27日、実写映画が公開される「イキガミ」。この夏は「20世紀少年」「デトロイト・メタル・シティ」と漫画原作映画が話題をさらったが、イキガミは例の問題(これについては後述)が浮上するまではいまひとつ地味な存在だった。それもそのはず、内容が良くも悪くも地味なのだ。

 国家繁栄のために施行されている「国家繁栄維持法」、通称・国繁。国繁の名の下に、すべての子供は小学校に入学すると同時に「国家繁栄予防接種」を強制的に受けさせられる。このワクチンには0.1%の確率で「ナノカプセル」が混入されており、それが体内に侵入すると、18歳から24歳までの間のあらかじめ設定された日時に死亡してしまうのだ。目的は、国民が死の恐怖を身近なものとし、生命の価値に対する認識を高めること。仮に自分や家族の体にカプセルが注入されていたとしても、事前にそれを知る術はない。カプセル保持者が初めてその事実を知るのは、早くても死の24時間前。「死亡予告証」、通称「逝紙(いきがみ)」が役所の戸籍課によって届けられた時だ。

 これがイキガミの舞台装置。ストーリーはエピソードごとに逝紙が届けられる“国繁死対象者”の死までの数日間を描く。自分の命が残り少ないことを逝紙によって知らされる罪もない国民たち。千分の一の確率で『ロシアンルーレット』に当たるような、私たちが暮らす世界の常識で照らし合わせれば不条理極まりない“国繁死”を目前に、彼らはなにを思い、どう動くのか、というものだ。

 凝った設定ではあるが、正直、初めの頃はあまりパッとしなかった。死を目前にしたありきたりなヒューマンドラマという印象で、エンターテインメント性はなく、読む者にはただひたすらに死が重くのしかかってくるだけ。しかし徐々に、作中では“退廃思想”と呼ばれる国繁への反発が滲み出し始める。それが爆発したのは、コミックス5巻収録のEpisode9「塗りつぶされた魂」。『国繁に殺される人間の怒りと悲しみ』が国繁死対象者の手によるグラフ(違法落書き)という明確な形で表された。続くEpisode10「国繁原理主義」では、誰かを陥れてでも国繁のために、という愚かな若き国繁主義者が痛々しいほどのリアリティを持って描かれている。

 イキガミはオムニバス作品ではあるが、一応主人公らしき人物はいる。「藤本賢吾」、武蔵川区役所戸籍課に務める逝紙配達人だ。連載開始当初はただ配達して終わり、といったことが多く、主人公というよりナビゲーターに近い役割だった。だがそれも当然で、役所の人間は国繁死対象者に深く関わってはならない規則があるのだ。実際に藤本は3巻Episode6「最愛の嘘」で、国繁死対象者への過干渉により咎めを受けている。しかしストーリーが進むにつれて国繁についての藤本の考えが明らかにされてきており、周囲から退廃思想者の疑いも持たれ始めた。この先、藤本がストーリーの中心に据えられることもあるのかもしれない。

 星新一氏「生活維持省」との類似点については、私個人の見解は若干小学館寄りだ。確かに設定だけ見れば似ている部分もあるが、描き出しているものについては共通点の欠片もないように思う。さらにいえば生活維持省のラストシーンは秀逸だが、それをイキガミでなぞるようなことは設定上あり得ないのだ。すでに星氏の次女マリナ氏と小学館の見解は公表されていることだし、私としては単純に、似たような着想からまったく違うものを作り出す二つの才能に心から敬意を表したい。

(編集部 三浦ヨーコ)


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