スポーツ中継を殺す「放送の独占」と「過剰演出」
2008年08月07日09時00分 / 提供:日刊サイゾー
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──競技と関係のないタレントが起用されたり(記事参照)、選手に安っぽいキャッチフレーズをつけたりと、スポーツ中継・スポーツ番組のバラエティ化が加速していますね。
倉敷 まず、問題点として挙げられるのは、テレビ局が自社制作をする形ではなくなっている点ですね。大きなお金が発生すると、それを制作会社に投げ、その制作会社がまた下に落とす。最終的には予算がギリギリになり、たいしたものを作れなくなる。上にお伺いを立てれば、スポンサーの縛りが厳しく、自由な番組作りができなくなる。そうなると、てっとり早く低予算で作るために、「装飾品のようなタレント」や「飾り言葉」で取り繕うことになりますよね。
──実際、地上波のスポーツ番組には多くの制作会社が絡んでますよね。
倉敷 中には、スポーツ番組の制作経験がない会社なのに、スポーツものを制作している会社もある。しかも、テレビ局のプロデューサーが制作会社の人に「お前の番組に出してくれ」と前後の番組に出演しているタレントを強引に登場させる。元々、スポーツ中継の場合、放映権が高いので、それに見合った視聴率で元を取りたいという意識が出てきます。だから、タレントで数字を稼ごうとするんじゃないでしょうか。ただ、タレントが入ることが必ずしもダメだとは思いません。『世界陸上』(TBS)の織田裕二さんだって最初はミスマッチに見えても(97年からメインキャスター)、今や欠かせないキャラクターになった。もちろん好き嫌いはあるかとは思いますが、いろいろな可能性があるし、タレント起用だからといって、即座に否定するのも違うんじゃないかなとは思います。
──となると、何が一番の問題になってきますか?
倉敷 まずは「放送の独占化」ですね。高額な放映権を買うと1局独占中継でやりたがるでしょう。すると、他局がその競技のスポーツニュースを配信しなくなるわけです。競技は行われているのに、ほかの局はまったく報道しないなんて、スポーツとしておかしいでしょう? しかも独占したテレビ局の中だけで閉塞しようとするから、“内輪のお祭り騒ぎ”になってしまう。たとえば、ある局にK−1の放映権があるとします。すると、その局のアナウンサーは一生懸命に格闘技の勉強をするわけです。新人アナも将来のために勉強するし、取材にも行く。継続は力なりで、アナウンサーと選手とのコミュニケーションも徐々に取れてきて、格闘技への理解度も上がってきます。ところが、しばらく経つと、放映の権利がパッと別の局に移動してしまうことがあるから、せっかく育ってきたアナウンサーは、一切K−1の実況ができなくなる。これは不幸ですよ。権利を買った局にしたって、またゼロからスタートするわけです。これではスポーツ中継に関わるアナウンサーもディレクターも育たないですよ。
●「スター選手=高試聴率」という制作側の思い込み
──ほかに問題点はありますか?
倉敷 「演出」も大きな問題点です。サッカーW杯の中継でテレビ朝日が「絶対に負けられない戦い」というフレーズを連呼して視聴率を取った。そういった演出自体はいいけれど、他の局までがそのマネをしてしまう。その悪影響がモロに06年トリノ五輪に出てしまいましたよね。各テレビ局が高い権利を買った競技で、メダルなんか取れない可能性が高いのに「この選手がメダルを取る!」なんてフレーズが数多く飛び交って“ウソツキ中継”をやっちゃった。本来、スポーツというのは、「足が速い」というだけで感動的なはずなんです。日本人選手がダメだとしても、織田裕二さんみたいに「スゲー!!」と驚いて感動できるものなんです。にもかかわらず、日本人選手というスポットだけに注目して、結局、誰が勝ったのかわからない中継をしてしまうのは、スポーツ中継、スポーツ文化そのものの退廃ですよ。卓球の愛ちゃんでも、ゴルフの上田桃子さんでも、どんな競技でも日本人が頑張ってプレーするのはもちろん応援しますよ。でも結局、「優勝したのは誰ですか?」ということがサッパリわからない。「日本人のスター選手」を冠にポンと据えれば、視聴率が取れると思っているテレビ局の制作側の考え方が間違っていると思います。
──「放送の独占化」と「演出」の問題点を解決する方法としては、どのようなものが考えられますか?
倉敷 極端な話、全局が同じ競技、同じ試合の放映権を買ってみるのはどうでしょうか。サッカーの「日本対ブラジル」という試合があったら、同時に全局で放送してみるんです。そのときに、はじめてスポーツ中継の質が問われてくる。視聴者にとっては、どの局の中継が良いのか、一目瞭然になりますよね。
──では、倉敷さんのご専門でいらっしゃるサッカーの話ですが、現在の日本代表の過剰演出ともいえる傾向をどう思いますか?
倉敷 かつては、日本代表の試合は、NHKと民放が同じ試合を放映するという形をとっていたので、視聴者にとっては、選択肢が2つあった。今は必ずしもそうではなくなった。民放とNHKの2つで中継してもらえれば、視聴者も二手に分かれるとは思います。
●スポーツ中継は素材が勝負 安い演出なんかいらない
──個人的には、日本代表戦の中継に、過剰な演出はいらないと思うんですがいかがでしょう?
倉敷 結局、スポーツ中継は素材が勝負なんですよ。代表チームが弱ければ、誰も見なくなるでしょう。でも、民放の中継は、素材に過剰な演出を施してしまって、本来の姿を見えなくしてしまっている。選手が足をつっていても「大丈夫です、彼ならやってくれますよ!」なんて実況アナが言ってしまうと、見てる人は「そうなのか」と思ってしまう。視聴者が考えるヒマもなく、テレビが勝手に結論まで言ってしまう。
──たとえば、まったく見たことのない外国人選手であれば、どの国のどのクラブに所属していて、といった基礎的な情報は必要だとは思いますが、「アフリカの○○」「中東の○○」みたいにおかしなキャッチフレーズをつけたりするのは、どうなんでしょう。
倉敷 キャッチフレーズをつけるというのも、演出のひとつですが、あまりに奇をてらいすぎて、何も伝わらない、心に響かないのであれば、やらないほうがいいですよね。わかりやすいキャッチフレーズをつけてしまうのは、数字を稼ぎたいプロデューサーの意向やディレクターの功名心もあるかもしれない。あるいは、事前の取材をしてないから、キャッチフレーズだけつけて、お茶を濁しているという部分もあるでしょう。ただひとつ言えるのは、安っぽい演出のせいで、本来の味すらわからなくなってしまうということ。そのまま食べても美味しい野菜に、安いドレッシングをかけたら、変な味になるのと一緒です。視聴者も、そういうものばかりを見させられていると、“味覚オンチ”になってきますよ。
──昨年、SKY PerfecTV!はJリーグ全試合の5年間の放映権を150億で購入しましたよね。ただ、放映権料に見合う数字は出せていないようで、大赤字という話もあります。ある意味で「十字架を背負った」という見方もできます。正直、スカパーが国内のJリーグをどう盛り立てて行きたいのか、よく見えてこないんですが……。
倉敷 昨年1年目と今年2年目で中継スタイルの方針は変わってきています。1年目はすべての試合をスカパーだけで中継しようとして、地方に点在する各Jリーグクラブの事情に精通している地元放送局のスタッフを使わなかった。これが大きな失敗だったと思います。2年目、つまり今年になって、地元の制作スタッフも中継に参加するようになって、少し良くなりましたね。でも、具体的に言えば、試合中継において、オフサイドやファウルなどの微妙なシーンの扱いやフレーミングなどがバラバラで中継の意思統一がとれていない。違うというのが悪いことではないけれど、中継する上でベーシックに共通しているものは必要だと思うんですよ。ところが実際には、その共有まで行っていないのが現状です。ただ、この“十字架”は背負い甲斐のあるもので、スカパーで仕事をする人にとっては、少なくともこの先3年間は続けて同じ中継に関われるわけです。これまで海外のコンテンツを数多く中継してきたスカパーが、国内のサッカー中継でどういう絵を作っていくかというのは楽しみなところです。たとえば、欧州チャンピオンズリーグ中継のフレーミングやスイッチングをJリーグ中継でもやってみたい、という意識があれば、Jリーグ中継も当然変わってくるでしょう。地上波のスポーツ中継関係者も見てくれている人がいるでしょうし、相乗効果でスポーツ中継全体が向上していくのが理想ですね。
(「サイゾー」7月号より/構成・河治良幸)
●倉敷保雄(くらしき・やすお)
1961年、大阪府生まれ。SKY PerfecTV!やJ SPORTSでサッカー中継の実況アナウンサーとして活躍。ラジオ福島アナウンサー兼プロデューサー、文化放送記者を経てフリーアナウンサーに。愛称はポルトガル語で「名手」を意味する「クラッキ」と苗字の「倉敷」とをかけた「クラッキー」。著書に『実況席より愛をこめて』(徳間書店)、山本浩氏(NHK)との対談集『実況席のサッカー論』(出版芸術社)。
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