのゆったりとしたパス回しの中でもポンテにボールが渡れば、彼のスキルと創造性でチャンスが生み出されるが、そうでなければ何も起こらない。
相手DFも前線のポンテ、高原直泰、田中達也を徹底マークしているため、簡単にパスは通らない。パスの出し手と受け手のどちらかがミスをすれば、ボールを失うことになる。しかし、サッカーというスポーツにおいて、リスクを背負わなければ能動的にチャンスを生み出すことなど不可能なのである。相手守備陣をどのように崩すのか。今のレッズは決定的にこの意識が欠如している。
相手の守備を崩すための手段の一つとして、危険地帯、すなわち相手DFのマークが最も厳しいバイタルエリアに入ったFWにくさびのパスを送り、フォローした選手にシンプルにリターンパスを出し、そこから攻撃を展開するパターンがある。しかし、今のレッズには積極的にくさびのパスを入れようとする選手が少ない。パスの出し手はFWがDFを背負っていようともパスを送り、FWは体を張ってそれを受けなければならない。この試合では、高原や田中がパスを受けられる体勢にあるにもかかわらず、ボールが送られることが少なかった。しかも、相手DFのすきを突いて、裏に抜け出してもパスが来ない。なぜこのようなことが起こるのか。それはボールを保持した瞬間に、最前線に張るFWを意識していないからである。さらにくさびのパスが入った場面でもフォローがなく、FWは孤立無援。ボールを奪われることを過剰に恐れ、ディフェンスラインを押し上げていないからフォローが遅れる。中盤とFWの距離が開き過ぎているために起こる事象なのだ。
戦術的修正を施すことなく交代策に活路を求めた指揮官
ゲルト・エンゲルス監督は、前半終了後、劣勢を打開するためにFWを一度に二人も交代させた。しかし、この交代には疑問が残る。前半の2トップは停滞していた攻撃を打破しようと、ボールを引き出すために懸命に動いていた。それ以前のビルドアップの部分に問題があったにもかかわらず、指揮官は戦術的修正を施す前に、選手交代に活路を見いだしたのである。この策は試合終盤での交代枠が減ること以上に、大きな不安を抱かざるを得なかった。不安の原因は、ハーフタイムの指示で修正不可能なほどチーム状態が悪いのではないかと思ってしまったからである。
そもそも、サッカーにおいて組織を構築することは簡単ではない。しかし、どれほど個人能力の高いチームでも、組織がなければ個の力を最大限に発揮できないのだ。
チームによって個人能力と組織力のバランスがある。例えば、100という力のチームをつくる過程において、個の力が50しかないチームは不足している50を組織で補わなければならない。これをレッズに置き換えてみるとどうだろう。現在のJリーグの中で、レッズの選手たちの個人能力は間違いなくトップレベル。その力を80とするならば、組織力を20ほど高めるだけで簡単に100の力を持ったチームになるのだ。
2006年、リーグ優勝を果たしたチームも戦術的にはつたなかったが、ある意思統一は徹底されていた。「ボールを持ったらワシントンに預ける」。このブラジル人ストライカーの絶対的なキープ力は、仲間から絶大な信頼を受けていた。だが今は、このような意思統一が欠如している。それがピッチの選手たちの迷いとなり、攻撃の遅れにつながっているのだ。だから、パスがセーフティーな横方向へ偏ってしまう。また、前線にボールを放り込むこともなく、くさびのパスも入らない。
「ここでパスを入れたらボールを失うかもしれない」と思うのではなく、味方を信頼してパスを送る。そういったプレーを組織として機能していない現状で実践すれば、ミスが起こるかもしれない。しかし、チャレンジしなければ何も生まれない。チャレンジして起こったミスはミスではなくなる。それは未来への糧となり、そしてそのプレーが成功したときに信頼関係が生まれるのだ。
サッカーのチームや選手は、ハスの花のようだと思っている。ゆっくりと養分を蓄え、あるときが来たらパッと花開く。サッカーも同じように、地道にチャレンジしていればある瞬間に劇的に変化する。そのチャレンジをレッズは実践し、成功させるためにトレーニングに取り組んでいるのだろうか。
試合中の選手たちの視線はチーム全体が進む方向。それは長期的に見れば、チームとしてどういう方向に進んでいるかということと同義ではないだろうか。レッズの選手たちはボールを奪ったら、第一に最前線の選手を見ること。これを意識すれば一歩一歩チームは前進し、そしてあるとき劇的に花が開き、ピッチで素晴らしいサッカーが展開されることだろう。
信藤健仁 Katsuyoshi SHINTO
1960年9月15日生まれ。広島県出身。中央大→マツダ→三菱(浦和)→フジタ(平塚)。現役時代は日本代表のキャプテンマークも巻いたDF。引退後は平塚のコーチや横浜FCの監督を務めた。現在はWOWOWやテレ玉などで解説者として活躍している







