【慎武宏コラム】日本に勝ってご満悦の韓国
2008年08月08日10時33分 / 提供:FOOTBALL WEEKLY
8月2日に東京・国立競技場で行なわれた『JOMO CUP』。史上初の日韓プロリーグのオールスター同士が対決した試合は、3−1でKリーグ・オールスターズの勝利に終わったが、その結果に対する韓国側の反応は“ご満悦”だ。
「Kリーグ、韓日オールスターで完勝」(京郷新聞)、「Kリーグ、Jリーグにスッキリ勝利」(文化日報)、「痛快だったトウキョウ・テチョプ(大捷=大勝という意味)」(『スポータル・コリア』)。
さらには「Kリーグに完敗Jリーグ。日本2ちゃんねるは阿修羅場に」と、掲示板でのやりとりを詳しく翻訳掲載するインターネット・ニュースサイトも出たほどである。
イベント性の強いオールスター戦には似つかわしくない、勝ち誇ったようなその論調に、違和感を抱く日本のサッカーファンも少なくないだろうが、裏返せばそれほどまでに韓国が真剣だった証だとも言えるだろう。
実際、Kリーグ・オールスターは入念な準備を敢行。試合前日にわずか1時間の練習だけで本番に臨んだJリーグ・オールスターとは対照的に、7月29日からキャンプをスタートさせ、大学生との練習試合やセットプレーの確認などでチームとしての一体感を高めて来日した。
その取り組みは、まるで代表チームを彷彿させるほどの徹底ぶりだったが、ただでさえ日韓対決となるとライバル心をむき出しにする韓国が、いつにも増して勝負への強いこだわりを見せた背景には、さまざまな事情があった。
ひとつは近年逆転しつつあるJリーグとKリーグの力関係への危機感だ。Jリーグが発足した93年から現在まで、ACLやA3杯を含めたアジア・レベルで雌雄を決したJKクラブ対決の通算成績は、23勝15敗13分けとKリーグが優勢だが、ここ2年間は0勝5敗2分とJリーグ勢にまったく歯が立たない。
しかも、来季ACL改革案発表に伴って明らかになった、ACLアジアプロリーグ特別委員会の各国リーグ評価で下されたKリーグの“格付け”はまさかのB判定。470点で唯一のA評価を受けた1位Jリーグの後塵を拝したことで、メディアには「屈辱」「受悔」「慢心」といった言葉があふれ、ファンたちからも「もはやKリーグは口先だけのアジア最強」と皮肉られる始末。
それだけに7月7日の記者会見のために来日したKリーグ・オールスターのGKイ・ウンジェも、「勝ちたいし、勝たなくてはいけない。Kリーグの実力とプライドを示す」と、必勝の覚悟を隠さなかった。Kリーグは今大会を名誉挽回と汚名返上の機会として捉えていたのだ。
しかも、7月になるとその対抗心をさらに増長させる出来事が起きる。韓国で言うところの“独島(=竹島)問題”である。7月14日、日本の文部科学省が中学生教員の学習指導要領解説書に、竹島領土問題を明記したことで韓国国内の反日ムードが高まり、メディアも今大会を“親善交流試合”として捉えず、「独島の火の粉がサッカーに。韓日プロサッカー運命の勝負」(YTNニュース)などと、日本への対決姿勢を煽った。
そうした過熱報道に扇動された国民感情を選手たちも無視できず、一部の選手が「得点を決めときには独島に関するパフォーマンスを準備中だ」と発言。そのパフォーマンスは、「政治とスポーツを混同してはならず、祝祭の場で相手を刺激するのは良くない。礼儀をわきまえるべき」としたチャ・ボングン監督とKリーグ関係者の念押しで事前に自粛回避されたが、ただでさえ“名誉挽回”と“汚名返上”の使命を課せられ、さらには敏感な政治問題まで背負わされた選手たちの精神的負担は大きかった。
大会前日に話を聞いた、FWチョン・ジョッグッもこう漏らしていたほどだった。
「オールスターというお祭りムードは一切なし。まるでAマッチの韓日戦に挑む代表チームのような雰囲気。胃がキリキリしますよ」
だからこそ、勝利したKリーグ・オールスターの面々の顔は会心の笑みであふれ、Kリーグ関係者の顔にも安堵の表情が浮かんでいた。Kリーグ事務局のパク・ソンギュンも、「Kリーグの面目が保たれ、国民の期待に応えることもできた。これで安心してソウルに帰れます」と、肩を撫で下ろしていたほどである。
そんな本気モード全開のKリーグ勢に、どちらかというと観客を楽しませる“お祭りムード”を意識したJリーグ選抜は泡を食らった感があるが、韓国メディアは「温度差に違いがあった」とは捉えていない。サッカー専門インターネット・メディアの『サッカー共和国』も次のように報じている。
「敗戦後、日本の選手たちは“親善試合と思ったが相手は本気だった”ような趣旨の発言に終始したが、それは弁明に過ぎない。記者席から見るかぎり、むしろ試合に挑む姿勢は日本の選手たちのほうが戦闘的だった。現役日本代表メンバーが7名もプレーした今大会で1−3の大敗を喫しただけに、弁明したい日本側の心情は千回万回理解できるが、敗戦後に日本サッカー協会の犬飼会長が飛ばした“叱咤”は今回の試合の属性を如実に物語ってくれている。通常のオールスター戦なら、負けたからと言って今回のような弁明や叱咤はないものだ。お立ち台に上がったJリーグ選抜の闘莉王の歪んだ表情と“悔しい”と語った反応は、今大会の性格が“遊戯”ではなく、“真剣勝負”であったことをよく表していた」
韓国にも存在する“勝てば官軍”のことわざ通り、まさに“してやったり”といった論調のコリアン・メディア。その安易な論調には筆者も少なからず嫌気を感じるが、すべての韓国メディアが一夜の優越感に浸っているわけでもない。韓国のケーブルテレビ『KBS Nスポーツ』の解説者として試合を中継した元KリーガーでKFA理事を務めるキム・テギル氏は各種メディアのインタビューで言っている。
「敗れはしたが、Jリーグ・オールスターが前半30分間に見せた動きはとても印象的だった。スタジアムを訪れた観客たちに、面白く楽しいサッカーをいかにして披露すべきかを知ることができる機会だった。前半30分間にJリーグ・オールスターが見せた姿を、Kリーグ全14クラブの監督たちはもう一度参考にしなければならない」
勝負に徹した本気のKリーグと、ファンを意識した魅せるサッカーを披露したJリーグ。その姿勢が対照的だっただけに試合そのものへの賛否も分かれるが、これだけは間違いない。
その国民感情とJリーグへの対抗心から、Kリーグは来年も真剣勝負で臨んでくるだろう。それだけに今度はJリーグのリベンジに期待したい。勝った、負けたを繰り返すからこそ、ライバルなのだ。Kリーグの発奮を促すためにも、来年はぜひ本気のJを期待したい。(了)
慎武宏 /Shin Mu Koeng
1971年4月16日、東京都・浅草生まれの在日コリアン3世。主にサッカーを中心とした韓国スポーツに関連する記事を各種メディアに寄稿中。著書に『ヒディンク・コリアの真実』など。大韓サッカー協会公式サイト日本語版も手がけている。
・“死の組”に組み込まれた韓国の不安
・Kリーグから見たJリーグ
「Kリーグ、韓日オールスターで完勝」(京郷新聞)、「Kリーグ、Jリーグにスッキリ勝利」(文化日報)、「痛快だったトウキョウ・テチョプ(大捷=大勝という意味)」(『スポータル・コリア』)。
さらには「Kリーグに完敗Jリーグ。日本2ちゃんねるは阿修羅場に」と、掲示板でのやりとりを詳しく翻訳掲載するインターネット・ニュースサイトも出たほどである。
イベント性の強いオールスター戦には似つかわしくない、勝ち誇ったようなその論調に、違和感を抱く日本のサッカーファンも少なくないだろうが、裏返せばそれほどまでに韓国が真剣だった証だとも言えるだろう。
実際、Kリーグ・オールスターは入念な準備を敢行。試合前日にわずか1時間の練習だけで本番に臨んだJリーグ・オールスターとは対照的に、7月29日からキャンプをスタートさせ、大学生との練習試合やセットプレーの確認などでチームとしての一体感を高めて来日した。
その取り組みは、まるで代表チームを彷彿させるほどの徹底ぶりだったが、ただでさえ日韓対決となるとライバル心をむき出しにする韓国が、いつにも増して勝負への強いこだわりを見せた背景には、さまざまな事情があった。
ひとつは近年逆転しつつあるJリーグとKリーグの力関係への危機感だ。Jリーグが発足した93年から現在まで、ACLやA3杯を含めたアジア・レベルで雌雄を決したJKクラブ対決の通算成績は、23勝15敗13分けとKリーグが優勢だが、ここ2年間は0勝5敗2分とJリーグ勢にまったく歯が立たない。
しかも、来季ACL改革案発表に伴って明らかになった、ACLアジアプロリーグ特別委員会の各国リーグ評価で下されたKリーグの“格付け”はまさかのB判定。470点で唯一のA評価を受けた1位Jリーグの後塵を拝したことで、メディアには「屈辱」「受悔」「慢心」といった言葉があふれ、ファンたちからも「もはやKリーグは口先だけのアジア最強」と皮肉られる始末。
それだけに7月7日の記者会見のために来日したKリーグ・オールスターのGKイ・ウンジェも、「勝ちたいし、勝たなくてはいけない。Kリーグの実力とプライドを示す」と、必勝の覚悟を隠さなかった。Kリーグは今大会を名誉挽回と汚名返上の機会として捉えていたのだ。
しかも、7月になるとその対抗心をさらに増長させる出来事が起きる。韓国で言うところの“独島(=竹島)問題”である。7月14日、日本の文部科学省が中学生教員の学習指導要領解説書に、竹島領土問題を明記したことで韓国国内の反日ムードが高まり、メディアも今大会を“親善交流試合”として捉えず、「独島の火の粉がサッカーに。韓日プロサッカー運命の勝負」(YTNニュース)などと、日本への対決姿勢を煽った。
そうした過熱報道に扇動された国民感情を選手たちも無視できず、一部の選手が「得点を決めときには独島に関するパフォーマンスを準備中だ」と発言。そのパフォーマンスは、「政治とスポーツを混同してはならず、祝祭の場で相手を刺激するのは良くない。礼儀をわきまえるべき」としたチャ・ボングン監督とKリーグ関係者の念押しで事前に自粛回避されたが、ただでさえ“名誉挽回”と“汚名返上”の使命を課せられ、さらには敏感な政治問題まで背負わされた選手たちの精神的負担は大きかった。
大会前日に話を聞いた、FWチョン・ジョッグッもこう漏らしていたほどだった。
「オールスターというお祭りムードは一切なし。まるでAマッチの韓日戦に挑む代表チームのような雰囲気。胃がキリキリしますよ」
だからこそ、勝利したKリーグ・オールスターの面々の顔は会心の笑みであふれ、Kリーグ関係者の顔にも安堵の表情が浮かんでいた。Kリーグ事務局のパク・ソンギュンも、「Kリーグの面目が保たれ、国民の期待に応えることもできた。これで安心してソウルに帰れます」と、肩を撫で下ろしていたほどである。
そんな本気モード全開のKリーグ勢に、どちらかというと観客を楽しませる“お祭りムード”を意識したJリーグ選抜は泡を食らった感があるが、韓国メディアは「温度差に違いがあった」とは捉えていない。サッカー専門インターネット・メディアの『サッカー共和国』も次のように報じている。
「敗戦後、日本の選手たちは“親善試合と思ったが相手は本気だった”ような趣旨の発言に終始したが、それは弁明に過ぎない。記者席から見るかぎり、むしろ試合に挑む姿勢は日本の選手たちのほうが戦闘的だった。現役日本代表メンバーが7名もプレーした今大会で1−3の大敗を喫しただけに、弁明したい日本側の心情は千回万回理解できるが、敗戦後に日本サッカー協会の犬飼会長が飛ばした“叱咤”は今回の試合の属性を如実に物語ってくれている。通常のオールスター戦なら、負けたからと言って今回のような弁明や叱咤はないものだ。お立ち台に上がったJリーグ選抜の闘莉王の歪んだ表情と“悔しい”と語った反応は、今大会の性格が“遊戯”ではなく、“真剣勝負”であったことをよく表していた」
韓国にも存在する“勝てば官軍”のことわざ通り、まさに“してやったり”といった論調のコリアン・メディア。その安易な論調には筆者も少なからず嫌気を感じるが、すべての韓国メディアが一夜の優越感に浸っているわけでもない。韓国のケーブルテレビ『KBS Nスポーツ』の解説者として試合を中継した元KリーガーでKFA理事を務めるキム・テギル氏は各種メディアのインタビューで言っている。
「敗れはしたが、Jリーグ・オールスターが前半30分間に見せた動きはとても印象的だった。スタジアムを訪れた観客たちに、面白く楽しいサッカーをいかにして披露すべきかを知ることができる機会だった。前半30分間にJリーグ・オールスターが見せた姿を、Kリーグ全14クラブの監督たちはもう一度参考にしなければならない」
勝負に徹した本気のKリーグと、ファンを意識した魅せるサッカーを披露したJリーグ。その姿勢が対照的だっただけに試合そのものへの賛否も分かれるが、これだけは間違いない。
その国民感情とJリーグへの対抗心から、Kリーグは来年も真剣勝負で臨んでくるだろう。それだけに今度はJリーグのリベンジに期待したい。勝った、負けたを繰り返すからこそ、ライバルなのだ。Kリーグの発奮を促すためにも、来年はぜひ本気のJを期待したい。(了)
慎武宏 /Shin Mu Koeng
1971年4月16日、東京都・浅草生まれの在日コリアン3世。主にサッカーを中心とした韓国スポーツに関連する記事を各種メディアに寄稿中。著書に『ヒディンク・コリアの真実』など。大韓サッカー協会公式サイト日本語版も手がけている。
・“死の組”に組み込まれた韓国の不安
・Kリーグから見たJリーグ
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