2001年開始の『M−1グランプリ』、2003年開始の『R−1ぐらんぷり』と、お茶の間を「一億総お笑い評論家」化させる笑芸選手権の立ち上げが続く中、みたび吉本興業が企画したのが、10月5日に開催されるコントの大会『キングオブコント2008』(TBSにて生放送)である。
 ただし、細かく設定された決勝の審査基準を見る限り、先行2大会と比較してかなり異質な、見る側にとってひと筋縄では行かない大会になりそうだ。
 ではいったい、『キングオブコント2008』(以下『KOC』)はどのあたりが他の2大会と異なるのか。過去の経緯や出場者の分析を含めて検証してみたい。

(1)異例のルールと過去の経緯

 『KOC』の司会を務めるのは、おなじみダウンタウンの2人。そのうち松本人志の意見は、今大会の審査方法にかなり反映されているという。
 決勝戦は「A・B2グループ(各4組)に分かれてコントを演じる」→「そこで高得点を獲得して勝ち抜いたグループ2組が、最終決戦でもう一度コントを演じる」→「勝者決定(優勝)」の流れで、これ自体は松本が審査員として参加する『M−1』と同じだが、審査するのはなんと、ファイナリストになれなかった準決勝敗退組の芸人たちなのである。しかも、最終決戦では、演じた当人たちの意見も投票に加わるという前代未聞の審査方法だ。
 もしこのルールが松本の意見を反映した部分であるとすれば、見えてくるのは、よく言えば「プロ芸人の眼」を信頼する姿勢。悪く言えば「客の笑い声に対する不信感」であろう。『M−1』の審査でも、自分の評価と客席のウケ具合の差を感じて「もっとウケてもいいと思う」旨の発言をする松本だが、じつは客不信の問題は、放送局であるTBSをも絡めてもう少々根深かった。

 1993年秋から1年間TBSで放送された深夜番組『ダウンタウン汁』の、とある回での話。大喜利コーナー(スタジオ収録)の本番前、スタッフが客席に「多少面白くなくても大声で笑って下さい」と指示したのを見て、松本が大激怒。観覧客を全員帰してしまい、スタッフだけ残した無人状態で大喜利コーナーを収録するという、当時の松本のトンガリ具合を象徴するような事件があったのだ。
 その少し前、ゴールデンタイムで放送したもののコケて、やはり松本を怒らせた『生生生生ダウンタウン』からさほど間が無かったこともあり、その後ダウンタウンはしばらくTBSと疎遠に。10年以上置いてのち、2005年正月放送特番『笑いの祭典 ザ・ドリームマッチ』と、同じスタッフで生まれたレギュラー番組『リンカーン』(同年10月から)の成功があって、関係はようやく修復された。
 とはいえ『リンカーン』の番組コンセプトは「芸人の芸人による芸人のための番組」。主役は芸人、という気概の現れであり、また言外に「スタッフでも客の笑い声でもない」と訴えているようでもある。

 以上の経緯を知れば、今回の『KOC』の変則審査システムがなぜ誕生したか……も、おのずと理解できるのだ。TBSサイドとしては、話題確実の企画欲しさに、笑いのマイスター・松本の提示したアイディアを丸呑みした形……と考えても間違いは無いだろう。



(2)ファイナリストたち

 次に、今回決勝に進出したコントグループ8組をキャリア順に簡単に紹介しておく。

・最古参のバッファロー吾郎(結成1989年)は、セットや衣装を使わずにネタをすることが多い。関西中心の活動が続いていたが、近年は主催イベント『ダイナマイト関西』が全国的に話題。
・TKO(結成1991年)は、雌伏期間が長かった「ベテラン若手」。2007年『爆笑レッドカーペット』出演を契機に全国区となり、今や売れっ子。心理戦コントが得意技。