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イージス艦「あたご」事故は、戦時をにらんだ組織再編のための策謀か・・・

イージス艦「あたご」事故は、戦時をにらんだ組織再編のための策謀か・・・
防衛省のホームページより引用。
【PJ 2008年06月30日】− 2月に起きた海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故は24日、当直士官2人を書類送検し、「一つの区切り」(石破茂防衛相)が付けられた。マスコミは事故直後から、自衛隊を取り巻く安全軽視の姿勢や情報の収集・伝達の遅れを挙げ、防衛庁の体質そのものを厳しく批判してきた。報道に促される形で、戦時に対応する防衛体制が整えられ始めた。事故はまるで、この流れを想定していたかのようだ。

事故が後押しした防衛省改革
 事故は同年2月19日早朝に起きた。「あたご」の見張り員が右側から来る漁船の灯火に気付いたが、12分後に衝突。漁船の船体は真っ二つに折れ、乗組員の親子は行方不明になったとされる。

 マスコミは自衛隊や防衛省の発表の食い違いをやり玉に挙げた。当初、防衛省は事故の1分前に漁船に気付いたが、航海長が「衝突まで気付かなかった」と発言。見張り員による確認があったが当直士官への伝達が行われなかった可能性があるなど、二転三転する説明を指弾した。また、事故の報告に1時間以上もかかったと嘆く石破大臣のコメントを宣伝し、海上保安庁への報告前に航海長を本省に呼んで事務次官や統合幕僚長ら幹部と事情聴取を行っていたことを批判した。

 こうした一見反体制的な大報道は、在日米軍再編の下で進められている防衛省の組織改革の追い風となった。石破大臣は事故が起こる前の1月下旬時点で、防衛省の内局(背広組)と自衛隊各幕僚監部(制服組)に分かれている本省組織を見直し、「防衛力整備」「作戦」「渉外」の3局に再編成する構想を示していた。背広組と制服組を一本化するもので、双方から強い反発が予想されていた。事故が起きたのは「防衛省改革推進チーム」が発足する予定日だった。事故により、組織変更はより抜本的な内容に改められた。

 「あたご」の事故を受けて自民党防衛省改革小委員会が4月下旬に示した提言は、有事の際の部隊運用を迅速に行えるようにするため、背広組中心の内局「運用企画局」を廃止し、統合幕僚監部に部隊運用の機能を一元化する内容になった。有事への即応のため、総理大臣秘書官に防衛省出身者を起用するほか、防衛大臣を補佐する防衛参事官については今回の事故で登庁しない参事官が出るなどしたため、これを廃止し、民間人も起用する「大臣補佐官」を設けるとしている。これでは、軍部の独走を促すようなものではあるまいか。

 説明が錯綜(さくそう)したことを受け、広報部門は組織改革に先行して実施が検討されている。石破大臣は「大勢の人間がそれぞれの立場で記者会見するのが本当にいいんだろうか」などと述べ、陸・海・空の各幕僚が週1回開いている会見を減らす案も浮上。4月下旬に開かれた「抜本的対策検討会議」では、「情報を集約する指揮所を作り、関係者が共有する体制を作るべき」との意見が複数の出席者から出されたという。これは大本営設置を思い起こさせる。

相次いだ省内不祥事の謎
 防衛省の組織改革は、「あたご」の事故の前から起きていた幾つかの不祥事が議論の端緒になったとされている。2007年に起きたイージス艦情報流出事件や護衛鑑「しらね」の火災、インド洋での給油量訂正隠ぺい、防衛装備品をめぐる守屋武昌前事務次官の逮捕があった。しかし、不可解な点が多い。「しらね」の火災原因は無許可で持ち込んだ保冷温庫の加熱が疑われていたが、最終的に「原因特定はできなかった」と結論づけられている。装備品納入に絡む汚職を受け、2009年度から海外メーカーからの調達では窓口を一本化した輸入統括部門を新設し、商社を介在しない直接契約を増やす改革案を公表した。しかし、価格はそれだけの労働力を購買する。国内の商社なら、景気対策にもなるはず。

 守屋被告は1250万円相当の接待や現金などを授受したと起訴されているが、本人は公判でこの額を否定している。マスコミはいくらか報じないが、微々たる可能性もある。米国がわが国に防衛装備品の直接購入を迫っていることは在日米国商工会議所(ACCJ)の『ビジネス白書 共生相利』(2006年刊、原題は“Business White Paper: "Working Together, Winning Together")で一目瞭然(りょうぜん)だ。

 しかし、海外との直接契約など、節約になるか疑わしい。自衛隊が米国政府から購入している装備品(有償軍事援助:FMS)のうち、引き渡しが滞っているものの総額(未精算額)は1996年時点で3100億円にも及ぶ。これは朝日新聞が1997年11月10日の朝刊1面で明かしている。検察が主張する守屋前次官の収賄額など問題にならない額だ。現在、装備品の総額は3倍強に増しているから、この額が増えている可能性もある。米側による装備品未納問題はその後続報もなく、他メディアにも一切触れられたのを見聞きしていない。まだ記者の署名がない時代だったが、この記者は生きているのだろうか。

 数年前、筆者は在京米国大使館に勤務する韓国系米国人男性と昼食を共にする機会があった。彼は恐らくCIA要員(Case Officer)だが、日本の構造改革が遅いとぼやかれたので、この話を出したら「何で知ってる」と驚かれた。わが国最大の朝刊に載ったのに、秘密事項なのだろうか。

 ちなみに米国は、このままFMSを廃止するつもりかもしれない。先のACCJの文書には、FMSの手続きの煩雑性を指摘し「日本が好機を生かせるタイミングに対応できないこともある」と記述している。

不可解な衝突とタイミングのよさ
 消極的な空気に包まれていた改革が動き出す契機となった「あたご」事故のタイミングは、絶妙である。米軍の再編が進む中、『防衛計画の大綱』が抜本改定される矢先でもあった。中国の軍備増強をにらんだもので、5年ぶりに基本政策や防衛力整備の水準などを見直す内容になっている。本当に「あたご」の事故は偶然だったのか。

 最新のレーダーを搭載しているのに、直前まで気付かないことなどあるだろうか。漁船のレーダーですら、11キロ手前から「あたご」を補足していたと証言されている。「あたご」では乗組員10人が見張りに当たっていたと発表されている。まして、中央から真っ二つなどというのは、双方が申し合わせでもしなければ無理ではあるまいか。2週間後、海洋調査船「なつしま」が海底1840メートルで見つけたとする「清徳丸」の旗の写真が新聞に掲載された。しかし、水は澄んでいて旗やさおも鮮明。魚も映っていない。この「ボンデン」と呼ばれる漁具は目印として浮かべて使うものらしいが、なぜ海底に沈んでいるのか。親子2人は船体が引き揚げられても一切手掛かりのないまま、5月に死亡認定された。

 マスコミは真っ先に浮かぶこれらの疑問に一切応えず、組織上の不備を糾弾し、外国が望む組織改革を後押ししている。事故の悲惨さと漁船の親子の人柄のよさを執拗(しつよう)にまくし立てることも、これを促す。

 不祥事を受けての問題のすり替えは、改革によく利用される。1994年に細川内閣の下で導入された小選挙区制は、一票の格差をめぐって違憲判決が相次いだのがきっかけ。マスコミの貢献で、選挙制度を見直そうとの気運が高まった結果だった。阪神大震災は建築基準法改正の契機になった。仕様規定から性能規定に転換した結果、倒壊しやすい建物が大繁殖した。航空トラブルの宣伝は外資系ファンドへの門戸開放を通じ、危険性を高める合理化を促した。食の危険性連呼は既存の規制体系を米国の要求に基づいて見直し、食卓を危険にさらそうとしている。あなたは改革勢力が事件を「利用した」と考えるだろうか。歴史を振り返れば、改革を求められているときになぜか事件は起きる。

 石破防衛大臣には「あたご」の事故前、野党内から辞任論がわき起こっていた。相次ぐ不祥事の責任を問われてのことである。それが事故で逆転。3日遅れた「改革推進チーム」の発足は、首相が指示する大仕掛けとなって世論の強い後押しを受けた。しかし、改革が目指す姿は、わが国を危険にさらし、国民を戦場に駆り立てる以外の何ものでもない。

 乾坤一擲(けんこんいってき)、改革に向かった石破大臣には、ご褒美がもたらされた。4月初め、記者会見で「キャンディーズ」の解散について熱弁を振るい、マスコミで一斉に取り上げられた。「政治家、背広組、制服組が『いつも一緒にいたいね』というのが多くの人の共感を得るのではないか。ハーモニーが大事」との発言が、らしからぬ笑顔と共にカラーで新聞掲載される。「普通の役所に戻りたい」との言葉も記事にあったが、素人のフレーズとは思えない。こんな冴(さ)えた大臣なら、漁船親子の所在を知っていてもおかしくない。【了】

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パブリック・ジャーナリスト 高橋 清隆【 神奈川県 】
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