TVアニメ『ヒカルの碁』 神谷純監督インタビュー

週刊少年ジャンプ(集英社)で連載が始まった当初、史上初「囲碁マンガ」として衝撃をよんだ『ヒカルの碁』(作:ほったゆみ、小畑健)。
平凡な小学生の少年・進藤ヒカルは天才囲碁棋士の霊・藤原佐為(ふじわらのさい)に取り付かれたことで、囲碁の世界に巻き込まれ、「神の一手」を目指すプロ棋士になる。主人公ヒカルとライバル塔矢アキラたちの成長を描く少年マンガである。
これまであまり注目を受けなかった囲碁という世界で、全身全霊をそそぐ少年達の成長・葛藤・物語性・プロ意識の熱さにファンが殺到。その人気で若年層の囲碁愛好家を増やしながら、待望のアニメーション化に至った。

2001年から2004年までTV放送されたアニメは原作に忠実なストーリー展開で全75話とスペシャル版1話で構成。昨今の1シーズンアニメ(全13話完結)とは比べ物にならないボリュームの見応えだ。

その『ヒカルの碁』が2013年1月からBlu-ray全5BOXとなって10年ぶりにリニューアル。
これを記念して、第16話から第59話までアニメ制作に携わった神谷純監督に、今だから聞ける当時のお話を伺った。

※作品では第○話を第○局と数えていますが、インタビュー中は便宜上、第○話と表現させていただきます。

■デジタル黎明期に生まれた、史上初「囲碁」アニメ

---2001年から2004年までTV放送したアニメ『ヒカルの碁』(ヒカ碁)がBlu-rayになって蘇るということで、懐かしいお話など伺えたらと思います。

神谷純監督(以下、神谷)
 はい。もう10年以上前になるんですよね。

---当時ヒカル同様学生だったファンも社会人になった頃かと。

神谷
 これはヒカルたちがプロ棋士になっていくお話ですが、1話では彼らまだ小学生だったんですよね。
はじまりは、おじいちゃんの家に行ったら古い碁盤を見つけて、突然光って幽霊の佐為が現れて取り付かれ、彼の指南で囲碁を始める、という少年マンガらしいファンタジックなスタートでした。
ところで、ヒカ碁に関わった監督は3名いまして、僕は2人目だったんです。
僕が第16話〜59話まで一番長く勤めたんですけれども、前任の第1話〜15話は西澤晋さんでした。第60話〜75話+スペシャルを引き継いでくれたのは僕のときに演出担当もしてくれていたえんどうてつやさんです。

---1話で佐為が現れるシーンはとても印象的に描かれていました。

神谷
 西澤さんは非常に映像性に凝ったアニメーション作りをする方で、「丁寧に作ってるなあ」と隣で見てましたが、そのうち自分が関わることになろうとは(笑)
光輝くなか佐為が登場するというのは、視聴者に「このシーンが大切だぞ」ということを知らせる効果を存分に上げていて、特に印象的でしたね。

---他の重要なシーンでも、光の演出を使っていますね。

神谷
 ええ。身もフタも無い話になりますが、座って手を動かすだけの囲碁ですから、瞬間の一手にキャラクターの感情が伴っているのをどう視聴者に伝えるかが演出の最大の仕事でした。
とはいえ実際の囲碁は大きなアクションをするわけもなく、座って石を置いていくだけです。もちろん本人は何も言いませんから、視聴者にその勝負の中で生まれるドラマを伝えるために、いろんな手法を総動員しました。盤上を光らせたり、幽玄なる空間をたゆたってみたり、背景を早い速度で動かしてダイナミックさを出したり、ギャラリーの表情や独白を差し込んでみたり。
これ実は、スポーツアニメの手法なんですよ。戦ってる当事者の熱い感情を、その当事者の気持ちを観戦しているギャラリーが、解説役になってしゃべってくれるんです。
「誰にでもわかる形でどう伝えるか」これが業界初「囲碁アニメ」の課題でしたね。