【眼光紙背】「セックスの頻度」に左右される少子化対策の効果
2008年08月13日11時00分 / 提供:眼光紙背
門倉貴史の眼光紙背:第45回
現在、日本では少子化が急速に進んでいる。1人の女性が生涯に産む平均的な子供の数を示す合計特殊出生率(TFR)は、1970年の2.13から、06年には1.32まで低下した。中長期的なTFRの低下傾向は、多くの先進国に共通してみられる現象だが、欧州の一部の地域では、TFRが上昇に転じるようになった国もある。そのひとつが、フランスだ。フランスでは90年代後半以降、TFRが上昇傾向にあり、06年は2.00となった。
では、なぜフランスで出生率が回復するようになったのか?
大きな理由として挙げられるのは、フランス政府が、少子化対策に多額の資金を投入するようになったことだ。たとえば、現在、フランスでは、公立の病院で出産する場合の費用が無償化されている。また、不妊治療についても一定の条件をクリアすれば無償だ。また、出産・育児休暇の制度が充実しているほか、託児所など子育てのための社会インフラも十分に整っている。さらに、第二子以降の子供については、20歳になるまで、毎月、決まった児童手当(2万円前後)を受けとることができる。
このように国を挙げて少子化対策に力を入れているため、フランスの家族手当支給額(出産手当や児童手当を含む)のGDP(国内総生産)比は年々上昇しており、1980年の2.4%から、直近の統計となる03年には3.0%まで上昇した。出産・育児の費用を国が肩代わりすることが、出生率の上昇や女性の社会進出の拡大につながっていると言える。
もうひとつ、フランスの出生率が回復傾向にある背景のひとつに、社会全体で出産を増やすことを目的として、制度的に、同棲など結婚していないカップルが子供をつくることを容易にしたということがある。
フランスでは、1999年に、結婚をしていなくても、共同生活をしているカップルについては、税や社会保障などで結婚している場合と同様の法的権利が得られる「PACS(連帯市民契約)」の制度が導入されたのだ。
その結果、結婚がカップルにとってのゴールではなくなったフランスでは、出生数に占める婚外子(非嫡出子)の割合が急激に上昇するようになった。90年に30.1%にとどまっていた出生数に占める婚外子の割合は、90年代後半から顕著に上昇するようになり、07年には50.5%と出生数の半分以上が婚外子で占められることとなった。
出生率の低下に苦しむ日本も、フランスの取り組みに学ぶべき点は多いといえるのではないか。すでに議論が始まっている出産費用の無償化については、それが実現すれば、出生率の回復に少なからずプラスの効果をもたらすとみられる。日本の家族手当支給額のGDP比は、03年でわずか0.7%にとどまっており、OECD加盟国平均の2.1%を大きく下回る。財政状態が厳しくなっているとはいえ、少子化対策のコストについては、それを惜しまずに投入することが重要といえるだろう。
また、婚外子についてみると、現在の日本では、結婚をせずに子供をつくると、法律的にも社会的にも差別されるケースが多いことが障害となって、全出生数に占める婚外子の割合は2%程度と国際的にみて非常に小さい数字にとどまる。婚外子を法律的・社会的に差別しない家族制度を導入すれば、婚外子の増加を通じて、出生率が回復する可能性もある。
ただ、日本がフランスと同様の政策を実施したとしても、フランスのように出生率が回復するかどうかは不透明な部分も多い。
フランスにおいて、政府の政策的サポートが十分な威力を発揮することができたのは、もともとフランスでは、(避妊をするかどうかを問わず)国民の多くが、盛んにセックスをしていたという事情があったからだ。つまり、社会の潜在的な部分で子供をつくる準備体制は整っていたのであり、出産・育児の費用が低下したことで、実際に子供をつくるカップルが増えるようになったということだ。
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