チャビのスルーパスから決勝ゴールを奪ったF・トーレス<br>【photo by Witters/PHOTO KISHIMOTO】

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 チャビから出た100点満点のスルーパスを右足のインサイドに収めたフェルナンド・トーレスは、ラームのプレッシャーを外側(右側)から受けながらも、ボールを内側(左側)に持ち出し、シュートの態勢をうかがおうとした。

 フェルナンド・トーレスの利き足は右足だ。できればシュートは右足で狙いたい。しかし自身の右サイドには、小柄なラームが執拗にまとわりついている。右足が自由に使えない窮屈な状態に陥っていた。

 そこで下したフェルナンド・トーレスの決断が、スペインをユーロ優勝に導いた要因の一つであることは間違いない。瞬間、彼はラームに先を行かせ、その外側に取り直した。差し足鋭い競走馬が、最後の直線で内を突いたものの、前方にコースが開けていないため、大外に持ち出し、追い込みを図る姿とよく似ている。

 フェルナンド・トーレスは、土壇場で外に回りスピード勝負に出た。そして瞬く間にラームを差しきり、飛び出してきたGKレーマンの肩越しに、繊細なタッチの、ふわりとしたシュートをお見舞いした。

 決勝ゴールとなった前半3分のこのシーンは、VTRで何度見ても飽きることはない。ゴールネットにボールが心地良さそうに吸い込まれていく姿に、フェルナンド・トーレスのストライカーとしての才覚が、凝縮されていたような気がする。

 もちろん、ラストパスを差し出したチャビの中盤選手としての才能にも恐れ入る。ボールを受けるや、間髪入れずに、ここしかないというコースに、絶妙なラストパスを送り込むボール操作術身にも、感動させられた。

 最高級の瞬間芸が、連続した結果、スペインは決勝ゴールを叩き込むことに成功した。しかし背景に、それら以外の要素が絡んでいたことも見逃せない事実だ。

 なぜあのスルーパスが決まったか。それを語るときに欠かせないのが、攻撃の幅になる。十分な幅が保たれていたからこそ、固いDFの門が開いた。スルーパスのコースが生まれたのである。

 試合前に危惧されたのは、スペインのサイドハーフ(シルバとイニエスタ)が、内に入り込む癖だった。少なくとも準決勝のロシア戦まで、その傾向は大だった。決勝の相手であるドイツは、ポドルスキーとシュバインシュタイガーが、サイドから攻撃を仕掛けてくるサッカーをするチーム。よって、スペインのサイドハーフが内に入ってしまえば、ドイツは自慢のサイド攻撃を仕掛けやすくなる。試合はドイツ有利に進む。というわけで、スペインの2人のサイドハーフが、外に開けるか 否かが、試合の鍵を握っていた。

 しかし、スペインに対する心配は、杞憂に終わった。4-1-「4」-1の布陣を敷くスペインは、準決勝同様、サイドハーフがキチッと幅を保つべきポジショニングに徹したのだ。だから、真ん中が空いた。逆にそこにスペースが生まれた。決勝ゴールはその産物と言える。

 それはまさに、日本がお手本とすべきサッカーである。スペインも日本も、レベルに違いあるが、中盤に優秀な人材が多いと言われる国だ。彼らをどう効率的に並べるかが問われている。中でも、焦点になるのはサイドハーフだ。イニエスタ、シルバの姿は、中村俊輔、遠藤保仁、松井大輔らと重なって見える。松井はともかく、中村と遠藤は、できれば内でプレイしたいゲームメーカータイプだ。特に中村の内への意識は高い。セルティックでは4-2-「3」-1の「3」の右サイドに収まっているが、日本代表では、その鬱憤を晴らそうとしているのか、同じ布陣で戦った場合でも、気がつけば内に入ってプレイしている。

 それとともに、幅はどんどん狭くなる。スルーパスの難易度も、同様に高くなる。それなりに力を持った相手と戦えば、9割方失敗に終わる。そしてその瞬間、日本の右サイドは不在だ。相手に突かれやすい状況にある。中村が中に入り、ボールをカットされた瞬間というのは、日本にとって、かなりピンチな状況にあるといえる。