【慎武宏コラム】“死の組”に組み込まれた韓国の不安
2008年06月30日12時01分 / 提供:FOOTBALL WEEKLY
南アフリカW杯アジア最終予選の組み分け抽選会の結果が発表になってからというもの、携帯電話のベルが鳴り止まなかった。そのほとんどが「通知不可」。海を隔てた韓国からのもので、誰もが皆、ため息をつきながら気落ちした声でこう呟いた。
「韓国は“死の組”だ。日本がうらやましい」
実は前日の6月26日。彼らはまったく違った反応を示していた。6月22日の南北戦を取材したあともソウルに残り、韓国で取材を続け、日本へ戻る飛行機に乗る直前に旧知の韓国人記者数名と昼食を取りながら今回のアジア最終予選抽選会の行方を占ったのだが、彼らは日本の一部メディアで報じられた「韓国と同じ組なら死の組」との報道を「受け止め方が僕たちのまったく逆だ」と笑いながら、こう言っていたのである。
「韓国は日本と同じ組がいい。そうなったほうが盛り上がるし、君も日本で仕事が増えるだろ(笑)。むしろ韓国が絶対避けたいのは、サウジとイランさ。韓国は中東勢を苦手にしているからね。ふたつと同国になるのが最悪のシナリオだよ」
その最悪のシナリオが現実のものとなってしまった。韓国が振り分けられたのは、UAE、北朝鮮、サウジアラビア、イランと同じグループB。韓国にとってはまさに“死の組”である。
過去の対戦成績を知ると、彼らの気が重くなる理由がわかる。70年代以降のAマッチ戦績を見ると、イランとは3勝4敗4分け、サウジとは1勝3敗4分けといずれも韓国が負け越している。
しかも、アウェイでイランから勝利を奪ったことは一度もなく、サウジとは前回W杯アジア最終予選で2連敗。韓国がサウジに勝ったのは、89年10月まで遡らなければならないのだ。
そんな苦手な2か国に加え、政治的に複雑な関係にあり、何かとストレスが溜まる北朝鮮と、3次予選に続き再び戦わねばならないのだから、頭が痛くなるのは当然だろう。挙句のあてには、電話口でこう嘆く記者もいたほどである。
「対戦国の手ごわさもさることながら、今のチーム状況では2位通過どころか、ヘタすれば3位確保も難しいかもしれない。戦わずして7大会連続ワールドカップ出場に“黄色信号”が灯る、韓国サッカー史上最悪の危機だ」
その言葉は決して大袈裟には聞こえなかった。というのも、久しぶりの自国人監督として7年ぶりに代表監督復帰したホ・ジョンムだが、その評判は決して芳しくない。
結果は残している。今年1月30日のチリ代表との親善試合から6月22日に行なわれたW杯アジア3次予選・北朝鮮戦までのAマッチ成績は4勝4分け1敗。就任第一戦となったチリ戦こそ0−1で敗れたが、2月の東アジア選手権では優勝し、3次予選は北朝鮮と勝ち点12で並んだものの、得失点差で上回り、1位通過を果たした。
ただし、その内容は乏しく、メディアやサポーターからの不満や失望の声が絶えない。筆者も1月のチリ戦や東アジア選手権、さらにはソウルで行なわれたW杯3次予選3試合(上海での南北戦を含めると4試合)をこの目で見守ったが、韓国代表の戦いぶりには不安ともどかしさが募るばかりだ。
例えば攻撃力の低さだ。10試合で15得点しているが、そのうち3得点がPKで4得点がFKやCKといったセットプレーからの得点。試合の流れの中で決めた得点は少なく、相手の陣形を崩すようなチャンスメイクも少ない。
ホ・ジョンム監督はチリ戦と東アジア選手権の日本戦以外は3トップを採用しているが、ワントップは孤立気味で左右ウィングの動きも単調だ。ポジションチェンジなどを試みるものの、その動きに戦術的な意図やアイディアを感じられず、徹底的に守りを固めてくる相手にはむしろチーム全体がフリーズしてしまう。
引いて守る相手に打開策を持たないチームは、終盤になると後方から最前線にボールを放り込むパワープレー一辺倒になってしまう。その一途というか無策にも映るサッカーからは、10年前の韓国サッカーを見ているような落胆を覚えるほどだ。
ディフェンスに関しても、長所よりも短所のほうが目に付く。前任者のピム・ファーベック時代の韓国は安定した4バックがひとつの特長だったが、同じく4バックを採用するホ・ジョンム韓国の守備にかつてのような安定感はない。
象徴的だったのは、5月のヨルダン戦だ。格下をホームに迎えてキッチリ先制し、後半開始には追加点を挙げるが、そこから立て続けに2失点を許してしまった。それも相手陣内で奪われたボールを縦パス一本でつながれての失点。昨年のアジアカップ以降、センターバックを務めるカン・ミンス以外は若くて経験が浅く(カン・ミンスもまだ23歳・Aマッチ15試合)、彼とコンビを組む相手も日替わりで、なかなか定まらないことがその原因だろうが、ヨルダン戦ではその呆れるほどの脆さに、記者席や観客席が唖然となったほどだった。
そうした攻撃や守備の問題はチームとしての練習時間の少なさが原因であることは明らかだっただけに、1か月近い合宿が可能となった6月の3次予選期間中に改善するのではと期待されたが、6月22日の北朝鮮戦でその兆しを発見することはできなかった。むしろ欠場したパク・チソン、イ・ヨンピョ、ソル・ギヒョンらプレミアリーガーたちの存在感を再確認させられるほど、今の韓国代表は海外組への依存度が強く、その一方で彼らの調子が悪ければチームも機能しなくなるジレンマも抱えている。
攻撃力不足、守備力不足、海外組への依存症。韓国代表は数々の問題を抱えているのだ。
そして、そんな問題を抱えたまま、韓国は“死の組”を戦わねばならず、その対戦スケジュールもかなり厳しい。
初戦は3次予選でも2引き分けと勝てなかった北朝鮮。それも、政治的問題が絡らみナーバスにさせられる北朝鮮ホームだ。終盤には6月には中東勢との3連戦が待ち受けている。イランとサウジとのアウェイ戦を苦手としているだけに、最悪の場合、6月決戦を前に韓国のW杯進出の可能性が消滅している可能性も十分にありうるのだ。10年来の付き合いの専門誌記者も言った。
「そうなった場合は、7大会連続ワールドカップ出場を逃したホ・ジョンム監督は逆賊となり、韓国のサッカー人気そのものが衰退しかねないだろう。当然、サッカー専門誌も廃刊だ。来年の今頃は新しい職場を探しているかもしれないな」
冗談とも本音とも受け取れるような深刻な声で呟いたその言葉が、重くのしかかってくる。先行き不安な上に、史上稀に見ぬ過酷な戦いが待ち受ける韓国。眠れぬ夜は今まさに、始まったばかりだ。(了)
慎武宏 /Shin Mu Koeng
1971年4月16日、東京都・浅草生まれの在日コリアン3世。
主にサッカーを中心とした韓国スポーツに関連する記事を各種メディアに寄稿中。
著書に『ヒディンク・コリアの真実』など。大韓サッカー協会公式サイト日本語版も手がけている。
<関連コラム>
・Kリーグから見たJリーグ
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実は前日の6月26日。彼らはまったく違った反応を示していた。6月22日の南北戦を取材したあともソウルに残り、韓国で取材を続け、日本へ戻る飛行機に乗る直前に旧知の韓国人記者数名と昼食を取りながら今回のアジア最終予選抽選会の行方を占ったのだが、彼らは日本の一部メディアで報じられた「韓国と同じ組なら死の組」との報道を「受け止め方が僕たちのまったく逆だ」と笑いながら、こう言っていたのである。
「韓国は日本と同じ組がいい。そうなったほうが盛り上がるし、君も日本で仕事が増えるだろ(笑)。むしろ韓国が絶対避けたいのは、サウジとイランさ。韓国は中東勢を苦手にしているからね。ふたつと同国になるのが最悪のシナリオだよ」
その最悪のシナリオが現実のものとなってしまった。韓国が振り分けられたのは、UAE、北朝鮮、サウジアラビア、イランと同じグループB。韓国にとってはまさに“死の組”である。
過去の対戦成績を知ると、彼らの気が重くなる理由がわかる。70年代以降のAマッチ戦績を見ると、イランとは3勝4敗4分け、サウジとは1勝3敗4分けといずれも韓国が負け越している。
しかも、アウェイでイランから勝利を奪ったことは一度もなく、サウジとは前回W杯アジア最終予選で2連敗。韓国がサウジに勝ったのは、89年10月まで遡らなければならないのだ。
そんな苦手な2か国に加え、政治的に複雑な関係にあり、何かとストレスが溜まる北朝鮮と、3次予選に続き再び戦わねばならないのだから、頭が痛くなるのは当然だろう。挙句のあてには、電話口でこう嘆く記者もいたほどである。
「対戦国の手ごわさもさることながら、今のチーム状況では2位通過どころか、ヘタすれば3位確保も難しいかもしれない。戦わずして7大会連続ワールドカップ出場に“黄色信号”が灯る、韓国サッカー史上最悪の危機だ」
その言葉は決して大袈裟には聞こえなかった。というのも、久しぶりの自国人監督として7年ぶりに代表監督復帰したホ・ジョンムだが、その評判は決して芳しくない。
結果は残している。今年1月30日のチリ代表との親善試合から6月22日に行なわれたW杯アジア3次予選・北朝鮮戦までのAマッチ成績は4勝4分け1敗。就任第一戦となったチリ戦こそ0−1で敗れたが、2月の東アジア選手権では優勝し、3次予選は北朝鮮と勝ち点12で並んだものの、得失点差で上回り、1位通過を果たした。
ただし、その内容は乏しく、メディアやサポーターからの不満や失望の声が絶えない。筆者も1月のチリ戦や東アジア選手権、さらにはソウルで行なわれたW杯3次予選3試合(上海での南北戦を含めると4試合)をこの目で見守ったが、韓国代表の戦いぶりには不安ともどかしさが募るばかりだ。
例えば攻撃力の低さだ。10試合で15得点しているが、そのうち3得点がPKで4得点がFKやCKといったセットプレーからの得点。試合の流れの中で決めた得点は少なく、相手の陣形を崩すようなチャンスメイクも少ない。
ホ・ジョンム監督はチリ戦と東アジア選手権の日本戦以外は3トップを採用しているが、ワントップは孤立気味で左右ウィングの動きも単調だ。ポジションチェンジなどを試みるものの、その動きに戦術的な意図やアイディアを感じられず、徹底的に守りを固めてくる相手にはむしろチーム全体がフリーズしてしまう。
引いて守る相手に打開策を持たないチームは、終盤になると後方から最前線にボールを放り込むパワープレー一辺倒になってしまう。その一途というか無策にも映るサッカーからは、10年前の韓国サッカーを見ているような落胆を覚えるほどだ。
ディフェンスに関しても、長所よりも短所のほうが目に付く。前任者のピム・ファーベック時代の韓国は安定した4バックがひとつの特長だったが、同じく4バックを採用するホ・ジョンム韓国の守備にかつてのような安定感はない。
象徴的だったのは、5月のヨルダン戦だ。格下をホームに迎えてキッチリ先制し、後半開始には追加点を挙げるが、そこから立て続けに2失点を許してしまった。それも相手陣内で奪われたボールを縦パス一本でつながれての失点。昨年のアジアカップ以降、センターバックを務めるカン・ミンス以外は若くて経験が浅く(カン・ミンスもまだ23歳・Aマッチ15試合)、彼とコンビを組む相手も日替わりで、なかなか定まらないことがその原因だろうが、ヨルダン戦ではその呆れるほどの脆さに、記者席や観客席が唖然となったほどだった。
そうした攻撃や守備の問題はチームとしての練習時間の少なさが原因であることは明らかだっただけに、1か月近い合宿が可能となった6月の3次予選期間中に改善するのではと期待されたが、6月22日の北朝鮮戦でその兆しを発見することはできなかった。むしろ欠場したパク・チソン、イ・ヨンピョ、ソル・ギヒョンらプレミアリーガーたちの存在感を再確認させられるほど、今の韓国代表は海外組への依存度が強く、その一方で彼らの調子が悪ければチームも機能しなくなるジレンマも抱えている。
攻撃力不足、守備力不足、海外組への依存症。韓国代表は数々の問題を抱えているのだ。
そして、そんな問題を抱えたまま、韓国は“死の組”を戦わねばならず、その対戦スケジュールもかなり厳しい。
初戦は3次予選でも2引き分けと勝てなかった北朝鮮。それも、政治的問題が絡らみナーバスにさせられる北朝鮮ホームだ。終盤には6月には中東勢との3連戦が待ち受けている。イランとサウジとのアウェイ戦を苦手としているだけに、最悪の場合、6月決戦を前に韓国のW杯進出の可能性が消滅している可能性も十分にありうるのだ。10年来の付き合いの専門誌記者も言った。
「そうなった場合は、7大会連続ワールドカップ出場を逃したホ・ジョンム監督は逆賊となり、韓国のサッカー人気そのものが衰退しかねないだろう。当然、サッカー専門誌も廃刊だ。来年の今頃は新しい職場を探しているかもしれないな」
冗談とも本音とも受け取れるような深刻な声で呟いたその言葉が、重くのしかかってくる。先行き不安な上に、史上稀に見ぬ過酷な戦いが待ち受ける韓国。眠れぬ夜は今まさに、始まったばかりだ。(了)
慎武宏 /Shin Mu Koeng
1971年4月16日、東京都・浅草生まれの在日コリアン3世。
主にサッカーを中心とした韓国スポーツに関連する記事を各種メディアに寄稿中。
著書に『ヒディンク・コリアの真実』など。大韓サッカー協会公式サイト日本語版も手がけている。
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