先端技術は“折り紙”から生まれた?温故知新のススメ
 2007年9月、日本の美が凝縮された京都で新しい景観規制がスタートした。不動産の価値のみを追求した乱脈開発のおかげで、日本の景観は今や全国的にボロボロだが、そんな中、あえて経済的メリットを犠牲にしても伝統的な美の景観を守る意思を示した京都の英断は称賛に値する。
 日本には景観ばかりでなく、伝統的なモノが数多く存在する。その代表例といえるのは彫金、漆器、織物など、日本のモノづくりの原点ともいえる伝統工芸・技術だ。これらの工芸品といえば、芸術的と評されるような美しさ、手作業ならではの精緻さ、またよい機能を持たせるための驚くべき工夫など、素晴らしい価値をもっている。が、ライフスタイルの変化や高い価格などの理由で需要は減少しており、中には消滅の危機にひんしているものもある。
 勢いを失っているように見える伝統工芸だが、実はモノづくりという観点では、その価値は色あせていない。いや、そればかりか、伝統工芸を古来より積み重ねられたモノづくりのノウハウの集大成として見直し、その技法や技術を積極的に取り入れる試みも増えている。
 伝統工芸や技術からヒントをえた最先端技術は、数多く存在するという。それらのケースをつぶさに見れば、21世紀型の「美しいモノづくり」が見えてくるのではあるまいか――そんな思いに駆られ、Techスナイパーは伝統工芸を応用したテクノロジーを考案したエンジニアに話を聞く旅に出かけた。

Case1 折り紙の技法「ミウラ折り」をアルミ缶に採用…東洋製罐
■折り紙の技法が缶の材料使用量を劇的に減らした
 日本の伝統工芸において重要な地位を占めている材料のひとつに、紙がある。世界的には、紙は材料としては脆弱で、主に物事の記録メディアとして用いられてきた。が、日本においては記録のみならず、ふすまや障子などの内装材、千代紙などを折って作る紙細工、さらには紙を繊維化して耐久性に優れた布を作る紙布など、紙を使った工業製品が数多く生み出されてきた。
 そうした日本の紙技術のうち、折り紙の技法を使って新しい製品を生み出したのが、製罐業界トップメーカーの東洋製罐だ。通常のツルッとした缶と異なり、表面には三角形のくぼみがつけられている。「スチール製の陰圧缶(中が真空に近い缶)の場合、きちんと強度を出すためには缶胴部の板厚はおおむね0.2mmの厚みが必要なのですが、この三角形の模様をつけたことで、強度を保ちながら厚さを0.15mmまで削減することができました」
 新型缶の開発をリードした大塚一男氏は語る。缶に刻まれた三角形のくぼみは、宇宙航空工学の専門家であった三浦公亮氏が1970年に考案したミウラ折りと呼ばれるパターン。日本古来の折り紙にヒントを得たものだった。

■高水圧の海底居住区の文献から着想
 ミウラ折りは、平面に特別な三角形の折り目をつけることで、平面に比べて強度を格段に向上させられるという技術。初めてそのミウラ折りに接したとき、大塚氏はその特性がジュースや酒類の缶の技術革新にピッタリではないかと考えた。
「ミウラ折りの文献を初めて見たのは、20年ほど前のことでした。三浦先生がハワイ大学と共同で、大きな水圧に耐える海底居住区の研究をしていましたが、そんなに強度が出て薄肉化できるのであれば、私たちの製品である缶にも応用できるのではないかと思ったわけです」
 缶を製造するための技術開発競争は厳しい。東洋製罐では1ラインあたり、毎分1700個以上の缶を製造する。表面に複雑な加工を施しながら、このペースを落とさないようにしなければ、コストが上昇してしまい、実用化は難しくなる。
「缶の断面を多角形にすることでミウラ折りを缶に刻むのですが、ハイスピードを維持しながら加工できる金型設計、機械設計がシステムのポイントでした」
 1990年にラボで試作加工機を開発しシステム検証を行った。そこで量産可能という結論が得られたため、缶コーヒー向けに初めてミウラ折りを取り入れた缶を出荷した。コスト、素材使用量の3割カットを実現したその缶は、いいことずくめに思われたが、実際に市販してみると、残念ながら売れ行きが芳しくなく、間もなく終売となった。

■まずデザインでヒット。今は省資源でも注目
 そのミウラ折りの缶が脚光を浴びたのは、90年代後半になってからだった。ミウラ折りを、スチール缶ではなく、アルミ缶に使用してみた。主に炭酸飲料に使われるアルミ缶は、強度がもともと弱い。ミウラ折りを使っても、結局膨らんでしまい、凹凸がつかない。
「ダイヤカットが出ないのでは面白くないというのでお蔵入りになっていた試作飲料を、廃棄しようとフタを開けてみたんです。そうしたら、その瞬間、パーンと元のミウラ折りに戻ったんです。これは何かに使えるぞと思い、商品開発が再スタートしたんです」
 アルミ缶にミウラ折りを施すと、アルミ地肌の輝きがより印象的になる。そのデザイン性に目をつけたのが、濃縮せずに凍らせた果汁を使った缶チューハイを開発していた酒造メーカーだった。その商品は大ヒットとなったが、ミウラ折りのアルミ缶は、そのイメージ向上に大いに貢献したのである。


Case2 漆器の欠点を技術で解決…ユーアイヅ
■内装材、携帯電話…工業製品に漆塗りを提案
  日本の伝統工芸のうち、その美しさから、世界のデザイナーの注目を浴びているのが漆塗り技術だ。近年、世界各国で行われる国際デザイン展などに漆を使った装飾品がよく出品されるが、独特の色合いや質感を高く評価する向きは多い。
 が、そうした評価の高さとは裏腹に、日本の漆器産業はライフスタイルの変化や価格の高さがネックとなり、全体的には厳しい状況に置かれている。その状況を打開するため、漆器産業は漆塗り工芸以外の、新しい工業分野への進出を狙っている。が、それを成功させるには「キズが付きやすい」「納期が長い」「コストが高い」といった、漆器のもっている欠点を克服しなければならない。
 その課題に果敢にチャレンジしているのが、漆器産業の一大集積地、会津塗で名高い福島県会津若松市にあるベンチャー企業、ユーアイヅだ。
 ユーアイヅは2000年、地元の漆器メーカー8社の協同出資によって設立された。福島県会津若松市の郊外にある、漆器メーカーの集積地の一角に置かれた小さな社屋には、携帯電話の外装ケース、万年筆、カーボン製のつえ、住宅の内装に使う化粧板や戸棚の扉など、さまざまな漆塗り製品が所狭しと展示されている。また、棚、テーブルなどの調度品も、美しい漆塗りの一品モノだ。
「これ、全部新しい漆含UV塗料による塗装なんですよ。今のところは住宅の内装材がメインですが、多方面での活用法を模索するために、こうしていろいろな試作品を作ったんです。一部はもう市販していますが」
 ユーアイヅの代表取締役、市橋延隆氏は語る。
 :
 :
 :
この記事の続きはライブドアキャリアで

■関連リンク
livedoor キャリア