サルト・サーキットを疾走する東海大チーム

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   世界的に有名な24時間レース「ル・マン」に、東海大学がチャレンジした。大学チームとして世界初の決勝参戦という快挙。「ル・マンを教室に」という言葉とともに挑んだ"夢のレース"で、彼らが得たものは何だったのだろうか。

「ル・マンはモータースポーツの原点」

   ル・マンは、フランスのル・マン市サルト・サーキットで行われる24時間耐久レース。ポルシェ、フェラーリ、ベントレーなどといった欧州の一流メーカーに加え、日本からも日産やトヨタ、マツダなどが参戦した経験を持つ。

   そのレースの重みについて、東海大チームを率いた同大総合科学技術研究所の林義正教授は次のように表現する。

「長い歴史をもつル・マンはモータースポーツの原点。それに参加することによってモータースポーツ文化の意義を理解する手助けになる」(2007年12月のJ-CASTモノウォッチインタビュー

   今回「東海大学ル・マンプロジェクト」が参戦した第76回大会決勝(2008年6月14日〜15日)では、アウディが5連覇を果たした。日本からワークス・チームとしての参戦はなく、日本人ドライバーが何人か参戦したものの、下位の順位かリタイアに終わり、目立った成績を残せなかった。

   東海大チームは、08年5月中旬に現地入り。マシンセッティング、車検などの日程を消化した後、6月11日から始まった予選も無事にこなし決勝進出を決めた。ただし、予選成績はトップとのタイム差が約35秒の41位と、上位チームと力の差があるのは否めなかった。

   決勝レースでも、開始直後のピットイン時にタイムロスし、順位を大きく落とした。しかし、マシンのコンディションは高く、順調に周回を重ねていった。

スタートから16時間後、無念のリタイア

   トラブルが起き始めたのはレース開始から約10時間後。ブレーキパイプ破損によるオイル漏れが発生し、修理に時間を費やした。その後もブレーキトラブルに見舞われ、数回ピットに戻り修理を受けることになった。

   このトラブルに対応すべく学生たちは奮闘した。だが、ブレーキに気をとられてしまい他の点のチェックがおろそかになり、さらなるトラブルを招く。元日産のエンジニアで、モータースポーツの世界を熟知している林教授だったが、あえて口出しせず、学生たちに任せていたという。

「私なら5分で片付けられることでも彼らは1時間かかってしまう。でも、地獄を見ることが大切だと思っていたので、手を出さず、学生たちにまかせておいたんです。放っておくことも教育です」

   その後もトラブルと戦いながらレースを続けた東海大チームだが、レース開始から16時間後、ギアボックスに生じたトラブルで無念のリタイアとなった。周回数は186周。優勝したアウディの381周の半分にも満たない数字であり、「惨敗」と評価する人も決して少なくはないだろう。

「今回の結果は大成功だと思っています」

   ところが、林教授の感想は違った。「大成功だった」というのだ。戦績だけを見れば、「あの成績で?」と思ってしまうむきもあるかもしれない。だが、林教授にとってル・マンは「勝負の場」である同時に「教室」だった。

「レースのような極限状態の中では、座学で学んだ理論だけでは足らず、経験というものが大きな意味を持ってくる。真剣勝負の場に連れて行き、工学を別の角度から見る機会にすることが狙いだった。その点、今回の結果は大成功だと思っています」

   参加した学生からも、「またとない経験をさせてもらった」「現場で初めて、教授に怒られたことの意味が分かった」などという声が聞かれたという。

   肯定的な評価は、林教授や学生だけにとどまらない。大学チームとして世界で初めてル・マンに挑戦した意義は決して小さくなかった。

「主催者のACOにも『おめでとう』といわれましたし、海外のメディアは大変な熱狂ぶりで取り上げていました。フランスの新聞なんかは写真付の記事を載せたくらいです。とにかくすごく熱狂的でしたね」

   モータースポーツと工学教育を結びつけ、サーキットを実験場とする。この新しい取り組みに対する海外メディアの反響は非常に大きかったようだ。

「ル・マンに出場したい」と他大学からも問い合わせ

   一方、日本でも帰国後、大きな反応があったという。

「日本での反響もそれなりに大きいものだったと思います。よその大学からも『自分の大学でもル・マンに出場したいのだがどうしたらよいか』というような問い合わせがいくつかありました」

   対外的にも大きな反響が寄せられた東海大学のル・マン参戦。果たして来年は?

「来年に関してはマル秘です(笑)。実際のところ未定なんです。ただ、もし来年も参加するとしたら、今年と同じことをするだけではいけませんね」

   教育の舞台としてル・マンを選んだ教授の視線は、すでに先を見据えていた。史上初の参戦という、いわば0から1を作る試みを成し遂げた「ル・マン教室」の卒業生たちが、これからエンジニアとしてどのようなモノを作り出していくのか。今から楽しみである。

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